似てる二人
GW3日目。
きのう旅行から帰って来て、今日は鳴ちゃんとツキノンと遊ぶ約束をしている。
でもあたしは内緒でもう一人呼んだんだよね。
鳴ちゃんと一緒に待ち合わせ場所の駅に向かうと・・・
「キャロさん、鳴様」
碧衣さんが立っていた。さすが碧衣さん。あたしたちも今日は早めに来たのにそれよりも早く来ているなんて、らしいと言うか。
「あれ?何で碧衣さんが?」
「あたしが呼んだの」
ある目的の為に・・・。
「へ~びっくりした。けど人数多い方が楽しいしね♪ってかおれのこと様とか付けなくていいよ」
「え・・・でも・・・」
真面目な碧衣さんはとまどっている。
「これはご主人命令だよ」とにっこり笑う。
そう鳴ちゃんが言うとハッとした顔をして
「は、はい分かりました。では鳴くんと呼ばせてもらいます」
さすが鳴ちゃん!碧衣さんの性格をよく見て言葉を選んでる。
そんな風に言われたら、さすがの碧衣さんでも言うことを聞くしかないもんね。
「うん!じゃあおれは碧衣ちゃんって呼ぶね」
「えっ!ちゃん付けですか・・・」と碧衣さんは少し抵抗を感じてるみたい。
「ダメ?」と鳴ちゃんがかわいい顔で碧衣さんを覗き込む。
「い、いえ・・でもできれば・・・君付けで読んでもらえないでしょうか?」
「女の子なのに?」と鳴ちゃんが驚いた顔で言う。
「はい、その方が違和感感じないので」
そうなんだ・・・やっぱりちょっと変わってる。
あまり女の子らしいのが好きじゃないのかな?執事服を着るのもそうだし、今日も黒いパンツに、白のロンT、その上に黒のジャケットを着ていて、かわいいとは反対のカッコイイ格好をしてる。
けどさすがに女の子に君付けで呼ぶのは、なんか違和感が・・・。
「じゃあ碧衣っちて呼ぶのはどう?ちなみにあたしのことはキャロでいいし、同じ年なんだからタメ口でいいよ」
「えっ二人って同じ年なの?!」
と鳴ちゃんが目を丸くして驚く。
そんな驚かなくても~!
「碧衣っちは年相応に見えるけど、キャロは見た目中学生だからなぁ」
「も~!またそんな失礼なこと言ってー!」
「あはは、だってほんとのことだし~」と鳴ちゃんはまたいつものようにかわいい顔で笑う。
「若く見られる方が絶対得ですよ。じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。」
「うん!」
あたしたちが和やかに話してると・・・
「遅れました!すみません」とツキノンがやって来た。
今日も黒装束に身をつつみ、エンジ色のネクタイがまるで血のようにも見える・・・。
「ツキノン遅刻~!」と鳴ちゃんが冗談っぽく怒る。
「すみません!・・・ってあれ?珍しい顔がいてますね」
「うん、あたしが呼んだの」
ツキノンと仲良くなってもらう為にね!
だって碧衣っちはツキノンと仲良くなる努力を心からしようとしてるのにツキノンはずっと演技するなんてそんなのやっぱりダメだよ。
碧衣っちは感情をあまり表に出さなくて、人付き合いがちょっと苦手なだけで全然悪い子じゃない。
だからツキノンも碧衣っちのこともっと知ったら、きっと自ら仲良くしたいと思うようになるはず!
ツキノンは疑うような目でこっちをじっと見た。
あたしはその視線を振り切るように、
「じゃ、みんなそろったしカラオケにレッツゴー!」とみんなに向かって声を掛けた。
そしてカラオケが始まり・・・
このメンバーでカラオケに行くの初めてなんだけど、ツキノンと碧衣っちが歌めちゃくちゃうまくてびっくりした!
特に好きな歌を歌うときはもう自分の歌みたいに完璧に歌い切る。
その後ボーリングに行ったんだけど、また二人が群を抜けて上手で、最後の方は二人の一騎打ちみたいになってた。
なんだかツキノンと碧衣っちって似てる・・・。
けどその『似てる』がダメだったみたいで、
「月野くん、次のゲームでは負けないよ」
「僕も負けません」
二人ともゴォォォと闘志を燃やしていて、まるでライバルみたいになって張り合ってる・・・。
これは予想外な展開かも!!
これじゃあ仲良くなるどころか・・・敵対しちゃってる?!
「今日は楽しかったね~」と隣に座ってる鳴ちゃんが満足気に言った。
時刻はもう夜。
今あたしたちは居酒屋さんにいる。
鳴ちゃんは未成年なので、あたしたちが保護者ってことで許可をもらった。最近の居酒屋さんはお店によってはちゃんと年齢確認するところがあるみたい。
居酒屋とか久しぶりかも。
お酒をあまり飲まないせいかめったに行かない。
それぞれお酒を頼んで(鳴ちゃんはノンアルコールカクテル)乾杯をした。
んーーーおいしい♪あたしが頼んだのはカシスミルク。
久々に飲むと余計においしく感じる。
ツキノンと碧衣っちはあたしの対面に隣同士で座ってて、二人とも赤ワインを飲んでる。
お酒の好みも同じみたいだし、もしかして・・・
「赤ワイン追加で」
その言葉がこの後立て続けに起こる。
あたしの予想はどうやらあたったみたい。
この二人、かなりの酒豪だ!!
それでまた張り合うように飲んでるし・・・
「あんなに飲んで大丈夫かな?」とさすがに鳴ちゃんも心配してる。
もう二人とも10杯近くは飲んでるような・・・。
「キャロ、全然飲んでないじゃない。ほらこれあげる」
とあたしの前に座ってる碧衣っちが飲みかけの赤ワインを差し出してきた。
碧衣っち酔い始めた?!!
なんかからんでき始めたよ~~~!
「ほらー飲んで飲んで」
「あ、碧衣っち、あたしあんまりお酒強くなくて・・・」
「何?私の言うことがきけないわけ?」
うっ・・・まさか・・・
Sの碧衣っちになってる??
だって表情もいつもと違って鋭い目になってるし、時折不敵に笑うし・・・
怖いよ~~~!
「鳴ちゃーん」
あたしは鳴ちゃんに助けを求めた。
「二人とももうそれでストップにしなよ。」
「えー」とツキノンと碧衣っちが声を合わせて反論する。
こういうときだけ気が合うんだな。
「ご主人様の命令だよ。きかないとク・ビだからね!」
鳴ちゃんー!なんだかとてもたくましく見えるよ。
「ちぇ~ご主人様の命令だけはきかないとな~」と碧衣っちがおもしろくなさそうに言う。
酔ったらこんな風になっちゃうんだ・・・びっくりだよ。
お酒ってある意味怖いな・・・。
「そう言えばキャロさん旅行はどうでした?」
ツキノンは碧衣っちと違って、いつもとあまり変わらない。
口調も普通だし・・・。
「え?知ってたの?」
「鳴くんから聞きました」
もう鳴ちゃんってばお喋りなんだから!
まぁ喋られて困ることでもないけど・・・でも・・・。
「普通に楽しかったよ」
この話題はあまり深くツッコまれると困るからあまり聞かれたくないっていうか・・・。
「へ~温泉に行ったんでしょ?混浴ですか?」
ボっとあたしの顔から火が出る。
ほら~~!やっぱり!!
ってかやっぱりツキノン酔ってるみたい。普段だったらみんなが居る前でこういうこと聞いてこない気がする。
「違います~!」とあたしは必死にウソを付いた。
なんとか話題変えなくちゃ。
「GWみんなはどこか遠出したりしないの?」
「私は一人で旅行行くよ~」と碧衣っち。
「一人で?カッコいいね」と鳴ちゃん。
「ちなみにどこに?」とツキノン。
ほっ・・・
なんとか話題をそらせたみたい。
危ない危ない。旅行のことは二人だけの秘密にしたいからなるべく話したくないんだよね。
そうして2時間ぐらい経ち、あたしたちはお会計を済ませて外へ出た。
碧衣っちがフラフラしてて危なっかしい。
「ちょっと碧衣っち家まで送ってくるよ」と鳴ちゃん。
優しいなぁ、鳴ちゃん。
「よろしくね、鳴ちゃん!」
あたしとツキノンはそんな二人を見送った。
「ツキノンは大丈夫?」
「大丈夫ですよ。女の子に送ってもらうなんて情けないことしたくないですし。」
顔色も普通だし大丈夫そうかな?
じーーー
「?」
ツキノンがこっちを鋭い視線で見てる・・・。
「な、何?」
「僕今すごく酔ってて」
え?そんな風には見えないけど・・・ただ目は少しトロンとしてるような・・?
「だから何しでかすかわかりません。しかも満月だし・・・」
えっ・・・言われて空を見上げると真ん丸の黄色い月が光ってた。
ほんとだ満月・・・ってかそれは関係ないでしょうが!
いくら吸血鬼そっくりでも実際は普通の人間なんだから。
ってか何しでかすかわからないって・・・
ちょっとドギマギしてきた・・・。
「つ、ツキノン、もう帰ろう!」
「ダメです」
え?!
ツキノンの手があたしに伸びて来てあたしは思わずビクっとなった。
首元のブラウスを急にめくった。
「!!!」
「あれ~?ないですね。痕が。」
「な、何?!前の痕ならとっくに・・・」
「違いますよ、響さんとの痕」
「!!」
「どうして無いんですかー?」
やっぱりツキノン、なんか目がおかしい。虚ろに見える・・・。
怖いよ・・・まるでホラーだよ!
「・・・響はそういうことしない・・・」
「へ~大事にされてるんですねー」
「・・・」
「でも僕は大事なものほど傷つけたくなるんです」
「え??・・・でも鳴ちゃんのことは大事にしてたよね?」
「僕にとって愛すると傷つけるは紙一重。特に・・・嫉妬がからむと傷つけたくなります」と妖しく笑う。
ツキノンがじりじり近づいてくる。
一体どうしたって言うのー?!!
お願いだから正気に戻って!!
「僕の痕消えちゃって残念だなぁ。キャロ、もう一回付けていい?」
と口を開ける。八重歯がキラッと光って見えた。
「!!!!」
あたしは驚いて固まってしまった。
だけど今度は前みたいなことになっちゃいけない!
響をもう悲しませたくない!!
「だ、ダメ!!絶対ダメ!!今度したら嫌いになるから!友達もやめるから!」
あたしがそう強く言うと、
ツキノンは黙った。
「・・・・」
何やら葛藤してるみたいに見える・・・。
ここはあと一押ししないと!
「あたしツキノンとずっと友達でいたいよ、お願いツキノン・・・」
「・・・友達・・・そう・・ですね。それが最優先・・・」
そう途切れ途切れに言った後、くるっとあたしに背を向けて急に歩き出した。
え??帰るの?
「つ、ツキノン気をつけて帰ってね!」
とその後ろ姿に声を掛けたんだけど返事はなかった。
はぁぁぁぁぁ・・・いっきに脱力感が襲ってくる。
なんなの一体・・・。まるでホラー映画のようだった・・・。
さっきのツキノン・・。
ほんとにまた咬みつかれるのかと思った。
普段の時の変貌したツキノンよりも数倍タチの悪い・・・。
お酒ってほんと怖い・・・人を別人に変える。
「はぁ~・・・」
なんだか疲れたな・・。
せっかくさっきまでは楽しい気分でいられたのに。
とりあえず帰って休もう。
何もかも忘れて・・・
そして次の日、GW最終日。
あたしは朝からぼんやりしていた。
昨日の事がどうしても頭から離れなくて・・・。
今日は何も予定を入れてなかったから一人でブラブラ街へ出掛けた。
響に会いたいな・・・。
でも今日はバイトって言ってた。
今すごく癒しが欲しい気分。
酔ってるとはいえあんなツキノンは初めて見た。
正直怖かった・・・
『危険な匂いがする・・・』
碧衣っちの言葉が頭に浮かぶ。
あのとき本気に見えたんだよね・・・。あたしのことまた傷つけようとした・・。
穏やかな雰囲気で微笑んでいるツキノン。
狂気に満ちたような目で妖しく笑うツキノン。
まるで正反対のような二つの顔がツキノンの中に存在してる?
あたしはどっちのツキノンを信用すればいいんだろう?
穏やかな方のツキノンを信じたいけど、こんなんでこれからも信じ切ることができるのかな?
ふいに携帯の着信音が鳴る。
あっツキノンからメールだ。
『昨日の事で話があります。今日会えますか?』
わからないことは本人に会って確かめるのが一番いいよね!
よし、ツキノンに会おう。
そしてメールで約束した駅前のカフェに行くと・・・
珍しく先にツキノンが着いていた。
「すみません、いきなり呼び出したりして」
そう言うツキノンの表情を見てあたしはホっとした・・・
いつもの穏やかなツキノンに戻ってる。
そして話は本題に入る。
「えっ覚えてないの?!!」とあたしは思わず身を乗り出しそうになった。
「はい・・お店を出てからの記憶が全くなくて・・・」と申し訳なさそうな顔をする。
なんてことだ。この発言は意外だった。目は変だったけど、足取りはしっかりしてたしてっきり意識ははっきりしてるのかと思ってた。
「よくあるの?昨日みたいなこと」
「はい・・・たまにやってしまうんです。飲み過ぎると・・・なんとなくキャロさんと二人でいたのは覚えてるんですけど・・。」
あたしは拍子抜けした。
「それで・・・僕何かあなたにしませんでした?僕は酔うとどうやら普段眠ってる別の僕が出ちゃうみたいで」
「それってどSツキノン?」
「そうそう」
確かに昨日のあれはどSなツキノンだったなぁ。
表情が妖しく見えたし・・・。
「その顔は、やっぱり僕・・・」
「あっううん、そんなたいしたことじゃないよ」
とあたしはついウソを付いちゃった。
まぁでも未遂だったしね。
「ツキノンすぐ家帰っちゃったし」
「そうですか・・・それならよかった。なんせ記憶がないものですから不安になってしまって」
こうして普通に喋ってると、昨日のツキノンと同一人物だなんて全然思えない。
何かスイッチみたいなのがあるんだろうなぁ。どSスイッチ。
昨日は・・・何がスイッチだったっけ?
あの行動を起こす前、ツキノンは確か・・・
『特に嫉妬がからむと傷つけたくなります・・・』
ん?嫉妬??
誰の何に対して・・・?
「キャロさん?」
「あっごめん、何でもない。・・・とにかく昨日のことはもう気にしなくていいから。でももう記憶飛ぶほど飲み過ぎちゃダメだよ!」
あんな狂気に満ちたツキノンに出くわすのはもう懲り懲りだよ。
「はい、十分気をつけます」
よし、もうこの話はこれで終了しよう。
本人が覚えてないことにあれこれ考えをめぐらせてもね。
「ところで碧衣っちとどう?仲良くする気になった?」
「やっぱりそれ目的で碧衣を呼んだんですね」と溜息をつく。
あっちゃー意図がバレちゃった。
「ごめん、でも碧衣っちいい子だから、それ知ってもらえたらツキノンも心から仲良くしたいって思ってくれるかなって考えて」
「まぁ、確かに悪い子ではないかもしれません。酒癖は悪いですが」
「あはは確かに~。でも面白かったね。」
「はい、けっこう奥が深そうですしね、少しは興味出たかもしれません」
「そっか!それならよかった」
とあたしが笑うと、ツキノンの顔が一瞬陰った気がした。
「?」
「それじゃ、話はすんだのでこれからバイトに向かいますね」
「今日バイトなんだ。じゃあ頑張ってね」
「はい。今日は来てくれてありがとうございました。では」
あたしの元から去る途中に
「本当は・・・全てお覚えてるんです・・・僕はやっぱりズルい人間ですね」
そうつぶやいて冷めた顔でフッと笑ったことにあたしは気付かなかった・・・。




