初めての・・・
今日は響が帰ってくる日。
あたしは朝から鏡を念入りにチェックする。いつもはブラウスの一番上のボタンは苦しいから外してるんだけど、今日は留めた。これでギリギリあの例の傷は見えない。
よし、しばらくはこれで乗り切ろう。傷が消えるまでの我慢だ。
お昼に響からの呼び出しがあった。
今日の朝帰ってきたみたいだからきっと今まで寝てたんじゃないかな。
ドアを開けると予想通り響はベッドに寝転んでいた。
頭の下で腕を組んで仰向けに寝てる。
あたしが入ってきたのに気付いて目を開けた。
起き上がって、
「キャロ、ただいま」と言った。
「おかえりなさい」とあたしは響の元に駆け寄る。
たかだか3日会ってなかっただけなのに、なんか久しぶりな感じがする。きっと毎日のように顔を合わせているからだろうな。
「何も変わりなかった?」と目の前に立ってるあたしの手を握って言う。
「うん」
あたしは笑顔で内心を隠す。あたしにしては上出来なポーカフェイスだったと思う・・・。
本当はとんでもないことがあったんだけど響には絶対に言えないから・・・。何が何でも隠し通す。
「そっか、じゃちょっとマッサージしてくんない?けっこう急な山に登ったからさすがに体にきててさ」
よかった!何も気付かれなかったみたい。疲れてるぶんそういう感覚が今は鈍ってるのかもしれない。
このタイミングで登山ナイス!
「はーいご主人様♡」
せっかく穏やかな日々を送れてるのに雷を落とすようなことしたくないよ。
この調子で傷が消えるまでなんとか乗り切ろう。
「登山楽しかった?」
「うん。まだ少し上の方は雪が残っててさ、絶景だった。また写真見せるから」
「うん」
そう言えば登山のサークルメンバーのこととかあまり聞いたことなかったな。
「メンバーって何人くらいいるの?」
「全体では20人くらいいるけど、やっぱ仲いい奴らで分かれるからオレのチームは5人。学祭のときにいたあのうるさい奴もいるよ」
あっあの金髪に近い茶髪のイケイケくんかぁ!
「あの人と響すごく仲良さげだったもんね!」
「仲良くなんかねーよ。あいつが勝手に懐いてくんだよ。そういやあいつ彼女に会わせろってうるさいんだよなぁ。どうせ誰か女を紹介しろとかそういう目的だろうけど」
「へーそうなんだ。あたしは全然かまわないよ?ほんとに女の子連れて行くし」
「マジ?じゃああいつに言っといてやるかな。これでちょっとはおとなしくなるだろうし」
あはは、そう言ってほんとはイケイケくんの為でしょ?
響はそういう奴だからなぁ。
でも誰を連れて行こうかな?
瑠々ちゃんとかどうだろう・・・明るいしイケイケくんと気が合いそう。
聞いてみようっと♪
そして次の日。
今日は響は朝から夜までバイトらしくて仕事中に会うことは出来なかった。
仕事が終わって寮に戻りくつろいでいるときにチャイムが鳴った。
誰だろう?
ドアスコープから覗くとそこには・・・
ガチャとドアを開けると響が立ってた。
「ごめん、夜に。さっきメールしたけど気付いてないだろ?」
マジで!メールくれてたんだ・・・。
「ごめん、充電中で傍に置いてなかった!」
「まぁいいよ、どうしても今日渡したくてさ」
と紙袋を渡してきた。
「これ・・?」
「ケーキ買ってきた。バレンタインのお礼」
あーそっか!今日は3月14日だ。すっかり忘れてた。
そういや先月のバレンタインにキャロ特製の手作りチョコあげたんだよね。
「ありがとう!じゃあお茶にしよっか」
「うん、お邪魔しまーす」
わぁ嬉しいな。響ってこういうとこ律儀だよね。
あたしは紅茶を入れて、いつもの場所に座る。目の前には響。
二人のときはいつもこのポジション。
「いただきまーす。・・・あっおいしい~♡」
「すっげー幸せそうな顔」と響があたしを見て呆れて笑う。
「だってほっぺた落ちるくらいおいしいし~」
とあたしが無我夢中で食べてると・・・
「・・・あれ?」と響が突然手を止めてこっちをじっと見る。
「?」
響どこ見てるの?あたしの顔より下の方・・・
響の目線を辿ると・・・
首元に・・・
「!!」
あーーーーーーーーー!!!!
忘れてた・・。忘れてたすっかり!!
むき出しになっちゃってる。
例の傷!!
今はメイド服じゃなくロンT着てるから首元露わで。
どうしよう!!今更隠せない。
そんなことしたら余計に怪しまれる!
なんとかごまかさないと!!
「こ、ここちょっと虫にさされたみたいで」と笑顔を引きつらせて言う。
「・・・それ歯型じゃね?」
「!!」あたしは思わず手で傷を隠した。
あ・・・今の行動はまずかったかも・・・。
「キャロ?」響が疑いの目であたしを見る。
「ち、違うよ、ほんとに虫に・・・」
「じゃあ隠さないで見せろよ」
「・・・・」
終わった・・・
終わってしまった穏やかな日々が。
あたしは目の前が真っ暗になってしまった・・・。
できるならこれが夢であってほしい・・・
その願いも虚しく・・・
「どういうことだよ?!」
完全に俺様響が降臨してる・・・。
バチバチと音が聞こえるくらい怒りのオーラを放ってる。
恐いよーーーーー!
「あ、あのこれにはふかーい理由がありまして・・・」
「何?理由って」
と見下すようにあたしを見る。
ひぇ~~~!
今の響に理由説明しても納得してくれるだろうか・・・
でも言うしかない。
「実はね・・・」
とあたしは一部始終を隠すことなく話した。
案の上・・・
「・・・月野ぶっ飛ばす」と目に怒りの炎をメラメラと宿してる。
や、やっぱり納得してくれない!
「響落ち着いて!あたしもうぶん殴っちゃったし!響の分も込めて」
「・・・おまえが?」
あっちょっと我に返ってくれた!
「うんうん。だからもう・・・」
「・・・いやそれだけじゃオレの気が収まらない」
と立ち上がってあたしの隣にくる。
あたしは内心どぎまぎした。
今の響は何をするか予測不可能だから恐い。
隣に座った響はあたしの傷にそっと手で触れた。
あたしは思わずびくっとなった。
「オレのキャロにこんなもん付けやがって・・・許せねー」
あー・・怒ってる・・怒ってるよ。
「ただの傷だよ・・・深い意味なんてない」
「それでもムカつく。オレが大事にしてるキャロに傷をつけるなんて」と怒って言う。
大事に・・・
「響・・・ありがとう」
こんな状況なのに嬉しい。
「文句だけは言うからな!あいつに」
「うん・・・分かった」
あたしはぎゅっと響に抱きついた。
「キャロ?」
「大事に思ってくれてありがとう」
「・・・」
響もぎゅっと抱きしめ返してくる。
「ごめんね。今回のことで響も傷ついたよね」
「オレはキャロが傷つけられたことに傷ついた。けどおまえがいつもみたいに笑ってるならそれでいい」
「うん・・・」
響・・・大好き
ずっとこうしていたいな・・・。
「・・・なんかヤバいかも」
「え?」
「このままキャロのこと全部自分のものにしたい」
・・・・え?!!!
それって・・・体もってこと・・・?
かぁぁぁぁぁ・・・
ドキドキする・・・
死んじゃいそうなくらい・・・。
ドキドキドキ・・・
「・・・って思ったけど今日は満身創痍だからやめとく」
えっ?!
そ、そっか登山の疲れがまだ・・。
ってかびっくりしたぁぁぁぁ!いっきに脱力感が襲ってくる。
「おまえだって心の準備まだ出来てないだろ?」
「え?」
「オレはけっこう気が長いし、待つから。大丈夫になるまで」と優しく笑う。
「う、うん・・・」
あたし心の準備できてないのかな?
分からない・・・。
けど今の響の言葉で大事にされてるってことを強く実感できた。
はぁ・・・あたしってつくづく幸せな女子だな・・。
お茶の時間を再開させる。
けどさっきと違ってポジションは隣同士で。
今まで響が付き合った子もこんな風に大事にされてたんだろうか、ふと気になった。
過去のこと聞きたくないような、でも知りたいような複雑な気分。
「響って今までどんな恋愛してきたの?」
結局聞いてしまった。
「恋愛?今までしたことないけど」
「え?!だって、前に・・・」
「あー・・なんか前聞かれたとき見栄はったかもしんねー。だって周りがいつも過剰なほど持ち上げてくるからほんとのこと言いづらいし」
「ほんとのことって?」
「キャロが初めての彼女ってこと」
え・・・
「えーーーーーー?!!」
「ほらな、だから言いたくねーんだよ」とふてくされる。
「だ、だって~」
こんなモテてカッコイイのに今までいないわけないって誰もが思っちゃうって!
はぁ~・・・それにしても信じられない。
それと同時にすごく・・・
あたしは隣にいる響を見つめる。
嬉しい・・・。すごく、すごく嬉しい・・。
「・・・嬉しいって顔に出まくってるけど?」
「!」
あっ
かぁぁぁぁぁぁ・・・
「だって・・・一緒だから」
「うん、一緒」とあたしの顔を覗き込むようにして笑う。
きゅーん・・・
どうしよう幸せ過ぎる・・・。
けど待てよ・・・あたしの頭に何か引っ掛かってる。
あっ思い出した!
「響、あたしが入りたてのころ、あたしが恋愛経験ないのからかった~!」と少し拗ねて言う。
「そうだっけ?そんな昔のこと忘れた」とイタズラな笑顔を見せる。
「も~~!ズルいー」
とあたしがポカポカ叩くと逃げるような素振りをする。
「ごめんって。おまえからかうと、かわいい反応するからつい悪ノリしたんだよ」
うう・・・そう言われると文句言いづらくなっちゃうじゃん。
ほんと響はズルい。
あたしは出会った頃からずっと響にやられっぱなしだよ。
それだけは一年前と変わらない。
それにしても今回の吸血鬼事件、なんとか無事終息に向かってよかったぁ・・。
これでまた穏やかな日常に戻るよね。
もうトラブルめいたこと何も起こりませんように!




