意外な恋の終結
「ツキノンお疲れさま~!」
あたしたちはそれぞれジュースを持って乾杯する。
って言ってもまだお昼の2時なんだけどね。
昨日がツキノンの家庭教師最終日で、ほんとはその日にお疲れ会したかったけど、カフェの閉まる時間が7時なので、今日の休日に改めてゆっくりすることにした。
特別に今響も混じってるんだよね。店長にお願いして、少しだけならってことでお許しをもらった。
響は今じゃこのカフェのエースだからあまりのんびりはできないんだけども。
周りの女子たちは興味津々でこっちを見てるし。
「ほんとツキノンのおかげで成績も上がったし感謝してる」
と鳴ちゃんがお礼を言う。
「いえ、そんな、頑張ったのは鳴くんですし」とツキノンは謙遜して照れてる。
「いや、おまえのおかげだって。おまえいなきゃこいつは今頃落ちこぼれ決定してるだろうし」
「そうそう。ってそれ言い過ぎ!」
と響と鳴ちゃんがいつもの口喧嘩を始める。
あはは、にぎやかだなぁ。
みんなでこんな風にワイワイやるのってあのハイキング以来だぁ。
やっぱりこのメンバー楽しい♪
ツキノンもニコニコ笑ってる。
初めて会ったときはその個性の強過ぎる見た目に圧倒されたけど、今じゃや全然気にならないし、こうじゃないとツキノンじゃない感じ。
でもまさかこんな仲良くなれるなんて思ってなかった。
いつの間にか悩み相談までできる仲になってたし、きっとそれはツキノンが実はいい奴だったからだろうな。
敵に回すと恐いけど味方だと親身になって支えてくれる、そんな感じ。
「ツキノン、ほんと色々ありがとう。っていうかこれからもよろしくね」
「はい」
と見つめ合ってニコニコしてると・・・
「あー、危険だよ。響が妬いてる」
「え??」と響の方を見上げると・・・
「や、妬いてねーよ!オレそろそろ戻らないといけないから行く!」
「あっ逃げたー」と鳴ちゃんがクスクス笑う。
「あっ響さん!」
「何だよ?」
「サークルのこととか、背中押してくれてありがとうございました。今はたくさん友達ができて大学楽しく行ってます」
「そっか・・・良かったな」
「はい。それから・・・あまりあの小柄な女の子と仲良くしちゃダメですよ?」
「え?」
「キャロさんすぐ妬くから」
ぎゃー!ツキノンってば!余計なことを!
響の視線が痛いよーーー。あたしは顔を赤くしてうつむいた。
「分かった。気をつける。」と言って行ってしまった。
「ですって。良かったですねーキャロさん」とにっこりあたしに笑いかける。
もう・・・恥ずかしいってば。
「勉強は嫌だけどツキノンとしょっちゅう喋れなくなるのは寂しいなぁ」と鳴ちゃんが子犬みたいにシュンとする。
「・・・もうそれだけで十分かも」
「え??」
「あ、いえ何でもありません。さ、パフェ溶けちゃいますよ!食べましょう」
「うん!」とあたしと鳴ちゃんは声を合わせて返事をした。
カフェでゆっくり色んな話をした後、前から言ってたプラネタリウムに行くことにした。
ツキノンに小声であたし抜けようか?って提案したんだけど、居てくださいって言われちゃった。
なんでだろ・・・二人っきりになれるチャンスなのに。
ホールに入り、一番後ろの真ん中あたりにあたしたちは座った。ツキノンを真ん中にして。
背もたれがゆっくり倒れ、ホールの中が真っ暗になる。天井だけが青く光ってる。
たくさんの星の形が浮かび上がり、そのたびにナレーションが入り星の説明をしてくれる。
やっぱり思い出してしまう、響と見た満点の星空。
また一緒に見たいな・・・
プラネタリウムの帰り道。
「鳴くん途中で寝てたでしょ?」
「あっバレてた?」
「あはは、鳴ちゃん寝そうなイメージあるー」
「それ当たってるよ!照明暗いとすぐ寝ちゃうんだよねー」
と笑い合いながら歩いてると、
「じゃあ僕はここで。本当にお世話になりました。またこんな風に出掛けましょうね」
とツキノンが立ち止まって言った。
「うん、またね、ツキノン。ありがとう!」
「はい、また」と優しく笑い、身を翻し去って行く。
え??これでお別れ??
あたしはてっきり今日鳴ちゃんに・・・
気持ち打ち明けるんじゃないかって思ってたのに。
「・・・・」
「キャロどしたの?」
「・・・鳴ちゃん、あたし用事思い出したから先帰っててくれる?」
「うん。りょうかーい。じゃあまたね」
「うん」
ツキノン・・・何考えてるの?
「ツキノン!」
「キャロさん?どうしたんですか」ときょとんとした顔で振り返る。
「どうしたじゃないよ!それはあたしのセリフ・・・何も言わずに去って行くの?」
「ああ、それですか。・・・はい、そう決めました。さっき」
「どうして?関係が壊れるかもしれないのが恐くなった?」
「それももちろんあります。けどそれよりも、自分の想いは伝えるほど強くなかったみたいです」
「え??」
ツキノンの意外な言葉にあたしはぽかんとなる。
「恋だと思ってたんですが・・・いつの間にか友情の気持ちが強くなってたみたいで」
「そ、そうなの?ってかそんなことってあるの?」
「普通の恋愛でも良くあるでしょう?友情が愛情に変わったり、愛情が友情に変わったり、そんな感じです。」
「・・・・」
「なんか納得できないって顔してますね。でも強がってるわけでもなくほんとの気持ちです。欲がなくなったんですよ。」
「欲?それって触れたいとか?」
「そう。今はもうただ喋るだけで満足というか・・それって友情に近いですよね?」
「た、確かに・・・」
「そういうことです。キャロさんの気持ちが変化したのと同じで僕の気持ちも時を経て変化したみたいです。」
ツキノンの顔をじっと見たんだけど、どうやら嘘はついてないみたい。
無理してる感が全然ないし。
けどこうなって喜ばしいことなのかそうではないのか、複雑だなぁ・・・。
「だからもう僕のことは心配しないで下さい。」
「え?」
「意外に単純なので優しくされると好きになってしまうかもしれません、あなたのこと」とあたしをまっすぐ見つめる。
「え!!」
「冗談ですよ。クス・・・じゃあまた」
つ、ツキノン?
び、びっくりした・・・。
最後のは冗談に聞こえなかったから・・。
ツキノンの恋は予想外な終わり方だった・・。
でも確かに触れたいとかそういう気持ちが起こらなくなったら、それはもう恋ではないような気もする。
あたしはいつだって響に触れたいって思うから・・・
ってあたしこんな道の途中に突っ立って何考えてるんだか!
ひゅーーっと風があたしにぶつかるように吹いていく。
ぶるっ・・・
帰ろう・・・。
「ってなわけでね、結局ツキノン、鳴ちゃんに何も伝えず帰っちゃったんだよ!」
「ふーん」
「あんなに鳴ちゃんのこと好きそうだったのに、そんな簡単に変わってしまうものなの?」
「さぁ?」
「・・・もー全然真剣に聞いてないでしょ!」
今日は響があたしの部屋に来ている。
お茶しながら昨日のツキノンの話をしてるんだけど、響は興味なさそう。
めんどくさそうな顔してるし・・・。
「他に好きな奴でも出来たんじゃね?」
「嘘だーそれはないって!」
「わかんねーじゃん。人なんてわかんねーもんだろ。だいたいおまえは月野の一部しか知らないわけで、普段どんな奴か知らねーじゃん。もしかしたら何人もの奴と付き合ってたりする可能性だってゼロじゃないし?」
なっ・・・何人もって!
「ツキノンはそんな奴じゃないもん!何でそんな風に悪く言うの?」
「おまえがさっきから月野の話しかしねーからムカついてんだよ」
「えっ・・・」
あっ・・・もしかして・・・
ヤキモチ?
「何ヘラヘラしてんだよ。ムカつくなぁ、ちょっとこっち来い」と隣を指さす。
どきっ
あたしが固まって動けないでいると無理矢理腕を引っ張って隣に来させた。
どきどきどき・・・
「お仕置きしないとな」
えーーーー!!
あたし何も悪いことなんて・・・
ってかオーラが俺様響になっちゃってる・・・
あたし俺様響に迫られるのすっごく苦手なんだよね。
ドキドキし過ぎてパニックになっちゃう!!
「もうただのメイドじゃねーし止めないからな」
とあたしの頭の後ろに手を回して顔を近づけてくる。
きゃーーーーーー!
ほ、ほんとに止めない気だ。
あたしはパニックになりながらも必死に目を閉じた。
そんなあたしにささやかな一瞬のキス
「・・・・」
あ、あれ??終わり・・・?
目を開けると響がこっちを見て苦笑してる。
「?」
「そんなガチガチになられたら、なんかオレすっげー悪い奴に思えてくるし」
え!!
「響は悪い奴じゃないよ?」
「・・あはは、まぁいいよ、今日はこのくらいで勘弁してやるよ」
「??」
またいつもの冷静な響に戻ってる・・・。
そういえば少し前から響のオーラ、穏やかになったんだよね。
時を経て変化していく・・・か
ふいにツキノンの言葉が浮かんだ。
響もそうなのかな?
あたしの気付かないところで変化してるのかな?
いい変化だったらいいな・・・。
その穏やかなオーラみたいに・・・。




