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この世界に一人

『ひびー』


向こうから走ってくるのは・・・結理ゆりだ。


オレのことそんな呼び方するのは結理だけだし。


オレは結理と初めて会ったときの記憶がない。

一番古い記憶はもう、結理と一緒に公園で遊んでる記憶だから。




これは小学生のときの記憶・・・


『結理はどうして夜にはいなくなっちゃうの?』

朝起きたらいつも結理はもういてて、でも夜になるといなくなっちゃう。

オレはそれがいつも寂しい・・・。


『だってメイドだからしょうがないじゃん、私だってずっとひびといたいんだよ~?』

と抱きしめてくれる。


あったかい・・・。


いつもどこに行くのも一緒で。それが当たり前の日常だった。


『夜は我慢するからそれ以外は一緒にいてくれる?』


『もちろん』


その笑顔はいつもオレを安心させてくれた。

まるでひまわりみたいに明るくて暖かい笑顔。


これからもずっとずっと一緒にいられるって当然のように思っていたんだ。





風景は中学生に変わる・・・


『ひび誰か好きな子とかいないの?』


『いないよ。オレもう少し大きくなったら結理を彼女にする』


『ばかー!こんなおばさん彼女にしてどうすんのさ!私はもう35なんだからね~』


『だって彼女になってそのまま結婚したら一生一緒にいられるでしょ?』


『ひび・・・泣かせること言ってくれるじゃん!・・けど私はダメ』


『なんで?』


『ひびは自分で見つけなきゃだめ。それはひびの使命』


『?・・・よくわかんない』


『いつか分かるよ。』と優しく笑う。



好きだ・・・好きなんだ。

恋愛感情かどうかわからない。

でもずっとずっとこれからも一緒にいたいんだよ。






そして運命の日・・・



『響!結理さんが・・・!』

突然血相を変えて部屋に入ってくる拓兄。



結理?結理がどうしたの?


だってついさっきまでここにいて笑ってたんだけど?


『事故に遭って・・・・今病院で亡くなったって』


亡くなった・・・?


『拓兄ちゃん、何言ってるの?』


『響・・・』

うつむいてそれ以上何も言わない拓兄。

泣いてるの・・・?



そしてオレの手を無理矢理引っ張って行った。





病院に着いて・・・


白いベッドに寝かされてる結理

その顔は真っ白で何かが違うってことオレにも分かった。


『結理?』

軽くゆすっても起きない。何度ゆすっても目覚めない・・・

呼んでも起きない・・・何度名前を呼んでも・・・



違う・・もう起きないんだ・・・


涙がポロポロ流れ落ちていく



もう二度と・・・


『ひびー』

あの呼び声が聞こえないんだ。



『ばかだね~ひび』

あの笑顔見れないんだ。





『あああああ・・・・・!』絶叫して崩れる。



結理が逝くのと同時にオレの心はそのとき死んだ・・・







結理の死を受け入れることができず、オレ自身も死んだように生きてた。


何をやっても気力が出なくて、何も興味湧かなくて・・・



人と壁を作るようになってた。


オレの心の中は結理でいっぱいで、オレは結理と二人で生きてる。

その中に誰も侵入させたくない・・・。



今までと違う攻撃的な性格に変えて、誰もオレに近付けないようにした。




それなのに色んな人が寄ってくる。オレがこんなに近付くなオーラ出しても気にせず寄ってくる。


オレのことが好きだって?どこをどう見てそんなこと言えんの?


結理はオレの全てを愛してくれてたんだ。

おまえにはそれができんの?


それ以前にオレの中を見てもいないじゃん。


そんなんじゃオレの心には入れないよ。

簡単には埋まらない。胸に空いた穴は大き過ぎて。



結理以外はどいつもこいつも同じに見える

やっぱり結理じゃないとオレは・・・







そして高校を卒業した春・・・出会った。



『あたしはあたし、この世界にたった一人だけ。

あなただってそうでしょう?

あなただってこの世界にただ一人。

ちゃんと見てください。一人一人を』



変な女だなって思った。こんなこと言うやつに会ったの初めて。


だから少しだけ胸の穴にすきま風みたいに小さな風が吹いたんだ。

小さいけど強い風・・・



世界に一人だけ・・・

結理がこの世界にたった一人の存在であるのと同じで、この女もこの世界に一人だけ・・・。


こいつのこと知りたいという気持ちがオレの中で芽生えた。




あいつを見てると常に一生懸命で必死に生きてる感じがした。

オレにきついこと言われても意地悪されてもめげないし、凹んでもまた立ち上がる。

弱くて強いんだ。こいつは。


友達のことを悪く言ったとき初めて本気で怒った。


そっか、友達をすごく大事にする奴なんだな。



結理と似てる・・・。

いつもニコニコしてるけど、正しくないと思ったら自分の思ってることをちゃんとぶつけてくる。


結理の顔が重なる。



苦しい・・・封印してた記憶が呼び起されて

また絶望を感じたあのときの感情が戻ってくる。


あいつと近づくたびにそれは強くなる。



もう限界だ。


自分を守る為にあいつを遠ざけることにした。


あいつはオレのこと良く思ってないだろうし、きっとその方があいつにとっても・・・。




なのになぜか余計に近付いてこようとする。


なんで?


オレのこと知っていきたいって言う。

おまえもオレと同じように思ってたのか?



オレが遠ざけたことであいつはひどく傷ついたみたいだ。

別に傷つけたいわけじゃなかったんだ。

確かにオレ自身を守るためだったけど、あいつにとってもその方がいいと思ったのも事実。


でもそれはどうやら違ったらしい。



また元の位置に戻したら、笑ったんだ。

久しぶりに見た笑顔。

それを見たらオレも安心した。



あれ??胸の穴が少し埋まったような・・・?


気のせい?





ひまわり畑でも星空の下でも、あいつといるとなぜか素直になれた。

前の自分に少し戻れるんだ。


結理と似てるって思ってたけどほんとは全然違う。

根本で違う。


結理はオレのことをいつも守ってくれてた。

しっかりしてて揺らがない芯を持っていた。


でもあいつは違うんだ。

ドジだし優柔不断だしほんとはけっこう泣き虫だし・・・



オレが守ってあげないとダメなんだ。




いつからだろう、オレの中であいつの存在がこんなに大きくなったのは。

いつの間にかオレの心の中にいたんだ。


結理を失った悲しみは今も消えない。きっと永遠に消えない。

だけど、あいつといるとほんの一瞬でも忘れていられるんだ。


楽しい気持ちとか嬉しい気持ちとかが、悲しみを覆ってくれるんだ。




オレの傍にいてほしい・・・


結理以外の人にこんな風に思えたの初めてだ・・・。


いつも隣で笑っててほしい・・・



『響の全部が好き』



オレの全てを好きだと言ってくれる人にまた出会うことができた。

そんな人いないと思ってた。結理以外には。



だから嬉しくて泣きそうになったよ。








この風景は・・・現在?


キャロが目の前にいる。


『響ー』


その笑顔を見るとやっぱり安心する。大好きだ。



あれ?キャロに手を伸ばしたら、突然消えてしまった。


『キャロ?』

辺りを見渡してもキャロの姿はない。



『響!』と突然部屋に入ってくる拓兄。



あれ?この情景、見たことある・・・



『キャロちゃんが・・・!』と真っ青な顔をしてる・・・



『・・・・!!』



あのときと同じ・・


この後どうなるか・・オレは知ってる。


やめろ、それ以上何も言うな。


違う、これはあのときとは違う。



キャロはいなくなったりしない!

オレの前からいなくなったりしない!


だって約束したんだ。


傍にいるって・・


約束したんだよ!



お願い、もうオレから大事な人を奪わないで・・・


これ以上何も望まないから、ただ傍にいてくれるだけでいいから。




キャロ・・・この世界に一人しかいないんだ。

失いたくない・・・

もうこれ以上大切な人を失いたくないんだ・・・






ぱち・・・


「あれ・・・・夢?」

天井を見つめたままオレはまだ動けない。


これは本当の現実の世界?


あっほっぺが濡れてる・・・

オレ泣いてたのか?


すぐさま携帯に手を伸ばし発信ボタンを押す。


『もしもし響?おはよう』


居た・・・キャロ、ちゃんと居た・・・


安堵の溜息がもれる。


よかった・・・



『響?どうしたの?何か用事があるんじゃ?』


「うん・・・コーヒー持って来てくれる?」


『了解です!ご主人様』


あはは、いつものキャロだ・・・




ひどい悪夢だった・・・

オレ恐れてるのか?また大事な人失うんじゃないかって。


きっとオレのものになったからこんな夢を見たんだ・・・


前よりも失いたくないって気持ちが強くなったから。



手に入れたら安心できると思ってたのに、そんな簡単じゃないんだな。


大事に思う気持ちが強くなるたび、失うことへの恐れが大きくなる。





ああ自分の闇にまた負けそうだ・・・






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