ブラッククリスマス
今日は24日クリスマスイヴ。
朝から雪が降っていてけっこう積もってきている。
そういえばテレビで今年一番の寒波だと言ってたな。
ベランダに出てみたら思った以上に寒くて驚いた。
庭がだんだん雪色に染められていく。
綺麗だな・・・いつもとは違う風景。
結局今日は一人で過ごすことになった。
友達はみんな彼氏がいて予定ありだし・・・
あーあせっかくのホワイトクリスマスイヴだというのにあたしにはロマンも欠片もない一日になりそうだ。
だからってこんな日に一人で部屋にいるのも嫌だし出掛けよう。
あっそうだ!響のプレゼント買わなくっちゃ!
誕生日とクリスマスを合わせたプレゼント。
目的ができたおかげで少しテンションが上がってきた。
街へ繰り出すとあちこちでクリスマスの音楽が流れ、サンタのカッコをした人がお店の外に出てケーキを売ったりしている。
家にいるとわからないけど、外に出るとやっぱクリスマスって感じするなぁ。
どのお店もピカピカ色とりどりの電飾で飾られてるしお店によって色んなツリーが置かれてておもしろい。
さっきなんてピンクのツリーがあったし。初めて見たよ。
色々なものを物色しながら考える。
そういえば結局何が欲しいか聞けずじまいだったんだよね。
『キャロがほしい』
かぁぁぁぁぁ・・・
ヤバい思い出してしまった。
昨日のあれは一体なんだったんだろ・・・
その言葉は冗談だったとしても、その後ぎゅっとしてくれたのは本気のようにも思えたけど・・・?
わからない・・・
もやもやするこの気持ち。
もうはっきりさせたい。あーだこうだ自分の中で考えても答えは出ないし、もうぶつけるしかない。
あたしの気持ち。受け止めてくれるかな・・?
相変わらず自信はないけど、もしかしたらって期待してる。
それが今あたしを動かす原動力になってる。
あたしだって・・・
『響がほしい』
だから頑張る!
たくさんお店を回ってやっと響に似合いそうなものを見つけた。
小さなブラックシルバーの星がついたネックレス。
うん、似合いそう!
いつの間にか外はすっかり夕暮れだ。
かなりの時間歩き回ったから足が疲れたぁ。
ちょっと休憩して帰ろうかな。
とあたしは駅前のカフェに入る。
意外とカップルいないんだよねー、と窓の外を見ながらふと思った。
カップルはそろそろ夜景の見える場所に移動してる時間なのかなぁ。
ボーっとしながらそんなことを考えてると・・・
目線の先に、駅に向かってくる一組のカップルを発見したんだけど・・・
あ、あれ??
ここから少し離れた場所にいるからはっきりわからないけど、でもあたしが見間違うわけない。
「響?!」
響だ。間違いない。
一緒にいるのはフワフワちゃん?
心がざわめき顔が固まる。
何で?? 疑問で頭の中がうめ尽くされる。
今日雪中登山って言ってたのに・・。
それに二人とも少し大きめのカバン持ってる・・。
一泊するぐらいの・・。
色々な感情が押し寄せてきてパニックになってきた。
どういうこと?響
嘘付いたの・・?
あたしが見つめる中、二人は笑い合いながら駅の中へ入って行った・・・
どうして?
今日はフワフワちゃんと会ってて明日はあたしで・・
響何考えてるの?
こんなの最低だよ・・。
あふれるように色んな考えが頭を巡り、あたしはなかなか眠りにつくことができなかった。
あたしに嘘付いてフワフワちゃんと過ごすなんて、そんなのまるで二股かけられてるみたいに思ってしまうよ。
けどあたしは響と付き合ってるわけじゃないし、文句言える立場じゃない?
それならどうしてあたしにあんなこと・・・
やっぱりどう考えても響がしてることはひどい。
っていうかフワフワちゃんとの関係は?
もしかしてあたしの知らないところで付き合ってるとか?
だって今日どう見ても二人でどこかに・・・
ブンブンと激しく首を左右に振る。
嫌だ、もう何も考えたくない!
心が割れてしまいそう・・・
そして眠れない夜が明けた。
結局あれからほとんど眠ることができなかった。
鏡を見るとひどい顔。まるでゾンビみたい。
とてもクリスマスの朝とは思えない顔してる。
はぁ・・と朝から深く溜息をついた。
あんなに楽しみにしてたのに、今日が来るの。
ベランダに出てみると雪の積もり方が昨日よりも激しくなってた。
というか、昨日の分にさらにプラスされたからかな。
それにまだ降り続けてる。静かに優しく・・・
今日もホワイトクリスマス。
なのにあたしにとってはブラッククリスマスだ。
だんだんショックが怒りに変わってきた。
いますぐこの負の感情を響にぶつけたい、そんな攻撃的な気持ちになっていた。
クリスマスにこんな黒い気持ちでいたくないな・・・。
真っ白な気持ちになるには・・・
プルルルル・・・
『キャロ?どうしたの?』
「鳴ちゃん・・昨日はごめんね。ツキノンと楽しく過ごせた?』
『普通に遊んだよ。キャロいなくて寂しかったけどね』
きゅーん・・・
『今日は空いて・・ないよね?』
鳴ちゃんが予定無しなわけないと思いながらすがるような気持ちで聞く。
『・・・空けるよ』
「え??」
『友達と約束してるけど、人数多いからおれ抜けても問題ないと思うし』
「いいの?」
『うん、じゃあ1時に寮の前でいい?』
「うん!ありがとう」
『いいよ。じゃあまた後でね』
「うん」
鳴ちゃん・・・ありがとう。
今はどうしても一人でいたくないし、それに癒しがほしかった。
傷ついた心癒してほしい・・。
「キャロー」と笑顔で走ってくる鳴ちゃん。
あー鳴ちゃんが本物の天使に見える。背中に白い羽がほんとに見えるよ。
「鳴ちゃん!来てくれてありがとう・・」
「なんか電話で話したとき、元気なく感じたけど大丈夫?」
あっそれであたしの方に来てくれたんだ・・・
嬉し過ぎる。今心が弱くなってるから少しの優しさで泣きそうになるぐらい嬉しい。
「キャロ?」
「あっごめん、大丈夫!行こう」
「うん」と優しく笑う。
鳴ちゃんって不思議。一緒にいるだけで心が癒される。
きっと鳴ちゃんが優しいから。内面の優しさが鳴ちゃんの全身から出てるんだきっと。
今日はせっかくクリスマスっていうのもあってクリスマスフェアをしてるイベント会場に向かうことにした。
インディーズアーティストによるライブとかもあっておもしろそうって話になって。
今あたしたちはイベント会場の二階から下の景色を見下ろしている。
かなり広い会場で、あっちでは物を販売、こっちでは特設ステージでダンス等の催し物、とそれぞれ色んなイベントが行われている。
あたしは胸ぐらいの高さの格子の手すりに腕を置く。
隣の鳴ちゃんも同じようなカッコをしてる。
「鳴ちゃんあれから高校はどう?」と隣の鳴ちゃんを見る。
「あーそれがさ、あの作戦効き目なくなってきたよ」
「えっもう?」
「うん、なんかみんな言い様に解釈しちゃうっていうか。結局あのおばさんとの写真も誰かのイタズラってことになっちゃって。」
「そっかー・・・」
「思い通りにはなかなかならないね」と前を向いたまま言う。
その表情は少し悲しげだ。
そうだよね・・あたしもそうだもん。
いい方向に向かっていてもふとしたことで色々なことが逆に向かってしまう。
だけど・・・
「あたし、本当は鳴ちゃんにはあきらめてほしくないけどね」
「?」
「鳴ちゃん高校で彼女作らないって言ってたけど・・それって自分を抑えるってことでしょ?誰も好きにならないように感覚を鈍らせるっていうか。」
「・・・」
「それってつらくない?」
あたしはつらかったし、無理だった。
自然の流れに逆らうのはとても苦しいことなんだ。
「自然にありのままの気持ちで高校生活を過ごしてほしいな。・・もし好きな子ができたら抑えたりしないで前に進んでほしい」
「・・・けどさ・・」
「分かってるよ。恐いんでしょ?トラウマが蘇ってきて。けど前とは一緒にならないかもしれない。
だって鳴ちゃんは前とは違う。前より大人になったし、今度はうまく対処できるかもしれない。乗り越えられるかもしれない。
だから最初から無理だって決めつけないでほしい。負けないでほしい」
あたしはまっすぐ鳴ちゃんを見つめて強く言った。
「キャロ・・・」
ぎゅーっとあたしを抱きしめる。
「今の言葉、心に響いた。ありがとう」
「うん。頑張れ、あたし応援してる!」
「うん」
ぎゅ~~~~
「・・・」
あれ???
いつもよりすごく長いし強い・・・
「な、鳴ちゃん?」
「・・・おれ、高校で彼女作らないって言ったの、それだけの理由じゃないよ?」
「?」
「キャロがいるから」
とあたしを少し離し、あたしの目をまっすぐ見た。
いつになく真剣な表情。
胸がドキドキしてきた・・・。
「キャロが彼女になってくれたら嬉しいんだけど」
「えっ!!」
鳴ちゃんの目、言葉、本気だ。
どきどきどき・・・
「あ・・あたしは・・」
「・・・分かってるよ、キャロが誰を見てるか」
「えっ!」
「だから、気持ちが大きくならないように抑えてたけど、キャロの言う通り、抑えるのってつらいしもう無理みたい。」
あたしが鳴ちゃんの心を動かしちゃった??
「・・・そんな風に思われてるの知らなかった」
「あははキャロ超鈍感だから。まぁそこがいいんだけど。」
「でもあたしは・・・」
今はとても複雑な気持ちになってるけど、やっぱり響が好きで、それだけは真実。
「おれの方がいいって思ったら来て?」
「え?」
「どうせ他に好きな子ができるまで、おれの気持ち変わらないと思うし。重く考えないで、おれのとこに行きたいと思ったら気楽に来てよ」
と優しく笑う。
きゅーん・・・
今すごく行きたい気持ちになってしまった。
あたしって意外と心の芯が弱い??
「分かった!」
「うん。今はそれで十分。・・・あっライブ始まるみたい」
と特設ステージを指さす鳴ちゃん。
鳴ちゃん、ありがとう。こんなあたしを好きになってくれて。
心から嬉しく思うよ。
「あのインディーズのライブ良かったね!」
「うん!おれも気に入った。メロディ、爽快感があってよかったし」
と鳴ちゃんが目をキラキラさせてる。
鳴ちゃんはライブに行くのが好きみたいで、よく色んなバンドのライブに行ってるみたい。
「あっそろそろ帰らないとマズイかな」
もう日も暮れてしまった。もうすぐ景色は夜に変わる。
「何か約束でもあるの?」
「あっうん・・・一応」
「・・・響と?」
「う、うん」
な、なんか気遣っちゃうな。さっきのことがあってから。
うー・・なんか顔も見れない・・・。困ったな。
「・・・おれさ、キャロと響がくっついたらそれはそれで応援するし、だから気遣ったりするのは無しだよ。」
「え?」
「響と張り合うつもりはないんだ。奪ってまで欲しいなんて思わないから。だから気にしなくていい」と優しく笑う。
「うん・・・」
違う・・・鳴ちゃんの方があたしに気を遣ってくれてるんだ。
あたしが重たくならないように、わざと・・・。
なんていい子なんだろ・・。
まだ高校生であたしよりだいぶ年下なのに。
はぁ・・あたしはつくづく鳴ちゃんに救われてるな。
お屋敷に着いた頃にはあたりが真っ暗になっていた。
「鳴ちゃん、今日はありがとう。ちょっと凹んでたからほんと元気出たよ。」
「おれも楽しかった。また行こうね」
とにっこり笑う。
「うん!」とあたしも笑顔で返した。
はぁ・・・癒されたなぁ。
今日の朝、あんなに目覚めが悪かったのが嘘みたい。
じゃあまたねと別れた後、
向こうから人影がこっちにやってくるのが見えた。
「ん?あれは・・・」と目を凝らすと・・
響だ!裏門の方からこっちに向かってくる。今帰ってきたんだ・・・。
あたしの目の前でぴたっと止まる。
「おかえりなさい・・・」
あっダメだ、目を見れない・・伏せてしまう。
「ただいま。今誰か一緒にいたように見えたけど?」
「・・・今日鳴ちゃんと出掛けてて」
その瞬間響の表情が変わった。
急にピリピリしたオーラに包まれ始めたし、どうやら怒りのスイッチが入ってしまったみたい。
「へークリスマスに鳴と一緒にいたんだ?」
明らかにイラついた声。責める様な眼差し。
いつもならびびっちゃうあたしだけど今日は違った。
昨日の件を思い出したら急にムカムカしてきた。
「・・・悪い?あたしが誰といようと響には関係ないでしょ?」
「は?」
や、ヤバい喧嘩売っちゃった!
「だって響が・・・。」
「オレが何?」
「・・・何でもない」
口に出したくもない・・・
「何だよ、言えよ?」
「だから何でもないって」とあたしが立ち去ろうとしたら
がしっと腕を掴まれた。
「い、痛いよ」
「言うまで離さねーよ」
「・・・・」
「・・・・」
響本気で離さないつもりだ。
言うしかないか・・、とあたしは観念する。
「・・・登山じゃなかったんでしょ?昨日」
「え?何で知ってんの?中止になったこと」
えっ
「中止?」
「そう。雪のせいで登山するには危険な状態だったから昨日は中止になったんだ」
登山は嘘じゃなかったのか・・・
「・・・そうだったんだ・・。でもそれでその日はどうしたの?」
ここからが本題だ。
「バイト行ってた。前から店長に中止になったら行くって約束させられてたんだよ。」
バイト?予想外過ぎる返答にあたしは目を丸くする。
けどまだ一番の疑問が残ってる。
「その後は・・・?」
フワフワちゃんと駅に・・・あれは間違いなく響だった。
「最初からサークルメンバーと温泉旅館に泊まる予定してて、登山は無理だけどそれは行けるから行ってきたんだけど。」
えっ・・・じゃああたしが見たあの光景って・・。
「あたし見たんだけど・・・響とバイト先の女の子が駅に一緒に入っていくの」
「え?あー、あいつクリスマスに友達と旅行行くって言ってて途中の駅まで一緒だったんだよ。ってかおまえどこで見てたの?全然気づかなかったし」
「!」
な、何だ、そういうことだったんだ・・・。
はぁ~~~~
「何だよ、いきなり座り込んで、疲れたのか?」
「・・・うんある意味でどっと疲れがきたよ」
「?」
あたしってば自分の中だけで妄想して決めつけてた・・・。
バカだなぁ・・・
「で、おまえの方は?」
はっ・・・そうだった!
あたし・・・やらかしたかも・・・
「鳴とデートしてたんだろ?・・・何で?さっきオレには関係ないとか言ってたけど、昼間はあいつと出掛けて夜はオレとって何か感じ悪いんだけど」
ごもっともです・・・
それは昨日あたしが(勘違いだったけど)響に対して思ったことと一緒の気持ちだ・・
どうしよう、とんでもないことやらかしちゃった・・。
「ごめんなさい・・・」とあたしは頭を下げて言った。
「おまえがそんな女だと思ってなかった。今日はもう帰る」
「えっ・・・」と顔を上げると
響があたしの前から去って行こうとしてるのが見えた。
「ま、待って!話を聞いて」と響の腕を掴んで止める。
「・・・ごめん今日は何言われても無理」
とあたしの手をほどいて今度こそ去って行った。
雪がまた激しく降ってくる。まるで響の姿を隠すかのように。
あたしはボー然としながら響の後姿をずっと見つめていた。
響すごく悲しい顔してた・・。
あたし響のこと傷つけた・・?
当然の報いだ・・。
勝手に響のこと勘違いして、勝手につらくなって、優しい鳴ちゃんに甘えたんだ・・
すごく自分勝手な行動だ。鳴ちゃんに対しても失礼だよね。
これは罰だ・・・響のこと信じなかった罰・・・。
何かがきっかけでいい流れが逆になってしまう・・・
今がまさにその状態だ。
手遅れになる前に戻さないと・・・
事情を話して謝ろう!
ちゃんと伝わるかな・・・
雪がいつの間にか止み、響の姿はもうなかった。




