恋の仕掛け人
「はぁー・・・」
「どしたのツキノン、そんなため息なんてついちゃって」
あたしたちは今日もまた響のバイト先にお邪魔してる。
ほんといつの間にか常連客になっちゃってるよ。
響ももう完全にあきらめたみたいで、歓迎とまではいかないけど、笑顔を見せてくれるようになったし。
そうそう鳴ちゃんは例の新聞部の一件で、高校の女子に出くわすとマズイからって当分ここへは来れなくなっちゃった。
まぁ自業自得だけど、あたしたちにしたら残念な話。
「しばらくここに来れないって、響さんと何かあったんでしょうか?」
やっぱそれで元気なかったのか。
「うーん、どうだろねー」
あの件は鳴ちゃんから口止めされてるからツキノンは知らないんだよね。
「あ、あのフワフワちゃん今日もいますね」
フワフワちゃんとはあの小柄な癒し系の女の子のことだ。
ツキノンが勝手にそう呼んでいる。
ちょっとぎくっとしたけど平静を装った。
「そりゃいるでしょ。バイトしてるんだから」
「なんか前より響さんと仲良くなってません?」
「ほ、ほんと?」
「嘘ですよ」
「・・・もー!」
相変わらず意地悪なところは最初と変わってない。
「でもぼやぼやしてたら・・・知りませんよー」
「だ、大丈夫だよ」
「今のところはね」とフフと笑う
ツキノンってばほんとにあたしの味方ー?!
不安にさせるような言い方ばかりしてー。
「恋愛は波乱があるほうが盛り上がるんですよ」
そのときガシャンっと何かガラスが割れたような音が店内に響いた。
そっちを見るとフワフワちゃんがトレイからグラスを落としたみたいだった。しゃがみ込んで破片を拾おうとしてる。
そこへ響が駆けつける。
ガーン、手握ってるし・・・
ケガしてないか見てるみたいだけど・・。
や、やだなぁ。こんなときまであたしやきもち妬いてる・・?
耐えきれなくなってそっちを見るのをやめた。
そんなあたしの目の前に、水の入ったグラスを突き出しながら、
「キャロさん、こっちもグラス割ります?」
とツキノンがとんでもないことを言ってきた。
「な、何言ってんの!ダメだよ」
「だってそんな顔するから」
「・・・でもダメ」
「はい分かりました」
ツキノンはどこかやっぱり危なげなんだよね。
今のもあたしがいいよって言ったら本当にしそうな感じしたし。
敵に回したら怖いだろうなぁ、ツキノンは。
「そういえば入りましたよ、天文部」
「マジでー!やったぁ」
「あはは。自分のことみたいな反応ですね。」
「だって嬉しいんだもん」
「・・・ありがとう。無事友達もできて楽しくやれてます。星のことだいぶ詳しくなりましたし、今度プラネタリウムに行きません?」
と言った後、あたしの耳元に口を寄せて
「二人で」
と言った。
「えっ!」
とツキノンの顔を見ると、何か合図のように片目をつぶってみせた。
「何コソコソ喋ってんの?」
わぁ!びっくり!いつ来たのか、ケーキセットを乗せたトレイを持った響が目の前に立っていた。表情は不機嫌そう・・・?
「プラネタリウムに行かないかって誘っていたんですよ。たまには女の子とデートしたいなと思いまして」
「はぁ?!おまえって・・」
「・・・僕はバイですよ。女の子も好きです。特にキャロさんみたいな色白の子タイプなんです」とあたしの頭に手をぽんっと乗せた。
ツキノンにこんなことされたの初めてだ。なんか変な感じ。
すると響の表情がみるみる不機嫌になっていき・・・
「・・・月野、調子に乗ってんじゃねーぞ」
あわわわ・・・俺様響の登場だー!
そのキレ顔恐いんですけどー・・
「キャロさん彼氏いないみたいだし、僕が立候補しても何も問題ないですよね?」
とツキノンがさらっと言うと・・
「・・・・勝手にしろ」
と怒りながらケーキセットをテーブルに並べ、さっさと向こうに行ってしまった。
「あはは。分かりやす過ぎ・・・ちょっと仕掛けてみたんですけど、大成功みたいですね」とクスクス笑う。
「?」
「響さんもけっこうのんびりしてるからなぁ。何かきっかけを与えてあげないと。彼が焦るくらいのきっかけを・・」
「ツキノンさっきから何独り言言ってるの??」
「何でもないです。ほんと鈍感二人には世話が焼けるなぁという話です。気にしないで」
ツキノンが何言ってるのかさっぱりわからない・・・
やっぱり謎な人だ・・。
「そういえばもうすぐクリスマスですね」
そうそう。もう12月入ったしすっかり街はクリスマスモードでこのカフェもツリーを置いてたりと装飾が施されている。
ハロウィンも好きだけどクリスマスの飾りつけもいいなぁ。華やかで。
街のあちこちに光るイルミネーションもとても綺麗だし。
クリスマスの音楽が流れると楽しい気分になってくる。
「恋人たちのイチャつく日ですよねー。僕には無縁の話ですが」
とツキノンが冷めた目で言う。
「あたしだって予定なしだもん」
「キャロさんは頑張り次第でどうにかなるでしょ」
「えっ・・・そうかな・・・」
「試しに誘ってみたらどうですか?」
「うーん・・・」
普段の休日に遊びに誘うのとは訳が違うから、誘うの勇気いるな・・
クリスマスっていう特別な日にあたしと過ごしてくれるんだろうか・・。
「あの子に先越されるかもしれませんよ?」
それは嫌だなー。
「それじゃなんとか頑張って予定聞いてみるよ」
「うんうん。その意気です」
とは言ったものの・・・
聞けるかどうか不安・・・
そして夜・・・
ちょうど響が帰る時間に合わせてベランダに出た。
あっ帰ってきた!裏門から響らしき人物が入ってきたのが見えた。
あたしは急いで下へ駆け降りる。
「響!」
「あーどした?」
今日もお客さん多かったしけっこう疲れてるみたい。
「あのちょっと話があって・・」
「あっおれもあったんだった。」と思い出したように言う。
「え?・・何?」
「・・・昼間言ってた話、ほんとにあいつと行くのか?」
ん??昼間の話?
「何ポカンな顔してんだよ、あいつとプラネタリウム行くって言ってたじゃねーかよ」
「あーあれか。行かないよー。行くとしても二人では行かない」
だってツキノンは鳴ちゃんがいなきゃ嫌だろうし。
「ふーん。そっか」
あれ?もしかして気にしてくれてた・・?
「何だよ、人の顔じっと見て」
「ううん、何でもない。あたしの話はね・・えっと・・」
「何だよ?」
「クリスマス・・・なんだけど」
「クリスマス?」
「あの、えと、み、みんなでワイワイやらないかって話が出てて響もどうかなって」
あー!あたしのバカバカ、逃げちゃダメじゃん!!
「あーオレ24日から登山サークルの雪中登山行く予定なんだよ」
え??雪中登山・・・
そんな日にー?!
「クリスマスに登山するやつなんてあまりいてなくて空いてそうって話になってさ。そんで次の日の夜帰るから。」
「そ、そっか・・」
なんだー・・がっかり。
そうだよね、あたし彼女でもないし、クリスマスの予定空けといてくれるわけもなく。そして空けてないからって怒る権利だってなし。
「話ってそれだけ?」
「うん」
「そっじゃまたな」
と眠そうな目をして去って行った。
なんか肩透かしくらった気分。
今年のクリスマスはちょっと寂しくなるな。
あれ?そういえば今思い出したんだけど23日って響の誕生日じゃなかったっけな・・?
前に、昔からクリスマスプレゼントと一緒にされて損するとか言ってた覚えがある・・。
その日は登山前日だし家にいてるかもしれない・・。
よしっあたしに出来ること精一杯やらなくちゃ!
響を頑張って喜ばすぞ~!
そして次の日。
今日はツキノンがカテキョに来る日だからあたしはまた例のごとく差し入れを持って鳴ちゃんの部屋にお邪魔した。
二人と雑談する為に。
「キャロさんどうでした?」
とツキノンにこそっと聞かれ、あたしは顔の前で指でXを作って首を横に振った。
「えーマジですか。」
「登山サークルの雪中登山だって」
「ん?なんの話?」とデスクに向かって問題を解いてる鳴ちゃんがこっちを振り返る。
「響がクリスマスに雪中登山行くらしいの」
「えーすごい日に行くんだな。ん?ってことはキャロ独り占めできるチャンス?」と鳴ちゃんがクリクリした大きな瞳であたしを見つめてくる。
もう、かわいい顔しちゃって・・
「ねー予定ないならオレと過ごさないー?」
や、ヤバい、そんな子犬みたいに甘えた顔で言われると・・・
「それ僕も参加していいですか?」
とすかさずツキノンが割り込んできた。
「あれ?ツキノンも予定なし?彼女いそうなのに」
「いえ、いませんよ。好きな人はいますけど」
とさらっと言う。
「ふーん。じゃあ頑張って誘えばいいのに。」
あわわ・・・
そんなこと言ったらツキノン凹むって~。
ほらやっぱり悲しそうな顔してるし!
「いいじゃん3人で楽しく過ごそうよ」
とあたしが助け船を出した。
「まぁそれもいっか。じゃあお一人様同士、楽しも♪」
鳴ちゃんには悪いけど、当日はあたし不参加にしよう。
ツキノンはいつもアドバイスくれたり協力してくれるし、あたしもたまにはお礼しなくっちゃ。
「どこ行こう♪楽しみだなぁ」
鳴ちゃんごめんね・・・今回はツキノンにあたしからのクリスマスプレゼントとして、二人っきりのクリスマスにしてあげることにします!
あたしはどうするかな・・・夕夏は当然彼氏と過ごすだろうし・・
まさか今年は一人っきりのクリスマス??
ひぇ~・・・寂しい・・・




