芽生える友情
数日後・・
「ツキノン!」
あたしは庭でツキノンがカテキョにやってくる時間を見計らって待ち伏せしていた。
もうだいぶ辺りは暗くなり始めている。
「キャロさん?どうしたんですか?」
「お礼が言いたくて」
「お礼?」
「うん。この前の助言、すごく役に立ったから。ありがとう」
とにっこり笑って言った。
すると彼は驚いて
「いえ、そんなたいしたこと言ってないですし・・。でもなんかいい表情してますね。」と言った。
「そうかな?・・それであたし、前進することにしたから」
ツキノンはあたしの言いたいことをすぐさま悟って
「ああ、そういうことでしたか。応援しますよ、僕は。」と言った。
「その方がツキノンにとっても都合いいもんね?」
「それもありますけど・・素直に応援したいという気持ちもあるんですよ。これには僕自身、意外に感じてるんですけどね。」と苦笑する。
「そっか。ありがとうね。あたしはさすがに応援するのは複雑なんだけど・・でももう邪魔しに行ったりはしないから」
と言うとツキノンは驚いた表情になって、その後優しい顔になった。
「・・いいえ、これまで通り来てください。3人で話すの、最近は楽しく感じてるんですよ。また待ってますから」
「ツキノン・・」
ツキノンがすごくいい奴に見える。最初と大違いだ。
お互い恋愛頑張ってる仲だし、これからはいい友達になれそうな気がしてきた。
「お互い頑張ろうね!」
「はい。では今日も頑張ってきます」
と言ってあたしの前を通り過ぎて行った。
その後ろ姿を見てふと思う。
ツキノンがどこまで鳴ちゃんに本気なのかは分からないけど、ツキノンの場合はとてもせつない恋だよね。
鳴ちゃんはたぶん好きになるのは女の子だけだと思うし。
最初から報われないと分かってて恋をするってどういう感じなんだろう・・。
「キャロ?」と前からダッシュしてくる男の子。
「あっ鳴ちゃん!今ツキノンが通って行ったよ」
「マジ??今日ちょっと急用できて帰るの遅くなっちゃって。」
「鳴ちゃん、あの・・変なこと聞いていい?」
「ん?」
「鳴ちゃんって、その、付き合うなら女の子だけだよね?」
「へ??あたりまえじゃん。何言ってんのキャロ」
と心底不思議そうな顔をする。
「そ、そうだよね。ごめん、変なこと聞いて。足止めてごめんね!行ってらっしゃい」
「うん。じゃあまたね」
と鳴ちゃんはまだ腑に落ちないような顔のまま通り過ぎて行った。
はぁ・・・なんだかあたしまでせつない気持ちになってきた。
夜空に変わる前の藍色の空を見上げてしばらく物思いにふけるあたしだった。
そして土曜日。
「秋晴れだぁ。ハイキング日和だね~!」
と鳴ちゃん。
ん?鳴ちゃん?って今思ったよね・・。
そうなんです。今日は響と約束したお出掛けの日なんだけど、メンバーは二人じゃないんです・・。
あたし、響、鳴ちゃん、そしてツキノン!
これには理由がありまして・・。
木曜日の夕方にですねぇ・・夕食の準備をして、その日は響だけだったから今日の話をしていたのです。
そしたらちょうど鳴ちゃんが入って来て聞こえちゃったみたいで・・。
そしたらもう予想はつくと思うけど
「おれも行きたい!」ってなったわけなんです~。
それでこうなったらと思ってツキノンにも声を掛けたらOKの返事もらいまして今日に至ります・・。
はぁ~・・・せっかく頑張って響を誘ったのにぃ。
でもまぁ4人でも楽しいだろうし、今日はしょうがない。
4人で思い切り楽しもう!
今来てるところはちょっとした小山?みたいなところで、そんなに険しい道じゃないんだけど、頂上に行くと展望台があって見晴らしがいいらしい。
気候的にはハイキングにちょうどいい感じ。暑くないし寒くもない。
ほんとだったら紅葉の時期に行きたかったけどね。
まだ木々は緑だし、紅葉にはもう少し先だなぁ。
みんな今日はカジュアルファッションなんだけど、ツキノンだけはいつもの黒装束で今日も黒いオーラを放っている。
ほんとこの人は自分のスタイルを崩さないよね。
けど今からハイキングする人には全然見えない・・。
「おまえ、ちょっとは場所に合わせろよな」と響もあたしと同じことを思ってたみたいで、遠慮なく公言した。
「?何がですか?」
本人は全く気にしていないみたい・・。
「はぁ~もういい。行くぞ」
「れっつGO~♪」
と鳴ちゃん。すごく嬉しそう。ハイキング好きなのかな?
「ツキノン今日は来ないと思ってた」とあたしはツキノンの横に行き話し掛けた。
「何でですか?」
「ハイキングとか体動かすの好きじゃなさそうとか思って」
思いっきり偏見だけど、キャラ的にさぁ・・。
「確かにあまり好きではないですが、鳴くんがいるならどこへでも行きますよ、僕は」とにっこり笑う。
きゅ~ん・・けなげだなぁ・・。
「二人とも遅いよ!置いてくよ~!」と先を行く鳴ちゃんが振り返って言う。
あらら、響と鳴ちゃんは歩くの早くていつの間にかあたしたちと差が開いていた。
「待って待って~!」
とあたしたちも早歩きして追いつく。
「キャロさん、前に行ってください」とツキノンがあたしに耳打ちをする。
「あ、うん!了解!」
とあたしはスピードをあげて先頭を行く響の横まで早歩きした。
そしてツキノンは鳴ちゃんの横へ行く。
なんか味方がいるって心強いかもー!
ツキノンはさりげなく協力してくれる感じだから助かる。
「響、普段サークルで登山してるから慣れてるんだね?」
「まぁな。こんな小さい山は楽勝ー」
そりゃ響にとったらそうだよね~。
けどあたしは普段そんな運動しないしちょっと歩いただけで息が上がる。
「?」
あれ?足の速さ、さっきより遅くなってるような・・?
もしかしてあたしに合わせてくれてるの?
響の横顔を見上げてみた。
響は全然息上がってないし余裕そう。
なんかカッコイイなぁ。
「何?」
とあたしの視線に気づいてこっちを見る。
「あっううん。何でもない」
とあたしは慌てて前を向いた。
「おまえさ、最近月野と仲良くね?」
響よりツキノンの方が一つ年上なのに平気で呼び捨てにしている。
さすが俺様響だな。
「ん?そうかなぁ。でも確かに前よりは打ち解けたかも。」
最近、全くツキノンから敵意を感じなくなったしなぁ。むしろ友好的だし。
「ふーん。あいつもなんか変わったよな。前より楽しそうにしてるっつーか。」
「そうだね。今日も楽しそうだし」
「おまえのその誰とでも仲良くなれる能力はすげーよな。オレには真似できねー」
「あれ~?俺様響には不可能はないんじゃないの?」とちょっと意地悪く言ってみる。
「何その俺様響ってのは。オレだって苦手なことぐらいあるんだよ」
「へ~響にも苦手なことがねぇ」とちょっと優越感に浸ってると、
「その顔ムカつくなぁ」
と響の手が伸びてきてあたしのほっぺを引っ張った。
「痛ひって~~~」
「ちょーそこの二人ラブラブし過ぎ!」
と後ろを歩く鳴ちゃんが拗ねた声で言ってきた。
「はぁ?!してねーよ!」
「おれだってキャロとラブラブしたいし~」
と後ろから抱きついてくる。
きゃーコケるって~~!
あやうくバランスを崩しそうになった。
あたしたちがわぁわぁやってると・・
「ねーちょっと休憩しません?」
とツキノンがはぁはぁと肩でつらそうに息をしながら言ってきた。
やっぱり運動苦手みたい。
「おまえなぁ、まだちょっとしか進んでないじゃん!情けねー奴」
と毒を吐きながらも足を止めて人の邪魔にならない場所に行く響。
「ありがとうございます」
とツキノンも移動する。
まぁあたしもちょっと疲れたところだったからツキノンが言ってくれてよかったかも。
4人で地面に座り込んだ。
「ツキノン、大学の友達とかといつも何して遊んでるの?」とあたしが聞くと、
「あー僕あんまり大学には友達いないんです。なんか取っ付きにくいって思われてるみたいで。」と苦笑するツキノン。
「何で?おまえけっこうフレンドリーじゃん」と響。
「いや、なんか話し掛けても警戒されるっていうか・・」
「ツキノンあきらめるなよ。分かってくれる人絶対いるって」と鳴ちゃん。
その言葉にツキノンは嬉しそうな顔をした。
「はい。でもいいんです。大学以外には友達いるし、それにあなたたちもいるから、寂しくないです」とにっこり笑う。
きゅ~ん。ツキノンったら・・またけなげな発言しちゃって。
そう思ったのはあたしだけじゃなかったみたい。
響も鳴ちゃんもあたしと同じような表情してる。
「けど・・もったいないよ。ツキノンいい奴なのにさ。無理はしなくていいけどやっぱりあきらめないで欲しいな」
と鳴ちゃん。
「オレも同感」
「・・・嬉しいです。二人の今の言葉、無駄にはしません」
じ~~~ん・・。
なんかヤバい。心に染みるやりとりだわ。
木々の中で秋風に吹かれ少し情緒の感じる空気が余計にその気持ちを増長させる。
しばらくしんみりした後・・
「よし、んじゃそろそろ動くか」と言う響の言葉を合図に
「はーい」とみんな立ち上がる。
頂上までまだ道は長いけど4人で頑張って登りきるぞ~!!
いつの間にかあたしたちの中に団結感が芽生えていた。
「やっと着いた~!」
ついに頂上まで辿り着いたあたしたち。頂上は見晴らしのいい広場になってて望遠鏡が何体か設置されている。
ここは都会から少し離れた場所だから見渡すと池や畑等自然豊かな風景が見える。空気もいいしマイナスイオンもたくさん飛んでそう。
リフレッシュできて心も体も癒されるなぁ。
「つ、疲れた・・」とツキノンがくたばっている。
あたしもだいぶヘトヘトになってるけどツキノンの方がしんどそう。
「ツキノン顔青いけどだいじょーぶー?」と鳴ちゃんがツキノンに声を掛けてあげてる。
「は、はい・・」と弱弱しい声を出す。
「これごときの山で情けねー奴だなー」と響は呆れた顔をしてる。
いつの間にか時間は正午を過ぎていた。
「みんなーお弁当タイムにしよ~!」
今日は朝早起きしてお弁当作ったんだよねー。響と鳴ちゃんとで手分けして持ってもらってるんだ。
二人がリュックからお弁当を出し始めたので、あたしはピクニックシートを広げる。
4人でそこに座り、お弁当を並べた。みんなで食べれるように2つの大きなパックに、おにぎりやサンドウィッチをたくさん入れた。
「えっ意外・・おいしいです」とツキノンがサンドウィッチを食べて感想を述べる。
「意外は余計ー!」
「おまえにも取り柄があったんだな」
とこんな意地悪を言うのは響しかいない。
「失礼だなぁ。あたしにだって一つくらいは取り柄あるもん!これでダメイドから少しは昇格した?」
「そーだな。一つくらいあげてやるかな」
「やったー♪」
「で、階級は?」と鳴ちゃんが聞く。
「うーん、相変わらずドジはするから、ドジメイドだな。」
「それってダメイドとあまり変わってなくない?」
「おまえがそんなスイスイ昇格できるわけねーだろ。有能メイドにはまだまだ程遠いんだよ」と俺様目線で言う。
うう・・・道は果てしないなぁ。
お弁当を食べ終わってからみんなでしばらく景色を眺めてのんびりした。
「ツキノンはサークルとか入ってないの?」と隣に立ってるツキノンを見上げて聞いてみた。
「はい。興味ある部はあったんですけど、なんかタイミング失ってしまいまして」と苦笑する。
「今からでも遅くないじゃん。入れば?誰かさんが大学でしか経験できないことはしとくべきだと言ってたからな」と響がこっちをちらっと見て言う。
「ちなみにどんな部?」と鳴ちゃんが聞く。
「天文学部」とツキノンは控えめに言った。
おーなんかぴったり!
「星に興味あるの?」と聞いたら、
「はい。・・・闇夜の中でも闇に染まらず光ってる星が不思議で。星のこと色々知りたいって思いました。」
「じゃあ天文学部入って星のこと学んだらオレにも教えろよ」
「え?響さんも星に興味あるんですか?」
「まぁな。」
そういえば響、星見るの好きそうだったもんね。
ふいに北海道で一緒に見た星空のことを思い出した。
そういやあのとき響、あたしの手に自分の手重ねてきて・・・
ぼっ
ヤ、ヤバい思い出してしまった・・。
あたしは人知れず赤くなってうつむく。
この状況でこれはマズイって~!
なんとか無理やり平常心を取り戻す。
「分かりました、学んだら教えます」
「おまえ約束だからな、ちゃんと守れよ」とニっと笑う。
「はい」と微笑むツキノン。
なんとなく思ったんだけど、響、今ツキノンの背中押してあげたんじゃないかな?
あたしにはツキノンが一歩動くきっかけをそれと分からないように与えたように見えた。
響って俺様の態度に隠れて分かりにくいけど、基本優しいんだよね。
ずっと見てたらそれがすごく分かる。
「暗くなったら危ないしそろそろ下りた方がいいんじゃない?」と鳴ちゃん。
確かにそうだ。秋になって日が沈むのだいぶ早くなってるし、悠長にしてたら危険だ。
「んじゃ下りますか」と響が歩き出したのであたしも付いて行った。
夕方、暗くなるまでにあたしたちは下山することができた。
今日は充実した一日だったなぁ。
この4人でハイキング、めちゃくちゃ楽しかったし、いい思い出になったよ。
みんなも疲れは見えるけどいい顔してる。
この後、帰り道にご飯を食べて、電車でお屋敷に帰る。
ツキノンはその帰り道で先に解散になったんだけど、別れ際に、
「今日はありがとうございました。たまにはこういうのもいいですね。また誘ってください。」と言っていた。
今日一緒に過ごしたことで、前より仲良くなれたような気がする。
色んな事話したしね。
3人で電車に乗って二人掛けの椅子が向かい合ってる席に今座っている。
あたしと鳴ちゃんが隣同士に座って、あたしの向かいに響が座る形。
「あいつ、嫌な奴だと思ってたけど、今日で印象変わったわ」
と響。
「ツキノンは最初からいい奴だったよ」と鳴ちゃん。
そりゃ鳴ちゃんに対しては最初から好意的だったもん。
あたしには怖い態度だったんだからー。
「人って最初の印象だけじゃ分からないもんだな」
「うん。同じ時間を共有すると色々見えてくるね」
「けどいまいち謎が多いんだよなぁ、ツキノンは」と鳴ちゃんが首をかしげる。
「風貌からして謎に包まれてるしな」
「自分のことあまり話さないもんね」
「今度つっこんで聞いてみよっかな」
「鳴ちゃんになら話すかもねー」
とツキノンの話題で盛り上がっていたら・・・
「あの、もしかして鳴くん?」
と後ろから声がしてあたしと鳴ちゃんは振り返った。
高校生ぐらいの黒髪のロングでお嬢様風の清楚なカッコをした女の子が立っていた。
美人だけど少し気が強そうなイメージ。
「・・・水川?」と鳴ちゃんは驚いた顔をしてる。
「うん・・久しぶりだね」
どうやら鳴ちゃんの知り合いみたいだけど、なんだろ、この気まずいような重たい空気は・・。
あたしは響と顔を見合わせた。響もこの異様な空気感じてるみたい。
「携帯、変えたんだね・・あれからどうしてるかずっと気になってて、新しい学校でうまくやってるの?」と控えめに聞いてくる。
「・・うん、うまくやってる。だから、もう心配しないで」
鳴ちゃんの言葉はなぜか氷の様に冷たく感じた。
表情も無い。
っていうか、今新しい学校って言わなかった?
「鳴くん、あたし・・」と彼女は何か訴えかける様な顔をしてる。
「・・ごめん、もう君と話すことないから、行ってくれる?」
と冷たく言い放つと彼女はショックな表情になり、
「・・・・・ごめんね」
とつぶやくように口に出して去って行った。
残り香のように、重い空気はまだ消えない。
鳴ちゃんはしばらく無表情のまま黙っていて、あたしも今は何か話せるような空気じゃなかったから同じように口を閉じてた。
聞きたいことは滝のようにあるんだけど、今はよそう。
響も空気を読んで、黙って外の景色を眺めている。
「・・・ごめんね。空気悪くして」と鳴ちゃんがやっと口を開いた。
「全然いいよ。何も聞かない方がいい?」
「・・うん。また自分から話せるようになったら話すよ」
「うん。分かった」
鳴ちゃんは急に元気がなくなってしまってそれが心配。
傷ついた子犬みたいな目をしてる。
ツキノンも謎だけど、鳴ちゃんにも謎なとこたくさんあるんだよね。
みんなそれぞれ何かを抱えて生きているのかな。
電車にゆらゆら揺れながら感慨深い気持ちになった。




