走り出す想い
今日は響に部屋の掃除を頼まれてて、今掃除中。
っていうか頼まれてたこと夕方になって思い出して、今焦って掃除しているところだったりする・・はぁ~相変わらずダメイドなあたし。
掃除と言っても、響の部屋はいつも綺麗に整頓されてるから掃除機かけるくらいなんだけどね。
今日は授業が午前中まででその後バイトってゆってたからまだしばらくは帰ってこないはず。
バイトと言えば・・・
この前のカフェのこと実は少し気になってたりする。
響のことなんとなく好きそうに見えたあの女の子。
それでふと思い出したんだけど、響、遊園地のときに今好きな人いるって言ってたよね。
それってまさか・・・
ずきんっ
うう胸の奥がなんか痛い・・。
何これ・・なんか苦しい。
もしも二人がくっついたら、あたしと響の関係はどうなるんだろ・・。
響がその子に夢中になっちゃったら、あたしのことなんて忘れ去るんじゃ??メイドもその子に頼んじゃったりして・・
それは嫌だなぁ・・。
あたしの思い込みかもしれないけど、今はすごく近い場所に居れてると思うんだよね。
メイドになってからもう半年、その間に色々あったし、それなりに絆だってできてると思う。
だけど・・それが簡単に消えてしまいそうな気がして。
だからずっと不安なんだ。
「キャロさん、お掃除中ですか?」
と換気の為に開けっ放しにしていたドアからツキノンの顔がのぞいた。
「あっツキノン!今終わったところだよ。今日はカテキョの日?」
あたしたちはいつの間にか前よりフレンドリーになっていた。
「そうです。至福の時間がもうすぐ始まります」
とご機嫌だ。
「・・・ツキノンさらっとそういうこと言うよねー」
「僕素直ですから」
「はいはい」
「何か悩んでます?さっき険しい顔してたから」
とツキノンは遠慮なしに部屋に入って来た。そしてドアを閉める。
これは響に知られたら雷が落ちそうだな。
何で勝手に入れてんだよ!って。
「うーん・・。」
「もしかして響さんのバイト先の女の子のことですか?」
鋭いな・・その緑の目は透視能力でもあるんじゃ??
けどまぁこの相談はツキノンに言うのが適してるかも。
「うん・・まぁ。あの子響のこと好きそうだったよね?」
「そんな感じでしたね」
「そうだよね・・ねーツキノン、好きってどういう気持ち?」
「それは・・人それぞれだと思いますけど、僕の場合は、ずっと見ていたいとか、触れたいと思うことでしょうか。」
ずっと見ていたい・・・触れたい・・か
ん?・・・触れたい?!
じろーーーっとツキノンを睨むように見た。
「別にいいじゃないですか。自然なことです。」
「鳴ちゃんに変なことしないでよ」
「変なことって?」と首を横に傾ける。わざとらしいったら。
「だから・・・その、例えば鳴ちゃんが寝てるときにキスとか!」
「あはは。しませんって。起きてるときに事故に見せかけてするかもしれませんが」と妖しく目を光らせる。
「ツキノン!」と鬼みたいな顔でツキノンを睨むあたし。
「冗談ですよ。僕はこれでも卑怯な手は使わない主義なんで。」
「ほんとかなぁ?」と思いっきり疑いの目を向けた。
「信用ないなぁ。ってか今はキャロさんの話でしょ」
あれれ?ほんとだ。思いきり話がそれてた。
「まぁとにかく、あの女の子と響がもしくっつくことになったらあたしはどうなるんだろってそんなこと考えてたの。」
「それはまずないでしょ」と無表情で即答する。
「え?何でそう言い切れるの?響ちょっと前に好きな人いるって言ってたんだよ?」
「響さんがそんなことを?」と無表情から意外そうな顔になった。
「うん。だからその子かもしれないじゃん」
「・・・鈍感ってここまで来ると罪に感じますね」と溜息をつくように言う。
あれ?もしかしてなんか呆れてる??
「?」
「とりあえず、今のところは心配ないと思います。でも、一つだけ忠告をすれば、自分の今居る場所を守る為にあなたは戦わなければいけなくなる時が来るかもしれません。そのときはメイドのままじゃ戦えませんからね。」
「?」
「今僕が言った言葉、いずれ分かるときが来ると思います。胸にとめておいて下さい。おっと、そろそろ時間切れだ。また何か助言が欲しくなったらいつでも会いに来てくださいね。では」
とさっとドアから影のように出て行った。
あたしはポカンとなっていた。
ツキノンは何が言いたかったんだろ・・。
今のあたしにはまだそれは分からなかった。
次の日も響はバイトみたいで帰ってくる時間に合わせて響の部屋に行ってみたんだけどなかなか帰ってこない。
延長になったのかな・・それともまさかあの女の子とご飯でも行こうとかって話になったとか??
もやもや・・・
なんか胸がすっきりしない。嫌なことばかり考えてしまう。
そんなときドアが開き、響が帰ってきた。
あたしは安堵感に包まれる。
「おかえりなさい!」
「ただいま・・っておまえ部屋で待ってたの?」
「うん」
「珍しいじゃん。何か用があって?」
「ううん。なんとなく・・」
「ふーん」と言ってカバンを置いてベッドに腕を頭の後ろに組んで仰向けに寝転ぶ。けっこう疲れてるみたいで目を閉じてる。
「バイト・・もうだいぶ慣れた?」
「うん、まぁ。バイトの仲間とちょっとは仲良くなってきたってところかな」
「あの女の子とも??」
とつい口走っちゃった。
「?・・女って誰のことゆってんの?」と顔だけ横に向けてこっちを見る。
「あ、えっと、この前話し掛けてくれた小柄な女の子・・とか」
「あ~みちるか」
名前で呼んでる!・・ガーン・・そんな仲いいんだ・・・。
「あいつドンくさいからけっこう手がかかるっていうか、よくフォローしてたら自然に打ち解けていた、みたいな」
「・・・」
どうしよう。自分から聞いておいて、今は耳を塞ぎたい気分だなんて。
勝手過ぎるあたしの心。
「ドンくさいところはおまえと似てるかもな」と笑う。
「!・・似てないよ!」
「・・・何急に怒ってんの?」
「お、怒ってないし」
「イライラしてんじゃん」
「そんなことない・・・あたし、もう行くね」
「?」
あたしは響の方も見ず急いで部屋を出た。
どうしてだろ・・なんかイライラする。
似てる・・なんて言わないでほしかった。
あたしはこの世に一人。誰とも一緒にされたくないんだよ。
響にとってたった一人の女の子でいたいんだよ。
恐い・・響の心がだんだんあの子に近づいていくんじゃないかって。
あたしの居場所がなくなりそうで。
さっきは変に思われたかな・・。あたしの態度、明らかにおかしかったよね。
フォローしようと思って仕事終わりにもう一度響の部屋に訪れた。
そしていつもの様にドアをノックして中へ入る。
あれ?・・なんか静かだな・・。
「・・・・」
あっ・・響寝ちゃってる・・。
さっきの体勢のままで寝ちゃったみたい。
あたしは起こさないようにそっと近づいた。
響の顔のすぐ横にしゃがむあたし。
寝顔、子供みたいでかわいいなぁ。
すーすー寝息をたててる。
綺麗で弾力のありそうな肌につい触れてみたくなった。
触れたい・・・?
『僕の場合は、ずっと見ていたいとか、触れたいと思うことでしょうか。』
ふいにツキノンの言葉がフラッシュバックする。
どきどきどき・・・鼓動が早くっていく。
両方あてはまってる・・・。
ずっとこのまま見ていたいし・・触れたい・・
「ん・・あれ・・オレ寝ちゃった・・?」
「・・・」
「ん?・・キャロ?・・さっき出て行って・・あれ?・・」
ふふ、響、寝ぼけてるみたい。
「また戻ってきたの」
「そっか・・よかった。イキナリいなくなるから心配するじゃんか。そばにいろって言っただろ・・?」
なんだか響はまだ寝ぼけているみたいで言葉がおぼつかない感じ。
「うん・・」
響、あたしね、そばにいろって言われたからいるんじゃないんだよ。
あたしが居たいから居るの。
やっと気付いた自分の気持ち。
響の一番近くにいたい。
響にもそう思ってほしい。
こんな風に感じることがあたしの「好き」だ。
もうだいぶ前から頭の中で警戒音は鳴ってた。
だから距離を置いたりして自分の気持ちにブレーキをかけてた。
全ては今の関係を崩したくないが為に。
だけど今度は逆に今のままじゃ大事なものを失う状況になったんだ。
それを守る為に変わらなくちゃいけない時が来た。
ツキノンが言ってた意味、今なら分かる。
響の一番でいるためにはメイドじゃダメなんだ。
そこから一歩踏み出して、あの子と同じ舞台に立たないと戦えない。
響の隣だけは譲れない。この場所を守りたい。
だからあたしは戦う。
もう変化すること恐れないから。
自分の気持ちにブレーキ踏まないから!
「響、次の休日どこか空いてる?」
「うん、土曜なら」
「一緒にどこか出掛けない?」
「うん。おまえから誘って来るなんて初めてだよな」
「そうだっけ?」
「そーだよ」
とぶっきらぼうに言った後優しく笑った。
どきっ・・
あたしはどうもその笑顔に弱いみたい。
好きだなぁ・・
自覚したらどんどん気持ちが大きくなっていくような・・
あたしの想いが今、前へ走り出す。




