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 一週間経ってようやく新聞が《月蝕の魔女復活》という見出して大々的に報じてきた。

 意外だったのは、記事の内容が魔女に好意的だったことだ。建国神話の月蝕の魔女のイメージ通りに、極悪非道な魔女として有る事無い事書かれると覚悟ていたのだが、実際には『魔力過多症の兄弟を救う』や『国家魔法団を一瞬で制した』など、事実に基づいたもので驚いた。

 さらにノクシスが国家転覆を企てたとして投獄されたことも書いてあり、思わず声が出てしまった。確かにそんなことを言っていたような気がしたが、まさか本気だったとは。そしてその悪事も私が暴いたことになっていた。この件で国家魔法団は実質の解散状態。国としても復活した月蝕の魔女を捕えたい意志はあるが、国の軍事を担っている国家魔法団を復活初日に完膚なきまでに叩きのめし、さらには解散状態の今、誰も私には立ち向かうことが出来ず、なすすべがないのだろう。






 私の活動は順調そのものだった。国中に放った黒蝶が次から次へと魔力過多症で苦しんでいる子供たちの情報を運んでくる。その中には幼すぎて母親が側にいないと落ち着けない子も多く、治癒対象の家に行くときは予告として手紙を届けた。きっと好意的な新聞がなければ、母親たちは絶対に子どもたちを差し出さなかっただろう。しかし『我が子を治したい』という気持ちが大きく、怯えながらも私を受け入れてくれた。



 もちろん、月蝕の魔女に否定的な層もいて、《月明かりの会》という組織を作った。メンバーには貴族も平民もいて、それぞれで活動していた。

 初めの頃は各地で『魔女に子どもを見せるな』『魂を食われるぞ』『洗脳され悪事に加担させられる』と旗を掲げ、予告状が届いた家に押し入り暴れまわる人たちもいた。普段の月明かりの会の活動はいくらでも見逃すことができたが、家で暴れ回る時だけ睡眠魔法をかけその場を収めた。

 彼らの(月明かりの会)の気持ちも痛いくらいに理解できたからだ。『子どもを守りたい』その気持ちは私も一緒なのだから。




 私は何年もの間、子ども達を助けることだけに専念した。この頃のは魔力過多症の子だけではなく、その他の病気やケガまでも治療したり、経営難の孤児院に支援を届けたり、水害で深刻な被害を受けた集落を助けたり…。とにかく手の届く範囲でできることはなんでやった。

 そのうちにあのやけに好意的な新聞がこの活動を《夜の祝福》と名づけ、私が《夜の祝福》をしに現れると、人々の怯えた様子なくなり、心から私を歓迎してくれるようになった。



 この忌まわしい力が人々の助けになることが嬉しかった。

 たくさんの子が当たり前に親から愛され、それを受け取りスクスク育ってく。そんな当然のことからあぶれた私はこの夜の祝福を行うことでその輪の中に入れたような気がした。




 そしてあの夜から五年、二十歳になった私は魔力の最盛期を迎えていた。






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《ついに月蝕の魔女討伐に向け、若き天才グラディウス・レオリオンが立ち上がる》


 そんな見出しを凝視してしまう。なんで今更、しかも単騎出陣?しかも魔法が不得意だが剣技に長け、国の治安維持に勤めている王直魔法騎士団から抜擢されるなど一体どういうつもりなのだろう。新聞には魔女は建国神話通りに国を乗っ取ると心配した王太子が、間近に迫った即位に備え少しでも不安要素を取り除きたいといった内容であったが、どうもおかしい。




ーーグラディウス・レオリオン


 この国唯一の公爵家であるグラディウス家の後継者。両親はすでに他界しており、現当主であるグラディウス・ヘンリックの孫。五年制のアカデミーを三年で卒業し、歴代トップの成績で王直魔法騎士団へ入学。現在も王都の治安維持にも大きく貢献し、民衆からの支持も厚い。

 騎士ながら魔力も豊富で魔法の力も申し分のない次期公爵様は、『月蝕の魔女』を討ち、三年後に控える自身の襲爵に花を添えることができるのだろうか。





 記事を読み終え、こんな完璧な人がいるのかと感心する。しかしどんなに優秀な人でも私を捕らえることなどできない。

 魔力の最盛期を迎えた私は、言うなれば無敵だ。まさに向かうところ敵なし。五年間の活動を経て、経験を培い自信も付けた私の《祝福》は誰であっても止めることはできないのだ。


 

 ふわりと黒蝶が私の指先に止まる。『お姉様会いたいです』というセレナの声が空気に溶けていく。セレナは黒蝶を見つけると、語りかけ、その声は私に届き心を震わせる。



 私が例えどんなに優れた魔法使いで誰にも捕まえることができなかったとしても、そして世間がどんなに友好的になったとしても、月蝕の魔女の妹と知られてしまえば、白い目で見られたり危険だって及ぶ可能性がある。また、私を取り込み悪事を働こうとする輩も一定数いるのだ。セレナは魔力保有量が少なく、狙われたらひとたまりもない。




 別の蝶が現れ溶けていく。『お姉様私もうアカデミー卒業よ、何かお祝いが欲しいわ』というセレナの声と共に。




 驚いた。これまで五年間どころか、一緒に過ごしていた頃も一度だって何かを強請ったことはない。



 セレナ、アカデミーは楽しかった?頑張り屋のセレナのことだからきっと優秀な成績を残しているわね。領地経営を学ぶために入学したから卒業後は領地に戻るのかしら。婚約したという報道は今まで無かったけれど、アカデミーで恋人でもできていたのなら、その彼は世界一の幸せ者ね。



 五年というは少女が淑女に変わるのに十分な時間だ。かつての無邪気な面影は、見る者を惹きつけて離さない洗練された美しさへと開花いているのだろう。背筋をすっと伸ばし榛色の柔らかな髪の束をかき上げる指先には女性らしいしなやかさと落ち着きが宿っているに違いない。

 遠い日の天真爛漫な笑顔を思い返しながら、過ぎ去った年月の長さに思いを馳せる。直接この目で見ずともわかる。セレナはきっと誰もが息をのむほどに美しく成長しているだろうと。



「プレゼントを送るくらいなら大きな魔法も使わないし痕跡も残らないわね。卒業祝いか…懐中時計なんていいんじゃないかしら」



 時計は実用的だし、贈ることで“あなたと時間を共有したい”という意味が込められる。これからも一緒に過ごすことはできないが、心はいつだって離れてはいないのよ。そう伝わることを願って。



 黒蝶がひらりと外へと飛んでいく。今はどんなデザインが主流なのか、若者に人気のお店はあるのか、調べてきてくれるだろう。




 私は蝶を見送るとバスルームへ向かった。

 さあ、今夜も苦しむ子ども達に《祝福》を届けましょうか。



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