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かろうじてたどり着けた私は深刻な魔力切れを起こし、セレナをひどく心配させた。経緯を話すとこれまでにないくらい動揺していたので流石に『あの黒い姿を見られた』までは言えなかった。
「魔力過多症は治ることない不治の病なのです。それを治してしまうだなんて、前代未聞です!」
いつも願えば勝手に発動する魔法とは違い、私の意思で魔力を操作したのも全力を出したのも初めてのことだった。兄妹の反応を思い出してもやっぱりしでかしてしまったのか、と思う。
「だいたい、魔力過多症の兄妹も怪し過ぎます。強すぎる魔力や金眼金髪は貴族の証、どこかの貴族の私生児に決まっていますわ!その兄妹がお姉様のことを言いふらしたらどうなると思うのです。利用しようと国家魔法団や王直魔法騎士団が躍起になってお姉様を捕えようとするでしょうね」
「それは困るわね」
「お姉様、いい加減にしてください!いくらその兄妹のことをほっとけなかったとしてもやりすぎです。もっとご自身の価値を理解し、軽率な行動は控えてください。お姉様の身に何かあったらどうするのですか」
「そうね、気をつけるわ」
「でしたらこのセレナに誓ってください。もう問題は起こさないと。それともうその兄妹には会わいと」
セレナと約束してしまったため、会うに会えなくなってしまったが、あの兄妹のことが心配で考えない日はなかった。しかし長い間魔力に晒されたためすぐには難しいだろうが、きっとあの魔力量だ、使いこなすことができれば立派な魔法使いになれるだろう。すぐに健康を取り戻し、これからも支え合って生きていける。そう思うと私も安心して日常に戻っていった。
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それから数週間経ったある日の夕方、店仕舞いをしているとローブを被った怪しい風貌の集団がどこからともなく現れ『このドロップ作ったのはあなたですか』聞いてきた。
「そうですけど、何か」
「そしたら、あなたは魔力過多症の兄妹のことも知っていますか」
「突然なんですか」
ピリッと空気が凍りつく。見るとかなり魔力量が高い集団のようだったが、全員分足したとしても私には到底及ばない。そのことは彼らも分かったようでザワザワとどよめき立っている。
「こんな田舎まで出向いた価値はあったな。この魔力量は実に素晴らしい!」
「お、おい、こいつらの紋章、国家魔法団じゃねえか?」
「国家魔法団?」
「国中の魔法使いが憧れる超エリート集団だぞ」
「そこの飴屋の店主、ついて来い」
海鮮串屋の店主が耳打ちしてくる。ああセレナが言っていたのはこの人たちのことなのか、と理解するが危害を加えられる心配は全くなかった。いくら人数が多いとはいえ、私には無意味だからだ。しかしここはセレナのが将来治める領地の観光名所。馴染みの同業者やお客様も多く、騒ぎは起こしたくなかったので大人しくついて行くことにした。
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着いた先は、あの幼い兄妹の家だった。そう家だったところだった。
数週間前に訪れた時は、古いながらにも手入れが行き届き、両親が生きていたころの大切な思い出が詰まっていた宝物のような空間だったのに、無惨に荒らされ、見る影もない。そしてこの家主でもある兄妹がどこにもいなかった。
「どうして、一体何が…!?」
「数年前、魔力過多症で余命わずかな幼い兄妹を連れた家族がここの村に流れ着いてきた。村人はかわいそうだと哀れみこの家族を受け入れ、両親が死んだ後も色々と気にかけていたそうだよ。しかしある日突然、その兄妹は元気になった。そこまでは君も知っているのではないかい?」
「さっきからなんなんだ、目的を言え!」
私に構うことなく男は話を続ける。
「村人はある結論に辿り着いた。あの兄妹は何か企んでいると。そして魔力が見える者を連れてくると、そいつはこう言ったそうだ。『こいつらはとんでもない魔力を持っている。そのうちに月蝕の魔女のように村を乗っ取るつもりに違いない』と。そこから村の男衆で部屋を荒らし、高価な宝石を見つけたそうだ。『ほら、金がないなんて嘘だ。こいつらは俺たちを騙したんだ』と」
おそらく魔力過多症が治った二人は魔力が順当に流れ始めたことにより、今までにない魔力を得ただろう。きっともう少し後だったら魔力のない平民にここまでやられることもなかっただろうが、まだ使いこなすには時間が足りない。きっとなすすべなく形見を取り上げられ、村を追い出されたのだろう。
怒りで頭が真っ白になる。幼い二人に大人が寄って集って理不尽な暴力を働くなどあってはならない。それにあのネックレスは母の形見と言っていた。どうしてこんな酷いことができるのか。
「兄妹を追い出した後、隣町に往診に行っていた医者が帰ってきて、村人の全員の前で言ったそうだ『彼らは間違いなく不治の病である魔力過多症で余命は一年もなかった』と」
「…」
「そしてこの噂はたちまち国中を駆け巡り、我々国家魔法団にも伝わった。まさか魔力過多症が治っただなんて眉唾の噂を信じたわけではなかったが、それと同時に奇妙な話も上がってきた。西の外れにある観光地でなんでも治す魔法アイテムが売っていると」
男はどこからかヒールドロップを取り出すと、口にいれガリガリと噛み始め飲み込んだ。
「君がどんなつもりでこの飴玉を売っていたのかわからないが、非常に優れた代物だ。なんせどんな不調も治してしまうのだから」
「あれは特別に調合した薬草を練り込んただだけの疲労回復剤だ」
「そんな嘘、魔力なない平民どもならそれで騙せただろうけど、魔法が使える者ならすぐにわかるさ。この飴玉には魔法が練り込んであるとね。その様子だと、魔法のことも理解はしていないだろう。魔法というのはね、魔法学に基づきとても緻密なものなんだよ。特に治癒魔法は打撲なら打撲、風邪なら風邪、その原因にアプローチした魔法練ってを流さないと効果がないんだ。何にでも効く魔法など聞いたことがない。しかしあの飴玉は持続時間は短いけれど、間違いなくどんな不調でも治してしまっていた。解析しても全くわからない」
悦に入ったようにベラベラと喋り続ける男。対照的に私は冷静になりこの状況を客観的に見ていた。この場を円く収めることはできないだろう。話が終われば私を捕まえようと拘束魔法を使うことは目に見にえている。もちろん逃げるのは容易いがその後はどうなるのだろうか。もう露店では働けない。それに魔法には魔法使い本人の特徴が残るので、ヒールドロップを解析されてるということは今後魔法を使う度に特定されてしまう。きっとしつこく追いかけくるのだろう。
『このドロップを食べた人が元気になりますように』と少量の魔法を練り込んだヒールドロップ。それがこんなにも噂になっていたなんて知らなかった。こんな少量の魔法ですら特別なものになってしまうだなんて。
セレナは私がいかに規格外の魔法使いなのかを教えてくれていたが、正直あまりピンときていなかった。魔法が苦手なセレナや平民のアンでは比較できず、一人独学で魔法を学んできたことも大きい。
改めて荒らされた家を見る。四人の仲睦まじい家族の写真が入っている写真立てが割れ床に落ちていた。私のせいで幼い兄妹には辛い思いをさせてしまった。
セレナはあの兄妹は私のことを言いふらすのではないかと心配していたがそんなことはなく、回復しきれていない体で何も言わずに追い出されてしまった。『月蝕の魔女にやられた』と言ってどうにかやり過ごすことはできなかったのだろうか。私なんか悪役にしてしまえばいいのに、『悪い魔女はあいつだ!』と、お店に来てそう大人たちに言えば大切なこの場所は奪われずに済んだだろうに。
先ほどから喋り続けている男が右手を挙げると、集団が一斉に拘束魔法をかけてきた。
ジャララと数十本の魔法でできた光の鎖が私に巻き付く。
「お前のその力があれば国をも操れる!国家魔法団団長・グリモアール・ノクシスと一緒に国王を討つぞ!私に従え!!」
セレナ、ごめんね。“問題を起こさない”という約束は守れそうにない。
受け入れる時が来たのだ。今まで背け続けてきた私の運命を。
そしてこの場で証明しなければならない、私が稀代の悪党『月蝕の魔女』であることを。




