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お店から離れた領地内の森の中、もう使われていない小屋へと移動してきた。ゆくゆくはここで暮らしていくつもりでなので五年かけて修繕をし、自分好みのお気に入りの家になってきたところだ。
粗末な作りのベッドに女の子を横たえると、その側に私も座る。思わずここへ連れ込んできてしまった理由は、あまりの細さに思わず見てしまったこの子の状態が到底無視できない程に酷かったからだ。
この子の体内は魔力が溢れ充満し、ギリギリと臓器を締め上げ、機能不全を起こしていた。さらにじっくりと見てみると、ひどく損傷している臓器があり、そこが魔力を司る臓器・魔核であることに気がつく。魔核の傷から絶えず魔力が溢れ、他の臓器を傷つけていく。
居ても立っても居られず、体に手を添えいつもの様に魔法を発動する。
「この子の体が治りますように」
ぱあああっと光が女の子を照らし、包み込む。
セレナの右手を治した時は軽度の火傷だったため、願うだけで治すことができたが、今回はそうはいかなかった。
体の内部の状態が視覚情報として流れ込み、それを確認しながら治癒魔法をかけていく。力を入れすぎると女の子が呻き声を上げるので、多くの魔力を流すと体に負担がかかるらしい。少しずつ繊細に、そして確実に治していく。
「はああ、これは想像以上に疲れるわね」
思わず腰を折り、女の子の体の上に倒れ込んでしまった。あ!と思いすぐに体を起こし、顔色を確認する。最初よりは血色が良く、呼吸も楽そう。もう少しで魔核は治りそうだった。
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「ここは…?」
「あ、気が付いた?」
「お店のお兄さん…?なんで…え、体が苦しくない…?」
女の子は訳が分からないと言ったように、自分の体をペタペタと触り、まばたきを繰り返す。
そういえばあの時は必死で気が付かなかったが、よくよく考えると女の子を気絶させて家へ連れ込む男など、犯罪者だ。
「怖い思いをさせてごめんね、心配でつい治療魔法をかけてしまって」
「え!!お兄さんが?」
「うん。体はどうかな、苦しいところはない?」
「本当に、本当に、お兄さんが治してくれたの?本当に?」
信じられないというように何度も「本当に?」と繰り返し「治るわけがないのに」と呟く。
そんな様子を見ていると、一抹の不安を覚える。…セレナ、私はとんでもない事をしでかしたのかも。
「勝手にごめんね。とても苦しそうだったからつい」
「あの!お願いがあります!!」
突然バッと振り向き、私の手を強引に掴む。その美しい金色の瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「お兄ちゃんを助けてください、私にできることならなんでもします。どうか、どうかお願いします」
「お兄ちゃん?」
「はい、私と同じ魔力過多症で今にも死にそうなんです、どんなお医者さんも魔法使いでも治せなくて。最後の望みをかけて有名なヒールドロップを買いに来たんです。まさか治せる魔法使い様に出会えるだなんて夢にも思ってませんでしたけど…。どうかお願いです。兄ちゃんを助けてください」
魔法過多症とは初めて聞いたが、想像に難くない。きっと魔力が多い子が魔核を損傷してしまい、溢れた魔力が引き起こす臓器の機能障害のことを指しているのだろう。
この子もかなり酷い状態だったが、それでも兄のためにお店に来たということは、そっちの方が重症だということだ。
「たった一人の家族なんです。お兄ちゃんがいなくなったら、私、どうしたらいいかわからなくて…」
女の子を治すだけでもかなりの魔力を消費したので、この後にもっと重症の子の治療などできる自信がなかった。しかしボロボロと涙を流し額に私の手を当て『お願いします』と繰り返し懇願してくる少女を見て、心が決まった。私は兄妹愛に弱いのだ。
「治せるか分からないけど…できることはさせて」
「……!あ、ありがとうございます」
そう言って声を上げて泣く女の子の背中をさする。大丈夫きっと治してみせる。
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「信じられない、さっきから夢を見ているようだわ」
私は兄思いの女の子、ミシェルが教えてくれた住所を座標にして、とある村にある小さな家へと瞬間移動した。
「ミシェル、帰ってきたのか」
「お兄ちゃん!」
ミシェルが跳ねたようにベッドへ駆け寄る。そこには病魔に蝕まれ痛々しいほどに儚くも、圧倒的な美貌を持った少年が横たわっていた。血の気の引いた白い肌と眩いばかりの金色の瞳と髪。その対比は彼が生きている人間だと疑わせるほどに美しく残酷だった。
透視魔法を発動する必要もないくらいに、彼が自身の魔力に冒されていることが分かった。この家は彼から溢れた魔力が充満していて、立っているだけで空気のひりつきを感じる。
この魔力はとても攻撃性が高い。これが体内でも溢れているだなんて一体どれほどの苦痛なのか。こうしている場合ではない、一刻も早く治療を始めなければ。
彼に近づき魔法を発動する。例によってぱあああっと光り出すと、ミシェルは兄の手を取り『もう良くなるからね』と涙ぐむ。
「な、なんだこれ…!?おい、誰だお前、いったい何を」
とにかく彼の体内に充満するこの魔力を外に出さねばと思い、暴馬のような彼の魔力を私の魔力で強引にねじ伏せ吸収していく。
「…っ、なんだこの感覚…!ミシェル、どうなっている説明しろ」
「奇跡が起こったのよ、奇跡のような魔法使い様が私たちを助けてくれるの!」
「なんの説明にもなってないぞ、もっとちゃんと教えてくれ!」
兄妹が噛み合わない会話をしている間も吸収を続けるが想像以上に疲れる。大量の魔力を消費していくので、どんどんと指の先が冷たくなっていく。ただの魔力吸収で倒れるわけにはいかない。魔核を治さなければなんの意味ないのだ。
ある程度魔力を吸い出すと、他の臓器への攻撃がなくなったからか、顔色が幾分良くなった気がする。
さあ、ここからが本番だ。魔核の治療を開始するべく、気合をいれて両頬をパンっと叩く。
「な…!体が…楽になった…?何がどうなって、おい…」
「今から魔核に直接治療魔法をかけるね。私も魔力が少なくなってきて余裕がないかも…ごめんね」
ミシェルは体が弱り少しずつ治癒魔法をかけたが、彼はだいぶ体が強いようだった。だからこそここまで生きてこれたのだ。常人ならもうすでに命はなかっただろう。
私も残りの魔力を振り絞り、絶えず魔力が滝のように溢れ出す彼の魔核に向け、治癒魔法を流し込む。
「…ぐっ、、かはっ」
「お兄ちゃん!!」
止まることを知らない彼の魔力を無理やり押さえつけ、力技で魔核の穴を塞いでいく、荒治療に耐えきれず彼は血を吐くが、ここで止まる訳にはいかない。
「ごめんね、もう少しだから…!」
「んぐっ、はあはあ……ぐっ、おま、え、髪色が…!」
治療を開始してから放ち続ける光とは別の光が溢れ出す。その光はありふれた露店の店主である青年の仮面を剥がし、私を本当の姿へと変えていく。
褐色の肌はみるみる色褪せ、月光を浴び青白く輝く。そこに嵌め込まれた瞳は何もかもを飲み込む漆黒となり、茶色で短髪の髪はあっという間に腰の下まで届く流れるような夜色のストレートヘアへと変化し、魔力の光に揺らめく。
『もう少し、もう少しだから…』と呟く薄い唇からは、限界を超えた証である血が流れ出す。
「「月蝕の魔女」」
兄妹が揃って呟く。絶えず彼に向かって伸ばしている腕が白く細い本来の私のものだと気がつくと、幻装魔法が解けたことがわかる。しかし今更どうすることもできない。
仕上げにありったけの魔法を流し込み魔核の治療が終わると、治癒魔法の光がパンッと弾ける。うす暗い夜の部屋に星空のように舞うその光に紛れて最後の力を振り絞りセレナの部屋に瞬間移動した。




