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ひとしきり泣いた後、セレナはアンの他に何人か使用人を紹介してきた。ここ二年間で私の見た目に偏見も無く、口も硬い使用人を見繕っていたらしいのだ。
「みんなに、きらわれているから、セレナだけでいい」
「誰もお姉様のことを嫌ってなどおりません。お父様やお母様、それに一部の使用人たちは愚かなだけです」
ここ最近は屋敷中の使用人の話を聞いていたからか、セレナの言っていることはなんとなく理解できる。しかし伯爵様と夫人の話になると途端に苦しくなり、なんて応えたらいいのかわからない。曖昧に「そ、そうなのかな?」と呟いてみた。
「それでしたらまずは私の侍女のアンになんでもお申し付けください。アンは私がこの伯爵家で一番信用している人でもありますのよ。きっとお姉様のお役に立てます」
ずっと奥に控えていたアンが私の前で膝を折り、そっと手を握ってきた。近くで目を開けてしっかりと見るのは初めてだったが、ゆるくウェーブのかかった茶髪を一つに括りあげ、優しそうな顔をしていた。
「ルナベルお嬢様初めまして、セレナお嬢様の侍女をしておりますアンと申します。ルナベルお嬢様がこの屋敷の者を怖いと思うのは当然のことだと思います。長い間、私などでは想像もできないくらいお辛い日々だったかと…。ですが、これからは誠心誠意ルナベルお嬢様にもお仕えさせてください。お嬢様の信頼を得られるのであればこの命を担保とした、契約魔法を結んでもかまいません」
そう涙ながらに話すアンに私はどうしたらいいか分からなかった。そもそも今日初めて人と喋ってみたのに感情が動きすぎて完全にキャパオーバーを起こしていた。
「セレナ、あとアンさん、ありがとう。でも、その、きょうはつかれてちゃって、ねたい」
「そしたら、私の部屋でお休みになって!」
「な、なに…?セレナ、、ほんとうにもう、よくわからなくて、、」
「今日の今日でたくさんお話してしまってごめんなさい。でも私、ずっと考えていたのよ?こんな物置で暮らしてるだなんて、本当に耐えられなくて…」
目を潤ませながら話すセレナの言葉は魔法のようだった。なんでも『うん』と頷いてしまいそうになるが、私のような嫌われものがセレナの部屋で過ごすなど、許されない。そもそもそんな事ができるかどうかも分からない。私が透明人間にならない限り、いずれは伯爵様に見つかってしまい、そうしたらセレナはどうなってしまうのか。
ごちゃごちゃとまとまらない思考の中、心身ともに限界がきてしまい、そのまま意識を失ってしまった。
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三日間眠り続けた私は、目を覚した後すぐにセレナから泣き落とされ、私室で暮らすことに頷いた。可愛い目から涙が溢れ、何度も『お姉様、お願い、お願いよ』と懇願されれば断ることはできなかったし、それに初めて横になったベッドは信じられないくらい寝心地がよく、ここでセレナと並んで寝れるという誘惑に勝てなかったのもある。
一番心配していた“他の人見つかってしまう”という問題は、私がいとも簡単に透化魔法を使えたので解決した。
「治癒魔法も透化魔法も高等魔法で、お姉様のように使いこなせる魔法使いはなかなかいないのよ。本当に驚いたのだけど、考えてみてば当然よね。お姉様の魔力量は国一番ですもの!」
「セレナは、わたしこと、こわくないの?」
「どうしてお姉様が怖いだなんてことがあるの?」
「その、わるいまじょに、にているでしょ。きっとうまれかわりなんだとおもう、いつかわるいことするかもしれない」
「悪い事したいの?」
「ちがうけど、いつかかまじょに、こころを、のっとられるかもしれないし、」
『ファンタジー絵本の読み聞かせが過ぎたかしら』セレナはそう呟くと、私を抱きしめてきた。
「お姉様、よく聞いてね。我が国の建国神話では確かに月蝕の魔女という悪党がいるわ。そしてその魔女はお姉様と同じ漆黒の色を持っている。でもね、最近魔力について分かったことがあるのよ」
「わかったこと?」
「魔力はね、凝縮すると黒色になるの。だからね、お姉様と月蝕の魔女は似ているんじゃない。高濃度に圧縮された魔力が瞳や髪を染めてしまっただけなの」
「あっしゅく…?こうのうど…?」
「瞳や髪の色が違うだけで、お姉様と私ってとってもよく似ているのよ。お姉様は月蝕の魔女なんかじゃない、私のお姉様、私の家族よ」
「かぞく」
「そう、家族。お姉様だけが私の家族よ。もうお父様もお母様も許せなわ」
「セレナにとっては、その、いいひとなんでしょ?」
「お姉様、お姉様は優しすぎます。それは美徳でもあるけれど、弱点にもなります。これからは私と一緒に学んでいきましょうね」
「まなぶ…?おべんきょうってこと?」
「はい。これからは私やアンがお姉様に常識や生活の基礎を教えします。そして一番大切なのは魔法のこと。お姉様は規格外の魔法使いになるわ。魔力に恵まれ、思っただけで魔法を使える。だからこそしっかりとした知識をつけて学んでいかないと、それこそ悪い大人に目をつけられたら利用されちゃう」
セレナが抱きしめていた腕を緩め、私の髪の毛をすくう。
「これからは私がお側にいます。これからはきっと楽しいことだけが起こります。優しい私のお姉様、どうか安心してください。」
セレナはそう言って私のおでこにキスをすると優しく微笑んだ。
セレナ、私の妹セレナ。どうしてこんなにも私に優しくしてくれるのか、私も優しくなりたい。そう思うと体の底から温かさが込み上げ、その心地よさに身を任せるように再び目を閉じ意識を手放した。




