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私の部屋に着くとレオリオンがドサっとベッドの淵に腰掛ける。会場からずっと抱えられているので、そのまま身を任せ彼の首に腕を回しギュウと抱き締める。
部屋に戻ってきたとわかった瞬間から、涙が溢れた。それをレオリオンには気づかれたくなくて俯いて嗚咽を飲み込む。しかしそんなことは無理な話しであり、彼は私の頭を優しく撫で耳の後ろに唇を寄せる。
「少し荒治療すぎたね、ごめん」
「っふ…ひっく、あ、どっ、どこまで、し、…ふう、しくんだの?」
「ああ、『仕組んだの』ってそんなまさか。さっきの会場にいた人みんなが俺の用意した人だと思ったの?」
「だ、ひっく、だって、みっ、みんながあんなに、わたしに、や、やさしいこと、ん…、なんて、ありえるの?」
「ルナベルが今まで優しくしてきたんだ。それが返ってきただけだよ」
俯いて話す私をレオリオンが魔法で優しく前を向かせる。
「確かに今までは俺の側を離れないように策を講じ、何重にも罠をかけていたことは認める。今回も半ば無理矢理お揃いのピアスをつけさせ、恋人同士って分かるよう計画したけど、その後の彼らの言葉は仕込みじゃない。勇気を持って気持ちを伝えてきたくれたんだ。それはしっかり受け止めてあげて」
その通りだった。震えながら懸命に言葉を紡いでくれたフレデリックくんの姿を思い出す。その気持ちはしっかりと受け入れなければ失礼だ。
そしてそう思うえば、ますます涙が溢れた。今までにない複雑な感情が押し寄せ、私の貧しい心では処理できなくな理、しまいには大きな声をあげて泣き出してしまった。
「嬉しかったんだね」
レオリオンは私の目元の涙を何度も拭っては唇を重ねる。
「…嬉しい」
そうか、この気持ちは嬉しいっていうのか。
今までも治療してきた子どもたちの未来を考えないわけではなかった。こんなにも魔力が多いのだ、今まで苦しんだ分、きっといいことが起こる。そう確信はしていたが、そこの未来に月蝕の魔女が関わることはないと思っていた。
私はあくまでも治すだけ、五年前と比べていくらか好意的には部屋に招いてくれているとは思ったけど、それは病気を治してくれる道具としての歓迎だと思っていた。それがまさかこんなにも感謝されていただなんて。
“嬉しい”という感情に気がつくと、もう一つの気持ちにも名前をつけられる気がした。
今まで背を向けていた気持ちだっかが、今なら素直になれる気がする。
「れ、レオリオンっ…」
「なに」
彼の美しい顔がこれ以上ないくらに優しく微笑み、その目は今も限りない愛情を宿している。そう、いつもそうだ、レオリオンは私に優しすぎる。
「どうして、っふ…、こ、こんなに、わだ…わたしによく、して、ん、…よくしてくれるの?」
「そんなの愛しているからに決まってるだろ」
「い、ふぅ…つ、いつまでっ」
「ん?」
「いつまで、私のこと、愛してくれるの?」
レオリオンの瞳が見開かれる。すぐにとびきり甘く愛情が満ちた表情になると、ますます私のことをきつく抱きしめる。
「永遠に」
「し、…ひっく、真剣に答えて」
「真剣に決まっているだろ。本当にルナベルは何もわかっていない。俺のこの気持ちは愛しているを超えているんだよ。今日だってパーティ会場には連れて行きたくなかった。ルナベルの心の殻を割るために致し方なく連れていったけど。本当は今みたいに俺の腕の中で俺だけを瞳に映していて欲しい。一生誰の目にも触れさせずに二人で閉じこもって暮らしていきたい」
「また、とんでもないことを」
「これが本心さ。今日だって俺のルナベルに話しかけたり、手をとったり、しまいにはプロポーズまでされて…。危なく会場ごと吹き飛ばすところだったよ」
「まさか、フレデリックくんに嫉妬したとでもいうの?」
「当たり前だろ!まさかあんな子どもにプロポーズを先越されるだなんて。到底許せない。そこの記憶だけ消せる魔法とかない?」
「あるわけないでしょう。魔法は万能ではありません」
「…まあ、あんな子どものプロポーズなんてどうってことないよね。俺がいつか完璧で最高のプロポーズするから」
「そんな大掛かりでなくていいわ、あなたの心が籠っていたらなんでも」
「え?」
「あなたが一番私を愛おしいと思うときにプロポーズして。私もきっとそれに応えてみせるから」
勇気を出して言ってみたのに反応がなくそわそわしてしまう。腕の力が弱まったので彼の顔を見てみることにした。そこには混乱と喜びが入り混じっだなんともマヌケな顔のレオリオンがいた。
それでも愛おしいと思える、そう、私は愛おしいのだ。いつも真っ直ぐに私だけを見つめ、冗談も言いながら決して私を傷つけない、骨の髄まで私を愛してくれるこの男のことを、愛おしいと自覚してしまったのだ。
「今まであなたの愛を信じられなくてごめんなさい、いっぱいわがままいってごめんなさい。でも、こんな私をたくさん愛してくれてありがとう」
「ちょっと待って…。え、これってそういことでいいなだよね?」
「ふふ、何よ“そういうこと”って。どういうことよ」
「いや、だから」
「今まで私の心も体も散々に好き勝手してきたじゃない」
「そうだよ。脅してまで側に縛りつけ、体に快楽を教え込み、なんとしてでも俺から離れならないようにした。そう無理矢理に。だからルナベルの気持ちが手に入らなくてもいいと思ってたんだ」
「じゃ、手に入ってしまったらもう飽きてしまうの?」
「そんなわけないだろ!」
レオリオンが体重をかけぎゅうぎゅうにだき潰してくる。そうだいつだってこの体温に身を委ねてきた。
飽きられるまで、嫌にまるまで、きっとすぐに私の元から去ってしまう。だから今だけは流されようと、彼の愛を受け入れてきた。『今だけ、少しの間だけだから』と繰り返し、自分に言い聞かせないとレオリオンの側にはいられなかった。
でもそんなのは言い訳でしかない。結局はレオリオンを独占したかっただけなのだ。幼稚なわがままを言い、それでも変わらない愛情を注いでくれるレオリオンを離したくなかった。
そんな心の奥底にしまってきた恋心を自覚してしまった。
私こそレオリオンがいなければ呼吸もできない。
「ルナベル、まだいってないことあるよね」
「うん」
「聞かせて、ずっと、ずっと、その言葉を聞きたかったんだ」
「……レオリオン」
もう私たちの間には針一本も入り込めないほど抱き合っている。お互いの鼓動しか聞こえない静寂の中、月のような彼の瞳に私が映る。
ーー月をも蝕む月蝕の魔女、その姿に魅せられた黄金に輝く少年だった彼は、その月光のような優しく大きな愛を惜しみなく私に注いでくれた。でも私はその光すら吸い込んでしまう闇の魔女。強欲なの。だからずっと私の側でその瞳に私を映して、私を照らし続けて。
「愛しているわ」
「ああ、俺もだよルナベル。心がら君だけを愛している」
初めて私から彼に唇を合わせた。そして私の魔力を流す。
これに弱いのは私だけじゃないって知っているんだから。
「ねぇ、気持ちいい?」
「…はあ。恋人になったルナベル、威力が高すぎ」
私のキスから始まったそれは夜が明けるまで続いたのだった。




