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笑った女鬼の島  作者: アコウ丸


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8話 フェリー

 梅雨が明けて1週間、太陽はよほど姿を見せたくて仕方がなかったのか、雲に隠れていた鬱憤を晴らすかのように厳しい紫外線を降り注いでいた。

「あっち〜……」

 駐輪場で汗を拭う。海風がうなじを撫でるが、潮を含んでいるせいか、まとわりつくような感覚で涼しさは感じ取れない。自転車から鍵を抜いて、海風の方向へと歩き始める。

 乗船の案内アナウンスが港全体に響いている。ひっきりなしに車が出入りする様子と「港区域内徐行」の立て看板を横目に、フェリーのりばと書かれたレンガ造りの建物に入った。

 中には思ったよりも多くの人で混雑していて、左側にチケット売り場と書いた窓口と自動券売機、右側にはすでに人で埋め尽くされたベンチが置いてあった。

 窓口の表示を見ると、土庄(とのしょう)行き、池田行き、草壁(くさかべ)行き、直島(なおしま)行き……と連なっている。

「えーっと女木島は……」

 端まで見るが、女木島行きの窓口がない。

 あれ、と思って辺りを見渡すと、小さく「女木島への切符は南側の窓口でご購入ください」と書いてあるのを見つけた。

 どうやら、ここではなくもう一つ南側の売り場だったらしい。

 足早に建物を出て、車が横切るのを待ち、通路へと歩く。

 書いていたように南側へ少し歩くと、同じような造りの建物が見えてきた。近寄ると、「女木(めぎ)男木島(おぎじま)行フェリー切符うりば」と書いてある。

「あった、ここか」

 振り返って先ほどの建物を見ながら、香川県民でも普段フェリーを使うことのない人なら迷うだろうな、と身をもって実感する。

 窓口の前に立ち、切符の値段表を見る。大人一人往復七四〇円。そしてさらに下を見ると自転車往復六八〇円と書かれているのを見つけた。

「そうか、自転車乗せていけるのか」

「ええ、大丈夫ですよ」

 独り言のつもりだったが、受付の女性が答えてくれる。

「じゃあ、大人一人と自転車往復で」

 そう言って千円札を二枚出すと、二枚綴りになった往復切符と自転車用の切符が渡される。

 スマホを取り出して出航時刻を見ると、十四時まで三十分ほどあった。これなら自転車はゆっくり取りにいけそうだ。


 高松港に低く長い汽笛が鳴り響いた。白い船体に赤いストライプで装飾されたフェリーへ、自転車と共に乗り込む。

 自転車を線で区切られた場所に停め、階段で客席まで上がる。中には前を向いて椅子が設置されていたが、せっかくなので甲板に出て海風を浴びる。

 女木島まではおよそ二十分。数字を見るとやはり近いものだなと思う。しかし高松本土から海を見渡せば真っ先に目につく島だが、それ故か今まで一度も訪れたことはなかった。

 後ろを振り返ると、高松の街並みが徐々にこちらから離れて行っているような錯覚を覚えた。シンボルタワーが見下ろすようにそびえ立ち、新設されたばかりのアリーナが太陽を反射して白がより一層白く見えた。

 前を向いて瀬戸内の海を見渡す。すると、目の前の海に、祖父の絵が重なって浮かんできた。スケッチブックに何枚も描かれた海がまるで目の前にあるような気がしてため息を吐く。

 顔を上げて視界に映るそれを見やる。水平線の向こうに、細長い島の輪郭が浮かんでいた。南北に伸びた稜線が、瀬戸内の空気の中でゆっくりと大きくなっていく。

「女木……鬼ヶ島…………」

 そう口にした途端に、目の前の島がはっきりと輪郭を持ったように思えた。鬼が住んでいたにしては随分窮屈じゃないか、と心の中で嘲笑して、どこか落ち着かない気分を誤魔化した。

 

 女木島に着くと、フェリーは高松港を出た時と同じように汽笛を鳴らした。高松から女木島への航路は、男木島へ行く航路の途中に位置付けられているので、停留している約十分の間に準備をして下船しなければ、男木島へそのまま連れて行かれてしまう。

 足早に甲板から降りて自転車を取る。ハンドルを押しながら歩いて女木島(めぎじま)、別称鬼ヶ島(おにがしま)に上陸した。

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