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笑った女鬼の島  作者: アコウ丸


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5話 もう一つの天空の鳥居

「え?もういっこ?」予想外の言葉に、俺は目を丸くして聞き直す。

「確か、三木(みき)町の方だったと思う。第二の天空の鳥居」

「マジか、え、行ったことある?」

「確か一回行ったはず。あれなんて山だっけな〜」

 光は思い出そうとこめかみあたりを押さえながら目を強く閉じている。

「ちょいまち、調べるわ」

 鞄からスマホを取り出し、検索エンジンを立ち上げる。検索バーをタップすると「天空の鳥居 観音寺」や「天空の鳥居 岡山」などの昨日の履歴が残っていた。

 それらを無視して「天空の鳥居 三木町」と打ち込むと「もう一つの天空の鳥居」と書かれたウェブサイトが一番上にあった。

「あった、これだ」

 そのサイトをタップして開くと光も身を乗り出し、二人で内容を読み進める。

 嶽山(だけやま)龍王(りゅうおう)神社の鳥居。天空の鳥居というと観音寺の高屋(たかや)神社にある天空の鳥居が有名だが、三木町にも東の天空の鳥居として嶽山の頂上に龍王神社の鳥居がある。

「そうだ、嶽山だ」

「登ったのか?」

「いや、そんときは登山口まで行っただけだな」

「登山口まで行ったのに?」

「虫が多かったんだよ」光は心底気持ち悪いといった様子で顔を歪めていた。

「そりゃ、山だから虫くらいいるだろ」

「だから夏の山は苦手なんだ」

 下にスクロールすると標高は二〇四メートル、高松中心部からは車で四十分と書いてある。

「遠いな」

「距離にして二〇キロくらいか。余裕だろ」

「お前はな」

 俺はロードバイクなんて持っていないし、二〇キロ先にこの真夏の日差しの中無事に到達できるとは思えない。大人しく電車で最寄りまで行き、そこから歩いていくのが賢明だろう。

 地図アプリを開き、嶽山と検索する。すると、赤いピンが刺された場所の近くに白山(しらやま)という駅があるのを見つける。

「駅から結構歩くな」

画面に表示された「白山駅から嶽山まで三・五キロ」という数字を見て、俺は思わず顔をしかめた。

「三・五キロくらいなら、まあ散歩だろ」

「昔、散歩と言われてついていったら隣町まで歩かされたの忘れてないからな」

「今その話関係ないだろ」

「お前の感覚がおかしいって話だよ」

 光は悪びれる様子もなく、地図を拡大したり縮小したりしている。ロードバイク乗りの距離感は信用ならない。彼らにとって二十キロまでは近所で、三十キロは寄り道で、五十キロからようやく移動らしい。

「でもさ、白山駅からなら行けなくはないんじゃないか? ほら、坂道があるってわけでもなさそうだし」

「帰宅部3年目を舐めるなよ。こっちは自転車通学だけで毎朝命を削られてるんだ」

「大げさだな」

「虫が多いって理由だけで登山口から撤退したやつに言われたくはないがな」そう言うと、光は露骨に目を逸らした。

「その話も関係ないだろ」

「関係なくないだろ、山に行く話なんだから」

 あからさまに言葉に詰まった光は、話題を逸らすように問いかけた。

「そういえば、結局この山には行くのは確定してんのか?」

「あぁ、ちょっと気になるんだ」

「何が?」

 俺は机の上に置いたクリアファイルを引き寄せ、祖父の描いた絵を指差した。

「おじいちゃん、絵を描いてるなんてこと俺に言ったことないんだ。おばあちゃんは知ってたみたいだけど、あまり話したがらなかったみたいだし」

「何か事情があったとか?」

「わからん。なぜかここに行って確かめなきゃいけないような気がするんだ」

「ふーん」光はクリアファイルを手に取り、再びまじまじと絵を眺める。

「いつ行くんだ?」

「場所が分かり次第行こうと思ってたから、放課後かな」

「え、今日?」

「今日」

 光は一瞬目を丸くしたが、すぐにニッとイタズラな笑みを浮かべる。

「千冬って案外雑だよな」

 その言葉を聞いて、「光だったか」とハッとするがおくびにも出さずに言い返した。

「お前にだけは言われたくねぇよ」

「そんな褒めんなって」

 うざったらしい皮肉を吐いた時、予鈴を知らせるチャイムが鳴った。光は「頑張れよ」と言って自分の席に戻っていく。

 夏休みが目前に迫った今週は、午前中で授業が終わる短縮日程だ。教室を見渡せば、クラスメイトたちはどこに遊びに行くだとか、何がしたいだとかで盛り上がっている。世間一般から見ると受験生だというのに。

 しかし、それも仕方がない。この高校は芸術や部活などに重きを置いているため一般受験をする生徒は多くないのだ。

 そんな、ふわふわとした雰囲気に当てられたせいか、この絵の場所が分かった時から速くなった胸の鼓動がおさまらない。これが何に対してのものなのか、自覚できぬまま朝のホームルームが始まった。

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