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笑った女鬼の島  作者: アコウ丸


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4話 飲み物

 無機質なアラームが真夏の朝の部屋に響き渡る。目を半分開けてスマホを探し、画面を見る。光るブルーライトに一瞬目を閉じかけるが、なんとか停止のボタンを押す。

 眠い目を擦りながら立ち上がり、リビングへ向かう。昨日と同じく、机の上には既に朝食が用意されていて、祖母が「おはよう」と声をかけてくる。

 それに返事をしながらパンを齧り、水で流し込む。それから朝食を食べ終わって顔を洗い、制服を着て鞄を持つ。

「いってきます」と玄関で声を上げると台所から顔を覗かせて「いってらっしゃい」と祖母が見送ってくれた。

 自転車に跨り、颯爽とペダルを漕ぐ。七時過ぎだというのに、もう真昼みたいに暑くて、時折シャツの胸元を掴んでパタパタと仰ぐ。

 昨日来た道をそのまま通って、高松芸術高校と刻まれた正門に到着する。

 駐輪場に自転車を停めていると、後ろから「よっす」と言いながら肩を叩いてくる。

「よっす〜」手で目にかかる汗を拭いながら気だるげに返事をする。

「あれなんか今日来るの早くね?」

「あぁ、おばあちゃんち泊まったんだよ」

「そゆことね」頷きながら校舎へと歩き始める。

「光は朝練?」

「そそ。マジ暑すぎて死にそうだったわ」

「俺も昨日チャリ漕いでたら足攣って死にそうになった」

「自転車部では足を攣ってからが本番」

「絶対入りたくねぇ」

 いつも通り校舎に足を踏み入れようとしたが、喉が渇いていることに気づく。

「あ、自販機で飲み物買ってっていい?」

「おけおけ、またあれか?」横目で煽るようにこちらを見る。

「言っておくけどな、夏においてスポーツドリンクってのは万能で」

「あーはいはい、脳が弛んでるやつの言うことはもっともだよ」

「お前、全スポーツドリンカーを敵に回したな?」

 自分で言いながら意味のわからない言葉に二人して吹き出してしまう。

 この学校の自動販売機は校舎の角、食堂との渡り廊下にある。すぐ目の前にあるグラウンドと校舎と食堂の境目にあるせいで、誰が言い出したのか、ここは三国国境という別称で呼ばれることがある。

 自販機の前に立ち、鞄を下ろして財布を取り出す。百円玉を一枚入れ、五十円玉を探すが見つからず、少し面倒だが十円玉を8枚入れた。

「やっぱりそれか」

「これ以外に俺の飲める飲み物はない」

 ピッという電子音と共に自慢げに答える。ガコンという音を立てて落ちてきたのはいつものスポーツドリンクだ。取り出し口のカバーを開け、手にとって一口飲む。

「俺もなんか買おっかな」

「おすすめはこれ」俺は手に持ったものと同じ飲み物を指差す。

「やだよ」そう言ってビタミンC配合と謳うオレンジ色の炭酸ジュースを押した。

「そっちの方が体に悪いんじゃねぇの?」

光はわざとらしくチッチッチと舌を鳴らしてそれを前に突き出した。

 「よーく見ろ、ビタミンCが入っているから健康なんだ」

「ほんとかよ」吐き捨てるように呟く。

「ほんとうだよ」

 光はフタを開けごくごくと美味しそうに飲んだ。それを見ていると、なぜか本当に健康的なような気がして頭がくらっとした。

 教室に入ると、外の熱気が嘘のように感じるほど涼しく、汗ばんだ服が冷えて鳥肌が立った。鞄を下ろして自分の席に座る。ふぅーっと息を吐くと、別に何か大層なことをやったわけでもないのに体が重くなっていくように感じる。

 時計を見ると八時過ぎを示していた。八時三五分から始まる朝のホームルームまでには余裕がある。いつもは家が近いのもあって、「あと一〇分……」と起きるのを先延ばししてしまい、三十分にギリギリ滑り込む常連組なのだが、祖母の家に泊まるときはいつも早く登校することができる。

 そして、この時間帯はまだ生徒もまばらで、この落ち着いた雰囲気も特別感が気に入っている。

 そんなことを考えながら鞄を開けると、あのクリアファイルが目に入った。

 そうだ、天空の鳥居について光なら何か知っているかもしれない。光は自転車部なのもあって休日にはよくロードバイクで香川県内を走り回っている。日帰りで観音寺まで行ったこともあると言っていた。俺もよく「ちょっと十キロ散歩しようぜ」と言われることがあるが、一般人にとっての十キロは「ちょっと散歩」程度ではないので余程気が向かない限りは断っていた。

「光、ちょっといいか?」スマホを机の下で隠すように触っていた光に声をかける。この学校は基本校内でのスマホの利用は禁止なので、ホームルームまではこうやってスマホを触る生徒は多い。

「ん?どうした?」

「ちょっと見てほしい絵があるんだけど」

「絵?」光は俺の後ろについて席まで来る。

「これなんだけど」

 クリアファイルに挟んだ祖父の絵を光に見せる。

「これお前が描いたん?」

「いや、俺じゃない。おじいちゃんが描いたやつらしい」

「へー、爺ちゃん絵描けんだ」

 光はその絵をまじまじと見つめる。

「これどこかわかるか?」

「んー、見たことあるようなないような……」

「この絵の裏に、天空の鳥居よりって書いてあるんだよ」

「天空の鳥居?」

 絵を裏返して見せてみると、納得いかない様子で首を傾げた。

「天空の鳥居ならもっと高い所にあった気がする」

「そうなんだよ。俺も昨日調べたんだけど、観音寺にある天空の鳥居とは違うっぽいんだ」

光は頷きながら「だよなぁ」と言って顎に手を当てて考える。

「やっぱこれ、おじいちゃんが間違ってんのかなぁ」

 昨日から考えていた、可能性の低いと思われる説を唱えてみる。

「いや……」

「…………」

「…………」

「あっ!そういえば!」

 急に光が大きな声を出したので、自然と「えっ」という声が漏れた。クラスメイトの何名かが反応してこちらを見ている。

「そうだ、そうだ。あるよ、天空の鳥居。もういっこ」

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