表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑った女鬼の島  作者: アコウ丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/37

3話 天空の鳥居

 いつも泊まりに来た時に使っている空き部屋に入り、ベッドに腰掛ける。手元には例の絵がある。

「天空の鳥居より」

 裏に書かれたその一文が気になって、鞄からスマホを取り出し検索エンジンを立ち上げる。

 検索欄に、「天空の鳥居」と打ち込む。すると、一番上に「高屋神社 本宮鳥居」と表示された。見ると、観音寺市にある観光名所らしい。

 適当なウェブサイトをタップすると、その画像が出てきた。そこには、眼下に広がる市街地と右側に広がる瀬戸内海、そしてそれらを見下ろすように鎮座している鳥居が写っている。

「確かに、天空の鳥居だ」と無意識に納得するような声が出てしまう。

 しかし、天空の鳥居と呼ばれる理由はそれとして、この絵がその場所を描いたのかと言われると、いまいちピンと来ず、代わりに疑問が湧き出てくる。

 あんなに海を描く人が、あえて海を描かないなんてこと、あるのだろうか。

 スマホに表示された画像には右側に瀬戸内海が大きく写っている。おそらく絵に描き起こす時も絶対に描かなければならない要素のはずだ。

 スマホと絵をそれぞれ片手で持ち、横に並べて見比べてみる。やはり絵に海はない。海と似たあるものと言ったら、ベタついて濁った、遮光性の高いあの独特な藍色──ため池の色だ。

 他に天空の鳥居と呼ばれているものがないか、もう一度検索して下にスクロールしていく。

 やはり検索結果に出るのは観音寺のものばかりで、観音寺はかんおんじと読む、とか銭形砂絵を見たらお金に困らないとか、そういった香川県民なら大抵知っているような情報が目に入る。

 その時、ピタッとスクロールする指を止める。「岡山県玉野市の天空の鳥居」と書いてあるウェブサイトが目に留まったのだ。

 それをタップして見てみると、香川の対岸の岡山にも天空の鳥居と呼ばれる鳥居があるようだ。画像を見てみると、赤い鳥居が学校のグランドや住宅街を見下ろしながら、奥に瀬戸内海とそれに浮かぶ島々が写っている。

 しかし、絵に描かれた鳥居は赤色ではなく灰色だ。

「これも違うか」と項垂(うなだ)れて、ベッドに体を倒す。天井から吊るされた四角い枠のペンダントライトが風もないのにゆらゆらと揺れて見えた。

 寝転んだまま、絵を両手で持ち上げて透かしてみる。少しの光が透過して、裏の一文もぼんやりと見える。

 しばらくぼーっと眺めていたが、気づけば瞼は瞳を覆っていた。

 

「千冬ちゃん、ごはんやで」

 どうやらいつの間にか眠っていたらしいことをその一言で認識する。

「はぁい」と気の抜けた返事をしながらベッドから立ち上がる。なんとなくベッドの上を見るとあの絵が端の方に寄っているのが視界に入る。

「あっ、やべ」

 寝落ちしてしまった時に手に持ったままだったことに気づき急いで絵の安否を確かめる。幸い、シワが少しついているだけでぐしゃっとなったり破れたりしたところはなかった。

「千冬って案外雑だよなぁ」

 いつの日か、誰かから言われた言葉を思い出す。その時まで自分が雑だなんて一度も思ったことがなかった。意表を突かれた気がしてとても衝撃的だったのを覚えている。

 鞄の中から適当なクリアファイルを取り出す。その中に入っている紙を他のクリアファイルに入れ、空になったクリアファイルに絵を入れた。そしてそれを鞄の一番外側に入れ直した。

 足早にリビングに行くと、既に夕食が用意されていた。机の上には、きんぴらごぼう、漬物、魚の塩焼き、味噌汁にご飯。祖母の作る夕食は毎回美味しくて、来るたびに楽しみにしている一つだった。

「おっ、美味しそう。いただきます」

 座椅子に座り、手を合わせる。「いただきます」と祖母も手を合わせ、箸をつける。

「そういえばさ、じいちゃんってどっか島に行ってたの?」

「もともと、島の人やけんね」

「島の人?」

「どこやったけな、香川の島や言うとったわ」

「じゃあさっきの絵ってその島ってこと?」

「多分そうやないかな」祖母は魚を箸で突きながら頷く。

「どこの島かって言うのは覚えてない?」

「じいちゃん、島の話になると黙るんよ」祖母がまた、寂しそうに呟く。

「何かあったの?」

「わからんなぁ」

 少しの沈黙が訪れる。頭の中でぐるぐると祖父の絵が、どこを描いたものなのか、何を描こうとしたのかという疑問が動いている。だが自分でもなぜこんなに気になるのかはわからない。テレビから聞こえるバラエティ番組の笑い声がなぜか攻撃的な気がしてお茶を飲んだ。

「さっき見せた絵、あるやん。あれ裏側に天空の鳥居って書いてたんよ。それで調べてみたんだけど観音寺のやつしか出てこんくて」

「観音寺?あぁ、なんか前テレビでやってたなぁ。それと違うん?」

「うん、多分違う」

「調べても出てこんの?」

「出てこない。だからおばあちゃんがなんか知ってたらと思って」

「千冬ちゃんが調べてわからんなら、わからんなぁ」祖母は小さく笑った。

 夕食後、風呂に入り再び部屋に戻った。ベッドに寝転んでスマホを眺める。インスタグラムを開き、検索バーに天空の鳥居と打ち込むと、感動的なBGMと同時に加工され鮮やかに彩られた観音寺のそれが出てくる。どれも綺麗だ。だが、綺麗なだけだ、という傲慢な感想が浮かんできて頭を振った。

 他にもXやTikTokといったSNSも調べてみるが、やはり絵の鳥居と風景は出て来なかった。

 ふと、日付を見ると、既に0時を回っていて画面には七月一五日と表示されていた。アラームをいつもより三十分早い六時三十分に設定し、瞼を閉じた。瞼の裏にはあの鳥居が残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ