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笑った女鬼の島  作者: アコウ丸


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11話 洞窟

 石段を上がり少し歩くと、駅舎のような作りの受付が見えてきた。そしてその近くには屋根付きの休憩スペースがあり、トイレという案内板も目に入る。

「ごめん、ちょっとトイレ言ってきていい?」

 山を登ってきた汗が少し引いたせいか、それともトイレという文字を見かけたせいか、急に尿意が体を襲う。

「あんまり長かったら置いていくから」

「ちょっとは待っててくれよ」

 そう言って足早にトイレへと向かう。

 ──

 水の流れる音を確認して、洗面台に向かう。手を洗いながら少女について少し考える。島に住んでいるのかわからないが少し不思議な子だよな、と思いつつ、そういえば名前も聞いていないことに気がつく。

 あとで名前を聞いておこうと思ってトイレを出て、先ほどの場所に戻ると、少女の姿はそこにはなかった。

 もしかして、もう先に行ったのだろうか。俺は急いで券売機で大人一人六百円のチケットを買い、洞窟入り口と書かれた看板の矢印に従い進む。

 すると、しめ縄が貼り付けられた岩肌と、大洞窟入り口と書かれた札を横に置いた二メートルほどの青鬼の人形が目に入る。

 そして薄暗い洞窟に入っていく彼女の後ろ姿を捉えた。

「ちょっと待ってって言っただろ」息を整えながら呼びかける。

「だって遅いんだもん」

「ほんの数分だろ」

「それが遅いって言ってんの」

「誰かさんよりはマシだろ」

 あと数歩、と言って数十分も歩かせた本人から出てくる言葉とは思えず、おかしくて少し笑いながら気の抜けた反論をしてしまう。

 その時、ゴンッと頭を鈍器で叩かれたような衝撃を受ける。

「いっっっっ」思わず頭を手で覆いながら屈む。

「あはは、天井低いから気をつけろって言ったじゃん」

「言われてねぇよそんなの一言も」

 叩かれたのではなく、自分から天井の岩に叩かれに行っていたらしい。ズキズキと痛む頭をさすりながら洞窟の奥へと進んだ。

 初めの方は細い一本道だったが、少し進むと広い空間が出てきた。壁に埋め込まれた照明が全体を照らしていて、薄暗いがちゃんと手元や足元は見える。

 まず目に入ったのは赤い鬼だ。等身大のそれはなにやら柵で囲まれたものを守るように仁王立ちしている。近寄って見ると、「オニノコ瓦」と書いたパネルが貼り付けてあった。

「これも瀬戸芸の作品なのか」

「そうみたいだねー、中学生三〇〇〇人が作ったんだって」

 パネルの説明を読みながら三〇〇〇人という単語を聞いて思わず「へー」という声が漏れる。見ると、さまざまな表情をした鬼のものと思わしき顔が、所狭しと並べられている。

「なんだか気味悪いな」

「えっ、もしかしてビビってる?」

 笑いを堪えながら口元を押さえてこちらを見る。

「いや、なんかここ妙に肌寒いし」

 本心を誤魔化すように腕をさする。

「あ、そういえばさっき、十五度ってなってたよ」

「十五度!?」

「うん、温度計が吊されてあった」

「だからこんなに寒いのか」

 入り口付近はそこまで気温の変化に気づかなかったが、中に入ってしまうと、外との温度差に思わず鳥肌が立っていた。

「寒くないの?」

「私? ぜんっぜん寒くないよー」

 あっけらかんとした態度で少女は奥へと進んでいく。その後ろ姿を見て「島っ子は強いな……」とつぶやいて後を追う。

 入り組んだ構造の洞窟は、太い柱がまばらに点在していて見通しを悪くしている。少し進むと、また広い空間に出た。そして、中央部にパネルが立てかけてあるのを見つける。「中の間」と大きく書かれたそれは、下に「この入り組んだ構造は防衛をしやすくしている」という解説が載っていた。

「なるほど、やけに入り組んでると思ったら防衛しやすくしているのか」

「らしいねー」少女は壁を手で撫でるように触りながら「でもさ」と付け足した。

「もし、防衛じゃなくて部屋を分けていたんだとしたら?」

「部屋を?」

「うん。ほら、あそことか奥に部屋みたいな空間があるでしょ」

 指差す方を見ると、細い通路の先にまた別の小さな空間があるようだった。

「確かに、それも有り得るか」

「でしょ」少女はなぜか自信満々に胸を張って答える。その姿を見て思わず笑ってしまう。

 

 それから少し進むと、鬼の会議室と書かれたパネルが現れ、見ると三体の鬼の人形があぐらを組んで話し合っているように設置されていた。

「昔は瀬戸内海が大陸との大事な連絡路だったんだな」

 パネルに書かれてある説明を見ながら呟く。どうやらここに展示されている鬼というのも、大陸からの情報が伝わる航路として使用されていたこの瀬戸内海に、かつて存在したとされている海賊がモチーフのようだ。

「うん、日本海や太平洋は波が荒くて危険だったらしいよ」

「へぇ〜、よく知ってんな」

「一般常識じゃない?」少女はニヤニヤとしながらこちらを見てくる。

「一般常識では人を揶揄うのもよくないんだがな」

「えーひどーい」

「ひどいって何だよ」

 ぶつぶつと文句を言いながらどんどん先に進んでいく少女についていく。やたらと人を揶揄う性格のようだが、自分が言い返されると不満らしい。その厄介な性格は時折イラっとくることもあるが、どこか憎めないように感じる。

 洞窟は天井が高くなったり低くなったり、広い空間が出てきたと思ったらまた狭くなったりと、前に進むにつれて忙しなく変化していく。鬼の人形もそこかしこと置かれて、飲水場や監禁室など、いかにも鬼の巣窟というような文字が書かれたパネルが設置されていた。

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