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7…ヴィクトリア・ピーク
ときどきヴィクトリア・ピークに上り、香港市街を眺める。
俺は展望台の手すりにもたれ、プレイヤーの『アイル・トライ・エニシング・ワンス』をかける。歪んだジュリアン・カサブランカスの声が呟くように歌い始め、エレクトリック・ピアノの和声がためらいがちに紡がれていく。
香港は忙しない街だ。毎日一万台のバスと一万八千台のタクシーがビルの狭間を往来し、数千本の列車が地上と地下を縦横に走る。一千機の飛行機が飛び立っては陸に降り、同じ数の船舶が航跡を残して光に満ちた海を渡る。二階建てのトラムが軋みを上げて香港島を横切り、ケーブルカーが太平山を登って観光客を山頂へと運ぶ。彼らの瞳には、どんな香港が映っているのだろうか。
俺はイヤフォンを外し、風の匂いを吸い込む。雲が生まれては流れ、街に光と影を落とす。雲は形を変えて空を移り、やがて消えていく。
香港は変わっていく。誰にもそれを止めることはできない。




