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首椿  作者: 真崎いみ
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第63話

珠子は驚きに目を瞬かせる。

「生きたまま焼かせたの?さやかに?」

「スイッチを押してもらっただけだよ。三島さんは、何も知らない。」

徐々に温度を上げていくガス窯に焼かれ、木原の体は骨も残らず灰になるだろう。

「一週間かけて先生に自分がしたことわかってもらったんだけど、その間は蔵で寝泊まりしてて疲れたよ。肩が凝った。」

そう言って、健は肩を回す。コキ、とわずかに音を立て、その溜まった疲れを解した。

「…ちなみにさ、聞くんだけど。木原を食べたりー…とか、したの?」

「え?ううん。食べるわけないじゃん。先生にはただ、無駄に死んでもらった。」

血肉の糧にすらしないよ、と健は言う。

「理由もなく殺されるって、一番不条理で良いでしょ。」

「理由って…、私じゃなくて?」

彼が苦しんで死ねばいいと心の底で私が望んだのを、健は感じ取ったのだろう。

「…違うよ?」

健のついた嘘は、優しいものだった。珠子が罪悪感を抱かないように、あくまでも自分の意思だと言う。

「さて。僕は、ひと眠りしたら警察に行くよ。」

ふわ、と健はあくびをすると、座布団を枕にして横になった。

「ベッド貸すよ?」

「あー、いいのいいの。寝すぎちゃうから。おやつみー。」

舌足らずな語尾を残し、健は瞼を閉じた。直に健やかな寝息が聞こえてくる。

「…。」

珠子は健を起こさないように息をひそめながら、二人分の湯呑を片付けようと台所に向かった。


健は夢も見ないほどの眠りに落ちていた。今までの睡眠不足を補うように、泥に沈むように眠った。こんなにも深い睡眠は、久しぶりだった。


警察に自首をすれば、珠子の部屋のように居心地のいい場所で眠ることはもうできないだろう。残念だな、と思い、自業自得かと思った。でも、最後に珠子に出会えたこの人生は、決して悪いものではない。


「…、う?」

ぼんやりと上下左右、そして前後が不覚の状態で目覚めた。しばらく天井を見つめて、ようやく上半身を起こす。

「あ、健。目、覚めた?」

ソファに寝転んで雑誌を読んでいた珠子が、視線を持ち上げて健を見る。

「うんー。よく寝たよ。今、何時?」

「もう夕方だよ。5時。」

「寝過ぎたー。」

「だったら、最初っからベッドで寝ればよかったね。」

珠子は苦笑する。

「もう、行くの?」

「そうだね。長居をし過ぎたからね。」

起き上がって背伸びをする健と共に、珠子もソファから立ち上がった。

「自首する健に、餞別を上げる。」

珠子は木原の耳が入っていた白い小箱を、健に手渡した。

「うん?何?」

「開けてみて。お返しだよ。」

健は小箱の蓋を、カコ、と音を立て開けてみた。そこには、一本の美しい指が入っていた。

「…これって…、」

「私の左手の、薬指。」

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