表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
首椿  作者: 真崎いみ
57/68

第57話

「え?」

呆然とする珠子の視線を追って、健は画面を再び見る。

「これ…、僕、だよね?たまちゃんが、描いてくれた…、」

「…っ!」

珠子は立ち上がり、玄関へ駆けて行く。健も訳が分からないままに、追いかけた。

「たまちゃん!」

転がり落ちるように駐輪場へ向かうと、珠子はヘルメットも被らずにバイクに跨ろうとする。

「たまちゃん、待って…っ。」

「どいて、健。」

バイクの前に立ちふさがって、健は珠子を止めた。

「落ち着いて。今の状態で運転したら、事故にあう。」

「それでもいい!!」

珠子が叫ぶ。その声には怒気も含め、焦り。悲しみ、悔しさなど全ての負の感情がごちゃ混ぜになっていた。

「死んでもいい、私、確認しないと。」

手負いの獣のように珠子は呼吸を乱している。

「待って、お願い。どこに行くつもり?」

健は珠子を抱きしめた。

「…大学。木原先生に、会いに行く。」

抱きしめられて、少し落ち着きを取り戻した珠子は唸るように低い声で告げた。

「僕も行く。ただバイクは危ないから、タクシーを呼ぼう。」


呼んだタクシーで大学に向かい、健と珠子は木原の研究室へと向かう。その道中では、木原が準大賞を受賞したことが囁かれていた。

やがて研究室近くまで来ると、木原を囲む人垣が見えた。学生はもちろん、教員までもが木原の功績を称えていた。

「木原せん、せ、」

「珠子!!」

木原の名を呼ぼうとする珠子の邪魔をする人物がいた。さやかだ。

「珠子、お願い。ちょっと、こっちに来て。宮野さんも。」

「さやか…、」

戸惑う珠子の手を引いて、さやかは陶芸の実習棟の裏。ガス窯のあるスペースまで誘った。

さやかは周囲に人がいないかを念入りに確認すると、珠子に頭を下げた。

「ごめんなさい!お願い、木原先生のこと誰にも言わないで…!」

怯えたように、さやかは言う。

「…どういうこと?どうして、さやかが、」

「木原先生に、珠子の絵を託したのは私なの。」


締め切りを迎えた、あの日。教務室に行く途中で、木原に会ったという。

その時に『絵は私が預かるから、君は早く授業に行きなさい』と叱られたのだ。さやかは教員である彼に預けるなら安心だろうと思い、珠子の絵を彼に託した。…誰が、彼が盗作をするだろうと感づくことができただろう。


「ごめんなさい、ごめんなさい…っ。」

「それなら、尚更、私たちで告発しないと、」

「違うの!聞いて、聞いて。珠子。」

さやかが泣きながら、歪な笑みを浮かべる。

「木原先生、私たちに就職先を紹介してくれるって…。もしも、この事を他人に話したら就職先どころか…、」

「…。」

「珠子、絵はまた描けばいいじゃん。お願い、今回は我慢してよ。」

「…わかった。」

「たまちゃん、」

頷く珠子に、事の成り行きを見守っていた健が口を挟もうとする。

「二人が告発できないなら、僕が、」

「いいの。健。ありがとう。…もう、遅いんだよ。」

もしも告発が成功したとしても珠子の描いたあの絵は、一度盗作をされた絵だ、と色眼鏡で見られるだろう。そんな屈辱は耐えられないと、珠子はいう。

「何より…、さやかを巻き込んじゃった。」

珠子はその時、確かに笑った。

「ごめんね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ