第51話
アパートに、珠子と共に帰ってきた。
何故か落ち込んでいる様子だったが、いつの間にか普通の珠子に戻っていた。健はほっとする。彼女に元気がないと、何だか寂しい。
「そういえばさ、今日のことなんだけど。私、告白されたんだよ。ウケるっしょ。」
コートを脱ぎながら、珠子が言う。
「そうなんだ。」
珠子からコートと鞄を引き継いで、ハンガーにかけた。
「あ、ごめん。スマホ、鞄の中から出してくれる?」
「了解ー…、」
健は彼女の鞄の中からスマホを探り当てると、珠子に手渡す。
「ありがとう。あ、さやかからメッセージ来てた。」
スマホの画面を見ながら、珠子はこたつに潜り込む。それから食事を摂ったり、団欒を過ごした。
「今日、告白されたって聞いたけど相手はどんな子?」
食後のお茶を啜りながら、健は問う。
「え?えーと、他学科の子。年下らしいけど。…なんで?」
「ん、気になっただけ。たまちゃんに恋人ができたら、僕は出ていかないとなーって思って。」
ぐっと熱いお茶を飲み干しながら、苦く込み上げてきた思いも飲み下す。
ここはとても居心地がいいけれど、珠子の生活の邪魔になるのなら一線を引かなければならない。
健は、珠子のしあわせを願っていた、
「断るもん。大丈夫だよ。」
「そう?恋人は学生のうちに作っておいた方がいいよ。社会人になると、出会いがぐっと減るから。」
何気なさを装っているが、健は内心でほっとしていた。しあわせを願う半面で、珠子を独り占めしたいという相反する思いを抱いていた。
その日の夜。珠子が寝たのを確認して、健はそっと起き出した。玄関に続く廊下に出る。そして、ハンガーラックにかけた珠子の鞄を手にした。
勝手に開けるのを悪いと思いつつ、健は中身を探りラッピングされたチョコレートを取り出した。もうすぐ、バレンタインデー。きっとこれは、贈り物用のものだろう。
「…。」
水色の包装紙に、白いリボンが爽やかな包装だ。これを珠子からもらえる男は、さぞ喜ぶだろうと思う。
羨ましい。妬ましい。…疎ましい。
バレンタインのイベントをこれほどまでに、どす黒い感情で迎えるのは初めてだった。
健はチョコレートの小箱を持ちながら、そのまま玄関を出る。そしてアパート専用のゴミ捨て場に、捨てた。
珠子は告白を断ると言っていた。だけど鞄の中にバレンタイン用のチョコレートがあったということは、誰かに渡す予定があるのだ。
それはとても自然なことだけど、僕には耐え切れない。だから、これでいい。
「…ごめんね。」
困るだろう珠子に向けてか、はたまた無駄にしたチョコレートにか。健は誰も聞いていない謝罪を口にするのだった。




