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首椿  作者: 真崎いみ
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第48話

天井から水の雫が滴って、ぴちょんと音を立て湯船に落ちる。外の寒さで生まれる呼気の白さに相反するように、温かい湯気が白く浴室を覆う。高く上がった太陽の光が満ちて、浴室はキラキラと光の粒子が舞う。

熱いお湯に肌を沈めると、先からピリピリと痺れるようだった。

「なんだかなー。」

湯船に浸かりながら、健は頭を洗うたまちゃんを見た。

「何?どしたの。」

短い金髪を生まれたてのひよこのように濡らしながら、珠子が首を傾げる。

「こーゆーイベントって、もっと嬉恥ずかしいものかと思ったよ。」

「私の裸体が見れて、嬉しいだろうが。」

珠子の体は小麦色の肌が眩しく、形の良い乳房、少し脂肪のついた下腹、生まれつきだという背中の痣や少し爪が伸びた足先まで、すべてが美味しそうだった。

「嬉しいけどね、たまちゃんは女の子なんだから恥ずかしがらないといけないのでは?」


実際、珠子は家に着くと「寒い」を連呼しながら、風呂にお湯を貯めてさっさと服を脱いだ。そして背中を向ける健の首根っこを猫のように掴むと、脱衣所に引っ張り込むのだった。

「一緒に入ろうって言ったでしょ!」


「まさか本気だとは思わないじゃんよー。」

早朝の廃村ドライブを経て、体は染み入るように凍えていた。風呂に入るのは賛成だが、二人一緒だとは想像力が働かなかった。

「不本意だって言う割には、健だって冷静だよね。」

「…そうでもないよ。」

健は気まずくなって、視線を泳がせた。その様子を察して、珠子は何故か嬉々として目を輝かせる。

「そうなの?何、色々、我慢しちゃってるの?」

身を乗り出す珠子に、健は手を伸ばしてシャワーのコックを捻る。

「きゃん!!」

子犬のような甲高い悲鳴を上げて、珠子は髪の毛から流れ落ちる泡を咄嗟に拭った。

「ちょっとー…。」

「大人をからかうものじゃないよ。」

こほん、と咳払いをして健は言う。

「僕の事情は置いといて、たまちゃんはもっと危機感を持たないとだめだからね。」

「はーい。」

珠子はそのまま頭を洗い流すと、返事よく健の反対側の湯船に浸かった。ささやかな水しぶきが上がり、水面が揺れて波が立つ。向かい合うように座ると、お湯を手のひらで掬い顔を洗った。

「ふー。」

溜め息を吐くように、肺にたまった空気を出し切る。

今までに何度か、部屋着を忘れたと言って健の前を下着姿で横切ることはあったが、それとは比にならないほどの目のやり場の困りようだった。

「ねえねえ。健。」

「何?」

「肌を見せてよ。」

「もう見てるでしょ。」

健は湯船の淵に肘をつきながら、困ったように言う。

「ちょっと使う言葉が違う?あー、うーん。じゃあ、見てるね?健は普通に体を洗ったりしてていいよ。」

「…まあ、いいけど。」

じゃあ、と言葉を紡ぎ、健は湯船から上がりスポンジを石鹸で泡立てる。その間も、横から珠子の視線が健に注がれていた。その目色は好奇心に満ちて、楽しそうに輝いていた。その目は肌を観察する喜びに満ちているようだった。


「いやー…、まさか物理的に手伝わされるとは。」

入浴剤すら断られて、珠子は混浴中ずっと健の肌色を模索するように観察していた。

健は多大な緊張感と微量ながら羞恥心によって、頭が逆上せたように風呂から出てもずっとぼーっとしていた。

そんな健に、珠子は氷の入った麦茶を勧める。

「ほい。健、飲んで飲んで。」

「ありがとう。」

彼女から冷えたコップを受け取ると、ぐいとそれを煽るように飲んだ。熱くなり、火照った体に麦茶が染み渡っていく。喉を通り、胃の中に留まっていく様子がまざまざと感じることができた。

「ごめんね。長湯になっちゃったね。頭とか痛くない?」

「それは平気。…少しは役に立てたのかな。」

「うん。ありがとう。」

珠子はお礼を言うと、お風呂から上がったばかりだというのに早速キャンバスに向かう。

「せっかく汚れを落としたのに。」

「忘れないうちに、描きたいのさ。」

そう言って絞り出す絵の具の色は、緑色だった。珠子の目には、この色が肌に使われているのだろう。

珠子は本当に楽しそうに、絵を描く。彼女の目が、絵が、認められると良い。

健は心底、そう思った。

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