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首椿  作者: 真崎いみ
45/68

第45話

珠子の制作が始まった。

週に大学には二度三度行く機会を除いて、珠子はずっとアパートの部屋でキャンバスに向かっている。

時に鼻歌を口ずさみ、時に集中して無言のまま時間が過ぎていく。健は邪魔をしないように家事を引き受けたり、モデルとして彼女の前に立った。

「…。」

大胆に筆を動かしたかと思うと、細筆に切り替えてキャンバスに顔を近づける。珠子の息遣いと、キャンバスをなぞる筆の音だけが部屋に満ちていた。

「…ウザいな。」

不意に、珠子が肩を払うしぐさをして舌打ちをする。

「ん?」

「あ、ごめんね。さっきから肩をつんつんと突かれるんだよね。」

「肩を?」

健が珠子の背後を見ても、何かがいるわけでもない。珠子は溜め息を吐きながら、筆をおいた。

「なんか最近、やたら体を触れられる感覚があって。」

「へえ。例えば?」

健の問いに、珠子は腕を組んでうーんと思い出すように唸る。

「お風呂で足首に触れてきたり、寝てると耳をくすぐられる。」

「ははあ…。そういえば、僕が前に住んでいたところもよく手を握られたな。」

「え、何なの?結局。」

「さあ。」

ふーん、と珠子は何気なく呟くと、再びキャンバスに向かった。

「幽霊かな?」

健が首を傾げると、珠子が、ええ、と声を漏らした。

「家賃払えよなー。」

「…たまちゃんって幽霊怖くないの。」

「別に。」

珠子の感覚によると、幽霊は死体の上位版らしい。

「まあ、でもさ。健って幽霊とか、すごい引き連れてそうだよねー。」

「やっぱり、そう思う?」

「うん。」

とりあえず塩でも撒いておこう、と言い、健は台所に向かった。

「えーと…、塩。塩っと。」

「ねえ、健。」

背後から、珠子の声が響く。

「何ー。」

「私さあ、幽霊って怖くないから会いに来てよね。」

「わかった。」


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