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54聞きたくありません

「もしもし」


「栄枝さん、ちゃんと家に帰れましたか?」


「そういう、永徳さんはどこにいるのですか?相沢と一緒にいますか?」


「僕のことを心配してくれるのですね。うれしいな」


「いや、心配しているわけでは」


 どんな用事で電話をかけてきたのだろうか。もしかしなくても、実乃梨の安否を気にしているのだとしたら、余計なお世話である。永徳のことは心配していないと伝えようとするが、その言葉にかぶせるように永徳が話を続ける。


「僕は平気ですよ。栄枝さんに言われた通り、永遠は僕の部屋に運んで、今はソファに横になって寝ています。永遠は体調が回復次第、栄枝さんの会社に戻ってもらうつもりです。僕も栄枝さんのことを護衛するために、来週から任務を再開しようと思っています。ですから、来週からも引き続き」


「それには及ばない。実乃梨さんもあんたなんかに護衛を頼まないわ。今日で護衛の任務は終了。不老不死連続事件もこれにて終わり。不老不死の女性が狙われる事件はもう、起きることはないでしょう。ということで、護衛の必要はなくなりました。はい、ではさようなら」


「ツーツー」


 永徳の話を最後まで聞くことなく、和音が一方的に切ってしまった。




「不老不死の女性を狙うのをやめたんですか?ずいぶんとあっさりやめるんですね」


「実乃梨さんがあんな男と話しているのが悪いのでしょう?」


「永徳みたいなクズ男が和音の好みだとしたら、先に忠告しますが、やめておいた方がいいかと。まあ、その年まで処女だったのなら、今更な忠告な気がしますけど」


 勝手に電話を切られてしまったが、そのことに対して実乃梨は怒ってはいなかった。むしろ、これ以上永徳と電話していたくなかったので、和音の行動に感謝した。


「ありえないわね。それに、私が処女なのは、男が嫌いだからよ。苦手とかじゃなくて、嫌いなの。嫌いすぎて、男に触れられると、反射的に殴ってしまうの」



「殴る……」


「そう、だから男とやるなんて、私には無理な話。男を好きになるとかありえないし、どちらかというと……。まあ、その辺はいいとして。だから、見当違いのことを言うのはやめてくれる?想像するだけで吐き気がする」


 和音は男が嫌いで不老不死となってしまったらしい。和音と乗ったタクシー内での会話を思い出す。


「男性恐怖症ではなかったんですね」


「恐怖ではない、と思うわ。単純に男を見ると嫌悪感が湧いて、触れられると殴ってしまう。そのせいで、私はずっと、今後もずっと不老不死コースを歩み続けるしかないの」


「それはまた、大変な体質ですね」


「そうなの。私の話、詳しく聞きたい?」


 そういえば、和音が今までどうやって生活していたのか、聞く予定だったことを思い出す。実乃梨の沈黙を肯定と受け止め、和音は自らの過去を語り始めようとした。



「私が生まれた家は比較的裕福な家系で」


「その話はまた、今度にしましょう。ほら、今日はいろいろ大変だったから。そうそう、まずはお昼でも食べましょう。今から作るのは面倒ですから、出前でも頼むのはどうですか?和音は何が食べたいですか。今日は特別に私がおごりますよ」


 和音が口を開きかけたところで、実乃梨は話を遮った。部屋の壁時計を確認すると、すでに昼の時間をだいぶ過ぎていた。朝からむごたらしい殺人現場を目撃したのに、その上、なんだか明るい話とは思えない和音の過去を聞くのは、精神が持ちそうになかった。


「ぐうう」


 ちょうど良いタイミングで、実乃梨の身体が空腹を訴える。


「ちょ、ちょっと、それはないでしょ。人の話を遮って、腹まで鳴らすなんて」


 突然、自分の話を中断された和音が困惑していたが、実乃梨は追い打ちをかけるように言葉を続ける。


「よく考えたら、和音の過去なんて聞く必要はないんですよね。過去を聞いたところで、不老不死の女性を和音が殺害したことに変わりはないし、和音の男嫌いなことも変わらない」


 過去の話をするより、目の前の生活を大切にしましょう。


 にっこりと笑う実乃梨の圧に負け、和音は自分の過去を語ることを止めたのだった。そして、実乃梨たちは寿司の出前を頼み、その後はただの一般人の女性二人として、実乃梨の家でのんびりと過ごすのだった。


 実乃梨は、和音がさらりと口にした「不老不死の女性の殺害をもうしない」という言葉の真意について、答えをもらっていないことに気付くことはなかった。



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