53自宅に戻る
「本当かどうか疑っているのですね。和音様の言うことは本当です。ですから、和音様を不老不死から解放することは、私にはできません。もし、和音様の心に本当に寄り添っていたのならば、《《男》》だった時の自分が役に立ったのかもしれません。今となってはもう、遅い、ですけど。それにしても、実乃梨様は私たちの関係によく気付きましたね。私は現在、和音様の身の回りのお世話をしております、渡会と申します」
「さ、栄枝実乃梨と言います。あなたにもいろいろ、事情があるんですね」
実乃梨の驚きを受けて、運転手をしていた《《女性》》は、自分と和音の関係を簡単に説明する。名前を教えてくれたので、実乃梨も自分の名前を相手に伝える。それを不機嫌そうに見つめていた和音が、不機嫌そうに会話に割り込んでくる。
「不老不死だけが、生きていくことに悩んでいるわけじゃないのは、わかったかしら?それで、私を家に泊めてくれるんでしょ。早く、実乃梨さんの家に案内しなさい。このまま雨に濡れるつもり?」
「ほ、本当ですね。渡会さん、今日は和音さんを私の家に泊めますので」
「和音様からも聞いております。では、私はこれで失礼します。二人きり、水入らずな状況で、しっかりと今後のことを見据えながら、お話しください」
渡会とはアパートの駐車場で別れ、実乃梨は和音を連れて帰宅した。アパートの軒下に入る頃には、雨は本降りになっていた。
「永遠に聞いていたけど、庶民らしい生活をしているのね。ずっとこんな貧乏くさい生活をしているの?」
「貧乏で悪かったですね。そもそも、不老不死というのは不便で、ある程度たったら、人目を気にして引っ越しをするので、給料があまりよくないんですよ。ここにはまだ五年くらいしか住んでいません」
カギを使って玄関のドアを開けて、和音を家の中に招き入れる。リビングまで案内すると、部屋を見渡して、和音がぼそりとつぶやく。庶民と言われてしまうが、一般市民の一人暮らしなど、実乃梨と同じくらいの生活をしていると思う。
「不老不死ねえ。ずっと同じ場所に住めないというのは、確かに不便なものかもしれないわね。ということは、もし、実乃梨さんと同棲することになったら、私も同じように引っ越しは必然、ということかしら?」
「まあ、それはそうなりますね。そもそも、和音は今までどうやって生活してきたんですか?不老不死の女性の殺害を企てるくらいってことは、結構、年齢が」
「女性に年齢の質問するのは、非常識だって教わらなかったの?それは不老不死の女性にも当てはまるわよ。どうやって、生活していたか、ねえ。話すと長くなるけど」
和音は実乃梨に実年齢を教えることはなかった。しかし、自分の過去は話してくれそうだった。
「では、お茶の用意をしてきます。お茶を飲みながらゆっくりと聞きましょう。そこで座って待っていて下さい」
和音をリビングにあるイスに座らせ、実乃梨はお茶を用意するため、キッチンに向かう。
「ブーブー」
キッチンでお茶の用意をしていると、ポケットに入れていたスマホが振動する。振動が長く続くので、電話だろう。相手がだれか確認するが、相手がわかると強制的に通話を切ってしまう。
「お待たせしました」
「キッチンで何かあったの?顔が青ざめているけど」
「よ、よくわかりましたね。実は」
「ブーブー」
お茶をテーブルに置くと、再度、実乃梨のスマホが振動を始める。二人しかいない静かな空間に、スマホの振動音は思いのほか響く。外の雨は通り雨だったのか、今は止んで部屋には光が入ってきている。
「スマホが振動しているけど、電話がかかってきているわね。私のことは気にしなくていいから、出たらどう?」
和音の指摘に、実乃梨はしぶしぶ電話に出ることにした。電話の相手は、先ほど実乃梨が切ってしまった、彼女の護衛、もといストーカーからだった。




