52マイノリティな存在
『これからも、実乃梨さんの護衛として働きたいと思います。会社には今回のことは報告しません。いまだに犯人は捕まっていない。不老不死の女性は今後も狙われる。ということにしておいて、引き続き護衛の仕事を継続します』
どうやら、本当に永徳は実乃梨に執着しているようだ。婚約者のことはどうするつもりかと、画面を下にスクロールしていく。
『婚約者については、今回の被害者になってしまったことにします。不老不死だったことには違いないので、問題はありません。ただ、僕が殺してしまった男たちについては、どう説明しようかと悩んでいます。僕が助けに入って、全員殺してしまったということにしたら、いいかとも思いましたが、それはさすがに無理ですよね』
「なかなか、とち狂った護衛さんだこと。とはいえ、今回はそのとち狂い具合に免じて、男たちの処理は、あいつらに依頼しておいたから、心配しなくていいと伝えて頂戴」
実乃梨のスマホの中身を横から覗き、永徳のメッセージを一緒に読んでいた和音が耳もとでささやいた。わざわざ耳もとで言われたことが妙に恥ずかしい。和音に気を取られて、永徳のストーカーまがいのメールに対する気味悪さが半減してしまう。
「耳もとで言わなくても聞こえます。どうやって、男たちの殺害を隠ぺいするつもりですか?五人はいましたよね。五人も隠ぺいとなると、なかなか」
「互いに殺し合いをしたことにするの。薬でもキメて仲間割れ、これで解決。元々、素行不良の男たちだから、ね」
「はあ」
和音の更なる言葉に、実乃梨は永徳のことが完全に意識の片隅に追いやられてしまう。自分の計画した殺人事件に協力してくれた男が五人も殺害されて、何も思うことがないのだろうか。隣に座る和音に悲しみや怒りの表情は全く感じられない。
「私に男たちのことを悲しめという顔ね。それは無理な話だわ。そもそも、どうして不老不死の女性がこの世に存在するのか、考えたことある?」
「それは……」
実乃梨は言葉に詰まってしまう。実乃梨だって考えたことがある。どうして世の中に不老不死の女性が存在するのか。その原因の一つは。
「実乃梨さんにも身に覚えのある感覚でしょう?私も同じ問題を抱えているの。相沢だってそうだったと思うわよ」
男性恐怖症。
実乃梨はそこまでではないが、和音や相沢はそうかもしれない。いくら自分に協力してくれても、根本的に男性が苦手ならば、悲しむことはできないだろう。
「着きましたよ。和音様は今晩、こちらにお泊りですか?」
「そうするわ。実乃梨さんのことが心配だし、彼女の護衛がもしやってきたとしても、私なら実乃梨さんを守ることができるもの」
「かしこまりました」
いつの間にか、実乃梨の住んでいるアパート前にタクシーは到着していた。アパート前で停車したタクシーから降りて、実乃梨と和音は外に出る。
運転席で和音と話す《《女性》》を眺めながら、実乃梨は和音の正体を予測する。そして、そのまま思ったことを口にする。
「和音って良いところのお嬢様なんですね。それが今では立派な殺人者に。まったく、人生いろいろありますけど、あなたも大変ですね。もしかして、和音の執事か何かですか?ご苦労様です」
「いえ、和音様の辛いお気持ちは、私にも充分理解できるものです。悪いことではありますが、和音様の行動を私がお止めることはできません。実乃梨さんも不老不死とお聞きしましたが、この世を生きにくいと思ったことはありませんか?」
「生きにくいに決まっているでしょ。いくら不老不死の女性が増えているとはいっても、所詮、私たちはマイノリティな存在。世間一般、大勢の人間ではないの。あなただってそのマイノリティの一人でしょう?男が嫌で、女性になる手術をしたんだから」
「元は、お、と、こ?」
実乃梨は和音の衝撃的な発言を聞いて、改めて車を運転する人物に目を向ける。茶髪を一つにくくり、一重の吊り上がった瞳に薄い唇で、化粧気の少ない顔にスレンダーな身体つき。中性的な容姿をしていたが、実乃梨は女性だと思っていた。
実乃梨の視線を受けて、和音の執事らしき人は申し訳なさそうに微笑んだ。




