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「栄枝さん、始業時間はとっくに過ぎているけど、いったいどこで何をしていたの?いきなり事務所からいなくなるから、心配したのよ。あら、相沢さんもいるじゃない!」


 選択肢を相沢に簡潔に伝え、急いでお手洗いから事務所に戻ると、すでに社員が各自の持ち場について仕事を始めていた。実乃梨たちに気付いた榎木が心配そうに駆け寄ってくる。榎木とは、仕事以外の内容で話をすることはなくなった。しかし、始業時間を過ぎても仕事をしていなかったことは事実なので、謝罪と言い訳をすることにした。



「すいません。相沢さんの体調がすぐれないみたいで、ずっとお手洗いにこもっていました。そのままその場を離れるのはどうかと思いまして」


「それで、ずっと相沢さんに付き添っていたの?まったく、相沢さんの世話係は頼んだけど、そんなとこまで面倒みろとは言ってないけど」


「あ、あの」


 お手洗いにいたのは確かなので、完全に嘘というわけでもない。ちらりと相沢に視線を向けると、彼女はおびえたような視線を実乃梨に向けた。しかし、すぐに榎木と向き合い、自らも言い訳を始める。


「わ、私の体調管理が不十分なせいで、さ、栄枝先輩を拘束してしまい、すいません。もう、すっかり、良くなりました。ご迷惑を、お、おかけしました」


「ま、まあ、体調が悪かったのなら、仕方ないわね。これからは体調管理に気を付けることね。さっさと仕事に戻りなさい」


 勢いよく頭を下げた相沢に、榎木はあっけに取られてしまうが、すぐに自分の持ち場に戻って仕事をするよう伝える。実乃梨と相沢はそのまま、言われたとおりに仕事を始めることにした。



 定時になるまで、お手洗いでの出来事は話題に上がらなかった。実乃梨が意図的に相沢からその話題が出ると、すぐにその場を離れたり、仕事を押し付けたりしていたからだ。さすがに何度も避けられると、相手も理解したのか、勤務時間中に口にすることはなくなった。


「じゃあ、この仕事が終わったら帰宅しましょう。ちょうど定時で終わりそうね」


「ワカリマシタ」


 実乃梨はパソコンで時刻を確認して、定時に帰宅できるように仕事を切り上げる。相沢にも指示を出すと、素直に返事をして仕事を終える。他の社員も同じように仕事のまとめを始め、定時のチャイムが鳴り響くころには、半分程度の社員が仕事を終え、帰宅の準備を始めた。


「お先に失礼します」


「お、オサキニシツレイシマス」


 仕事を終え、タイムカードを切った実乃梨と相沢は、会社を一緒に出た。外はだいぶ日が落ちるのが遅くなり、外はまだうっすらと明るかった。二人は無言で、当たり前のように、実乃梨の護衛である永徳が待つ駐車場に向かう。


「お疲れ様です。栄枝さん」


「お疲れ様。少し、個人的に話があるのだけど、私の家に来られますか?」



「話?ですか。構いません。僕は栄枝さんの護衛ですから。ですが、僕は護衛である前に一人の男性です。話をするにしても、栄枝さんの家に二人きりは」


「前回とはずいぶん態度が違うのね。でも、今回も《《相沢》》がいるから、大丈夫。ねえ、《《相沢》》、先輩の誘いを断りはしないでしょう?それに、話というのは、この子も関係しているの。永徳さん、彼女とのことで、私に話さなくてはいけないことはありませんか?例えば、彼女を不老不死から」


 永徳は、実乃梨と二人きりになるのを拒もうとした。先日の勢いはどこに行ったのだろうか。実乃梨はその理由をすぐに思いつく。不老不死の女性を解放しようとしているのだから、自分と二人きりになるのが気まずいのだ。


 護衛の言葉を途中で遮り、相沢とのことで話があると伝えると、その表情に一瞬動揺が走る。ちらりと相沢に視線を移すと、観念したのか、相沢と一緒にならと、実乃梨の誘いに応じてくれた。



「では、今日も家までの送迎をお願いします」


 永徳と相沢は無言で車に乗り込んだ。実乃梨はそんな二人の様子を気にすることはなかった。さて、どのように二人を処分しようかということで、頭がいっぱいだった。



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