36早く教えてください
「ねえ、永遠。そこには、栄枝実乃梨さんもいるのでしょう?」
「はあ。私のことは何でもお見通しというわけですか」
「だって、永徳慎吾は栄枝実乃梨の護衛でしょう?護衛の近くには護衛の対象者がいるのは当たり前だわ。それに、私は基本的に他人を信用していないの。だから」
「勘弁してくださいよ。もしかして、支給しているケータイに」
「よくわかっているじゃない」
吐き気を押さえて必死に平静な顔を取り繕っていたら、《《彼女》》が今度は実乃梨がその場にいることを言い当てる。相沢はそれに軽い口調で答えながら、実乃梨に目線で電話に代われと訴える。
「栄枝ですけど、私に何か聞きたいことでもあるのですか?」
仕方なく、実乃梨が電話を代わり、《《彼女》》が自分を電話越しに呼んだ理由を尋ねると、思いがけない質問が返ってくる。
「あなたはそこにいる二人をどう思う?」
「そうですねえ」
いきなりの質問に戸惑うが、自然と口から言葉が出ていた。その言葉に質問の対象となっている永徳と相沢が目を見開き、驚いていた。
「この場にいる二人は、私の近くにいるにはふさわしくない」
「あら、これは予想外の答えね。理由を聞いてもいいかしら?」
実乃梨が電話に出ることが当然であると思っているのか、電話に出た実乃梨に対して、相手は平然と会話を続ける。
「そもそも、不老不死の人間の隣がふさわしいと言える人間が、この世にいるのでしょうか?」
「同じ不老不死同士ではどうかしら?気持ちが共有できて、しかも、時を共にすることも可能だけど」
「確かにそれは一理あるかもしれません。ですが、ただそれだけです。こんな無駄話をするために、電話に出られたのではないでしょう?私たちのような『不老不死になってしまい、世の中に居場所をなくした可哀想な存在』を救済してくれるとあなたは言っていた」
だから、私を早く、その場所に連れて行ってください。
このままだらだら話していても、時間の無駄である。実乃梨は《《彼女》》に要望を突きつける。「不老不死の救済」などと言うきれいごとを信じているわけではない。それでも、実乃梨はその救済現場に足を運ぶ決意をした。相手にも実乃梨の気持ちは伝わったらしい。
「本当に栄枝さんは救済されたいの?それにしては、ずいぶん偉そうな物言いね」
「連れて行ってくれないのなら、私にかまうのはやめてください。あなたのおもちゃにされるために、不老不死の女性が生きているわけではないので」
「先輩、その辺に」
相手のペースに流されるのは、いい加減、腹が立つ。別に救済されたいとは思っていない。天国などにも行きたくはない。《《彼女》》の言う通りに目的地に着いたとしても、待っているのは地獄だろう。
実際に不老不死の体質は地獄の果てにて解除される。実乃梨の正直な告白に慌てて相沢が会話に割って入るが、すぐに《《彼女》》によって制止される。
「永遠、気にしなくていいわ。栄枝さんは偏屈タイプなのね。まあいいわ。私は不老不死を等しく、この地獄のような世界から救っているの。あなたみたいな人も、私にとっては救済すべき対象なの」
実乃梨の言葉を聞いてもなお、彼女は実乃梨のことを地獄から解放できると思っているらしい。
「じゃあ、あなたたちには特別に教えて差し上げましょう。時間と場所は……」
ごくりと、実乃梨の両隣から息をのむ音が聞こえる。《《彼女》》は時間と場所を指定した。




