37彼女についていく理由
結局、配達員に扮していたであろう《《彼女》》に渡されたメモの内容と《《彼女》》の告げた内容は異なっていた。今週末ではなく、来週末に不老不死の救済とやらが行われると告げられる。場所はメモで見た場所と同じだった。
「栄枝さんだから、特別に教えるのよ。もちろん、警察などに情報をリークするようなことはしてはダメ。とはいえ、ばらされてもいいように対策はしているけどね。じゃあ、次の週末に会いましょう!」
集合場所には、実乃梨、相沢、永徳の三人で向かうことになった。
相沢が通話終了のボタンをタップする。三人は完全に通話が切断されたことを確認して、ようやく安堵のため息を吐く。しばらく無言の時間が続いたが、沈黙を破ったのは実乃梨だった。
「どうして、相沢さんは永徳さんに《《彼女》》のことを話したのですか?」
「どうしてって……。気付いていないんですか?不老不死連続殺人事件に、男が不可欠だからに決まっているでしょう?男がいなかったら、不老不死を解くことはできないわけですし」
「ということは、永徳さんは……」
「僕はそんなことを不老不死の女性相手にすることは絶対にありません」
男が計画に必要と言われたが、《《彼女》》が永徳を必要とする本当の理由がわからない。男なら誰でもいいというわけでもないはずだ。それが何かわからないのは気味が悪い。それに、永徳が犯人側に着く理由もわからない。昨日の夜、相沢と永徳がどんな話をしていたのか気になってしまう。
「自分だけに知らされていない情報があるのが、そんなに不満ですか?」
「そうじゃないです。そうじゃないですけど、昨日の夜、二人だけで話していましたし、それで……」
『はあ』
実乃梨の言い訳に、二人はそろって大きなため息を吐く。二人から呆れたようなまなざしを向けられたため、仕方なく口を閉じることにした。
「私たちが何を話していたのか気になるのはわかります。ですが、私たちにも私たちなりの事情があって、《《彼女》》についていくと決めました。誰も彼もが、栄枝さんのように、能天気に平穏でつまらない人生を送っているわけではないんです」
「私は別に能天気に生きているわけでは」
「永遠さん、栄枝さんをからかうのはその辺にしたらどうですか?栄枝さん、僕たちの事情は聞いても、面白くない話です。とりあえず今言えることは、僕たち三人は、来週末を一緒に《《彼女》》が示した目的地に行くということです」
話はこれで終わりとばかりに、永徳が外出する支度を始めた。相沢もそれに倣い、持ってきた大きめのリュックに自分の私物をしまいだした。
それから、実乃梨たちはアパートを出て、近くのファミレスで昼食を取る。その後、相沢とはその場で別れた。相沢はいったん、自分の家に帰り、その後に《《彼女》》と合流して計画の実行に向けて調整をしていくそうだ。永徳は実乃梨の護衛なので、実乃梨が家に帰るまでは、一緒に行動をすることになる。
「あの、永徳さんには婚約者さんがいたんですね。私を護衛するのが仕事だとは言え、二人が並んで歩いているのはどうかと……」
「別に問題はありません。彼女には任務のことは話してありますし、それに」
不意に昨日の夜の永徳の言葉が思い出される。トラウマがどうとか、未遂とか、時間が解決するとか話していた気がする。
「話したくないのなら話さなくていいです。とりあえず、私から離れて護衛をお願いします。会社の人に会う確率は低いですが、護衛されていることがばれるのは嫌ですので」
「ワカリマシタ」
永徳は実乃梨の言葉に素直に従い、実乃梨から少し距離を取って歩き出す。永徳の姿を横目にとらえ、実乃梨はふと疑問に思ったことを無意識に口にしていた。
「相沢さんとはずいぶんと親しくなっていたようですが、もしかして」
「彼女と僕は似たような境遇だったから、気が合っただけです。僕には婚約者がいます」
「でも、私と接する時と話し方や態度が……。いや、何でもないです。とにかく、私から離れて護衛をお願いします」
これ以上の会話は、双方にとって悪影響にしかならない。自分の発する言葉にハッと冷静になり、永徳がついてくると信じて、小走りで家に向かった。




