33それぞれの抱える悩み
夕食を終えた実乃梨たちは、順番に風呂に入って寝る支度を始めた。
「せっかくのお泊りなのに、寝るのが別の部屋なんて最悪です」
「あなたが本当に栄枝さんに害のない人物だとわかるまでは、一緒に寝かせられません」
「そう言って、先輩を独り占めされるのが嫌なだけでしょう。嫉妬深い男は嫌われますよ」
寝る場所についてはひと悶着あったが、実乃梨が自分のベッドを使い、他の二人は他の部屋を使ってもらうことにした。相沢には実乃梨のもう一つの私室を明け渡し、永徳には申し訳ないがリビングに布団を敷いて寝てもらうことにした。
実乃梨の提案に、初めは文句を言っていたが二人だが、最終的に納得してくれたようだ。日付が変わる前に、実乃梨たちはそれぞれの寝床に移動した。
「不老不死なんて、最悪だわ。誰が好んでこんな身体になるものか!私だって、こんな性癖じゃなければ、今頃はおばあちゃんになって、孫に囲まれて寿命を全うして死んでいるわ。くそ、ああ、早くこの苦しみから解放されたい。《《あの方》》の指示に従えば私は……」
「事情はわかりました。永遠さんの事情を知らず、失礼な発言をたくさんしてしまいました」
「謝罪は結構。男に何を言われようと気にしないから。私こそ、無神経な言葉をたくさん吐いていたわね。あなたがそんな事情を抱えていたとは知らなかった」
実乃梨が夜中に目が覚めることは少ない。しかし、その日は珍しく夜中に目が覚めてしまった。なんとなく喉が渇いたので、水を飲むために部屋を出る。リビングから光が漏れていることに気付いて様子をうかがうと、驚きの光景が目に入る。
相沢と永徳がリビングの机をはさんで向かい合って座っていた。
慌てて扉の陰に隠れるが、幸いなことに、二人は会話に夢中で実乃梨が部屋を出たことに気付いていないようだった。
「あの二人には何があるというの?」
盗み聞きは良くないと思いつつも、耳を澄ませて会話を聞くことにした。ちらりと彼らの様子を確認すると、机には実乃梨が購入した覚えのない、酒類の缶が無造作に置かれていた。すでに空になっているのか、ふたが開いた缶も乗っていた。
「それで、あなたの場合は、時間が解決してくれるという可能性があるわけだけど、どうなの?」
「永遠さんがおっしゃる通り、医者には、トラウマを克服については、時間が解決してくれると言っていました。ですが……」
続く言葉は声が潜められ、実乃梨の耳もとまでは聞こえなかった。しかし、向かい合わせに座っていた相沢の耳には届いたようだ。
「それはまた難儀なことね。こんなことを言うのは不謹慎かもしれないけど、未遂だったのが、よかったのか、悪かったのか」
「僕もそのことについては、何度も頭に浮かびます」
『はあ』
二人のため息が聞こえたあたりで、実乃梨はそっと自分の部屋に戻り、ベッドにもぐりこみ、無理やり目をつぶる。話の途中だったが、相沢には相沢なりに、永徳にも永徳なりに悩みを抱えているらしい。どちらも不老不死に関することだということはわかった。
『どうして、神様はこの世に、不老不死という存在を作り出してしまったのだろうか』
しかも、不老不死になる(なってしまう)条件を「三十歳の誕生日を迎えるまでに性行為をしていない女性」にしてしまったのか。
三十歳までに性行為をしていない処女や童貞と呼ばれる人たちが、魔法使い扱いされる話はよく聞くが、大抵はハッピーエンドで終わる。しかし、現実はそうはいかない。三十歳を過ぎても性行為をしていない女性は、永遠の時を一人寂しく生きていくしかない。
目をつぶって不老不死について考えていたら、いつの間にか実乃梨は眠ってしまった。そして、朝まで目を覚ますことはなかった。
「栄枝さんが起きてきましたね」
「私たちにばれていないと思って、盗み聞きしていたのでしょう。でも、さすがにいたたまれなくなったのか、途中で自分の部屋に戻っていきましたけど」
「永遠さんは、不老不死という割に、栄枝さんとは性格が全然違いますね。私の婚約者とも違うようだ」
「当たり前でしょう?人それぞれ性格が違うのは当然です。私は永徳さんに秘密をお話ししました。永徳さんも私に秘密を教えてくださいました。お互いの秘密を共有したところで、本題に入りましょうか?」
「今までの話の流れから、なんとなく本題とやらが予想がつきました。僕はあなたたちの側に着きますよ。婚約者の件もありますし。まあ、完全に不老不死の女性をこの世からなくすことには……」
「何か言いましたか?」
「いいえ」
「では、交渉成立ですね」
実乃梨が部屋に戻った後も相沢と永徳の会話は続いていた。




