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32初めての経験

「私の家に来ないでください」


 車を降りた永徳と相沢は、当たり前のように実乃梨の後ろをついてきた。アパートの部屋の前までやってきた実乃梨は、後ろを振りむき、二人を拒絶する。


「家に来ないでって……。今更過ぎますよ、先輩。今から自分の家に帰るのとか、だるすぎです」


「私は先ほど、会社に連絡を入れました。栄枝さんの家に、素性のわからない者が泊まると言ったら、栄枝さんの部屋に泊まる許可をいただきました」


 実乃梨の言葉は二人には届かない。平然と実乃梨の部屋に泊まることを前提とした言葉に、あきれてしまう。


「永徳さんには、婚約者がいるのでしょう?さすがに女性の家に泊まるとか、任務と言えども、やばくないですか?私は先輩と同じ会社で働き始めた後輩です。調べてもらえばすぐにわかります。怪しくありません。素性がわからない者とか言われて、ショックなんですけど」


「栄枝さんの会社に入った派遣社員というのは知っています。ですが、それ以外の経歴はどうですか?彼女は今、不老不死連続事件の次の標的になるかもしれないんですよ。警戒するに越したことはないです」


「だったら、永徳さんが先輩をこの窮地から救ってあげたらどうです?先輩はタイプじゃないかもしれませんが、人助けだと思えばやれ」



「それ以上、私の家の前で、余計なことを話さないでください!」


 相沢が何を言い出すのか理解した実乃梨は、本日二度目の大声を出してしまう。それによって、後輩の言葉は途中で遮られる。しかし、永徳には相沢が何を言いたかったのかわかったらしい。


「そんなことを言う人だからこそ、あなたを栄枝さんと二人きりにしておくわけにはいきません。そもそも、僕には婚約者がいるって、永遠さんが言いましたよね?そんな僕に言うとは、よほど常識がない人ですね」


「婚約者がいるのは、今はおいておくとして、本当のところはどうなんですか?先輩はタイプですか?ヤれそうですか?」


「だから!」


 永徳の答えに不満なのか、相沢は実乃梨に遮られた言葉を今度こそ言い切った。このままでは、実乃梨が二人を家に招き入れるまで、延々と話し続けていそうだ。しかも、会話の内容は聞くに堪えない、自分の不老不死の解放ができるかどうかについてである。不老不死の解放というと聞こえはいいが、実際は下世話な話をしているということだ。


 実乃梨はあきらめて、二人を部屋に招くことにした。


「ああ、ワカリマシタ!とりあえず、私の家にお入りください。そんな恥ずかしい話題を私の家の前で話されても困ります」


 玄関のドアを開けて、二人に中に入るよう促す。二人は先ほどまでの険悪な雰囲気をがらりと変えて、嬉しそうに実乃梨の部屋に足を踏み入れる。


「お邪魔します!こんな押しかけみたいに家に上げさせてもらいましたけど、実は私、他人の家にお泊りって初めてなんです!うれしいなあ。若いころは女子会とか憧れたなあ。それがいま、ようやくかなったという感じで、感無量です。ああ、一人、邪魔者がいますが、そこは目をつぶります」


「意外ですね。あなたの外泊事情など興味はありませんけど」


 口ではののしり合いながらも、実乃梨の部屋に上がれたことがよほどうれしいのか、二人の顔が緩んでいるのが丸わかりだ。他人を家に招くのが初めてだった実乃梨は、二人が嬉しそうに自分の部屋を眺めているのを見て、安心する。嫌な顔をされたら、無理やり家に押し掛けられたのに、気分が落ち込むところだった。


 相沢ではないが、実乃梨にとっても初めての経験で、何をしたら最善なのかわからない。とりあえず、目の前の問題、夕食をどうするのか二人に問うことにした。相沢と永徳は、リビングにあるイスにゆったりと腰かけて、まるで自分の家のようにくつろいでいた。



「ところで、夕食はどうしましょう。いつもは一人で適当に済ますことが多いのですが」


 二人に冷たい麦茶を渡すと、当たり前のように手作りの夕食を希望される。


『栄枝さん(先輩)の手作りが食べたいです!』


「はあ」


 まるで、タイミングを合わせたかのようなハモり具合に、あいまいな返事をしてしまう。口論になったり、息を合わせたハモりを見せたり、二人の仲の良さを見せつけられる。


車の中で感じた胸の痛みが再発する。しかし、そんなそぶりを見せることなく、二人のリクエストに応え、実乃梨は冷蔵庫に残っていた材料で肉じゃがを作ることにした。



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