16朗報
「本日付で、栄枝実乃梨さんの身辺警護を担当することになりました、永徳慎吾と申します」
「はあ」
取引先企業の不老不死の女性社員が殺害されてから、三日が経過した。つまり、社長から護衛の件を聞かされてから三日で実乃梨に護衛がつくことになった。
「これから、栄枝さんの身の安全のために、精一杯働かせていただきますので、よろしくお願いします」
次の日、実乃梨は自分が不老不死だと社長以外の社員にばれていないか、おびえながら出社した。社長が一社員である実乃梨に護衛をつけるとなれば、他の社員が怪しむだろう。それ以前に、過呼吸で倒れたことも気になっていた。とにかく、昨日は実乃梨にとって大変な一日となった。それなのに、不老不死だと他の社員にばれてしまったらと思うと、気が気ではない。
しかし、実乃梨の予想に反して、事務所はいつも通りだった。隣の席の榎木は申し訳なさそうな視線を向けてきたが、それ以外に特に気になるところはなかった。他の社員も実乃梨が挨拶すると、普通に挨拶を返してくれた。中には昨日の過呼吸で倒れたことを心配する社員もいたが、実乃梨が不老不死だということに気付いて指摘する者はいなかった。
電話の対応をしていたが、不審な電話はなく、取引先からの電話での注文や問い合わせばかりで、拍子抜けするほど、いつも通りの仕事の日常がそこにはあった。
「ねえ、話したいことがあるんだけど、一緒に食堂で昼食を取らない?昨日のこととかいろいろ聞きたいことが……」
「お断りします。今日は一人で昼食を取りたい気分です」
昼休憩に入り、榎木が一緒に食堂でお昼を食べようと誘ってきたが、実乃梨はバッサリと断った。一人で自分の机で支給された弁当を黙々と食べていた。
「一人で昼食をとるのも結構だが、そんなしかめ面で食べていては、昼休憩がもったいない気がするね」
「しゃ、社長!お疲れ様です」
そこにいきなり社長が姿を見せた。社長が事務所に顔を出すのは珍しい。突然事務所に現れた社長に、実乃梨は慌てて、席を立ち挨拶する。社長は実乃梨に席に着くよう指示を出し、まるで世間話をするかのような気軽さで、護衛の件を話し出す。
「栄枝さんに朗報ですよ。あなたの護衛が決まりました。私の知り合いに警備会社の人がいましてね。その人に相談したら、破格の値段で素晴らしい人材を送ってくれました」
「ええと」
「お金の件については、心配しなくても結構。会社は、社員を守るための費用は惜しみません。警察には犯人の次の標的がうちの社員ですと伝えてあります。不審な電話の件もあるので、すぐに信用してもらえました」
護衛の人間のことを、栄枝さんはきっと気に入ると思いますよ。会うのを楽しみにしてくださいね。
一方的に用件を話した社長は、最後に意味深な言葉を吐いてその場を立ち去った。実乃梨は社長に対して、挨拶をすることしかできなかった。
「そういえば、社長の話を誰かが聞いていたら」
社長が去って数分後、実乃梨は慌てて自分の周囲を見渡すが、なぜか実乃梨以外の社員は事務所に一人も残っていなかった。




