32 コンテストへ挑戦(3)
「ここね……」
コンテストが行われる会場は中規模なイベントホールで、今日初めて来た場所だ。
聞いていた話だと県立文化会館よりも小さいようなので余裕を持って構えていたが、実際目にしてみると思った以上に広く感じて、自分がステージに立つわけじゃないのに少したじろいでしまった。
予選は主催楽器店のスタジオだったので、本格的なホールでの演奏が初めてだ。去年の文化祭でもまだ緊張していたし、コンテストを「怖くもある」と言っていたカズ君は丈夫だろうか。表情をそっとうかがう。
しかしまっすぐに会場を見据えているカズ君は、思った以上に落ち着いている感じだ。
「嬉しいなぁ。こんな所で歌えるなんて」
そして笑顔で力強く言った。
(よかった)
ちょっと泣きそうなぎこちない笑顔で『手をとって欲しい』と手を差し出してくる事はもうないのだろう。
私は自分も落ち着かせるために一度深呼吸をすると、カズ君はそれに反応して私を見た。
一瞬不思議そうな顔をしたけど、私が笑うとカズ君も笑顔に戻る。
「今日は緊張してないみたいね」
「そんな事はないよ、ほら」
そう言ってカズ君はそっと手を繋いだ。
電車の中ではそうでもなかったのに、カズ君の手のひらは冷たく汗をかいていて、僅かに震えていた。
「武者震い、でしょ?」
「あはは……それいいね、そうしておこう」
私は繋ぐ手に少し力を込める。
「いつもどおり。絶対、大丈夫だよ」
「うん。楽しみにしてて」
カズ君からも応えるように手の力が入る。もうこれ以上の言葉はいらなかった。
それから数秒間手を繋いでいたが、カズ君も深呼吸をしたのを機にどちらからともなく静かに手を離した。
「……行ってくるよ」
「うん」
「みんなを楽しませるのはもちろん、僕たちも楽しんでくるから」
「そうでなくっちゃ」
私の言葉にカズ君は大きく頷く。
「あのね、カズ君」
そこで本当にもう大丈夫だと思い、別れ際に一つお願いをした。
もし叶えばとても嬉しいのだけど。
今日はRIZEの出場を聞いた西高の生徒も多数来る。
もちろん中里さんと竜岡さんも来るので待ち合わせをしていた。みんなが来る時間にはまだ早く、私は会場の周辺にあるベンチに腰掛ける。
ちょっとした……いや、かなりのハプニングはあったけど、あのカズ君の様子なら今日のステージも成功する。
何かしらの評価が頂けたらそれに越したことは無いけど、良い演奏が沢山の人達に聴いてもらえるのが今回一番の収穫だと思う。
(カズ君、みんな……思いっきり楽しんでね)
涼しい風に吹かれていると、自分も完全に気持ちは落ち着いた。
やがて時間が経ち、段々人が集まり始めてくる。
「お待たせ~」
中里さんと竜岡さんは一緒にやって来た。他の人達とも合流して会場へ入る。
「15組中2番目かぁ。早いなぁ」
パンフレットを見て中里さんが呟いている。
「緊張する時間が短くていいかもね」
竜岡さんが言ったが同じ意見だ。




