31 コンテストへ挑戦(2)
「髪の事、おばあちゃんにちゃんと説明してなかったの?」
私は荷物の最終確認をしているレイ君に聞いた。
「関係ないから」
「直接はそうかも知れないけど、心配してたじゃない」
「美紀にも関係ない」
こっちには全く目もくれずにそう言い放つ。その瞬間は頭がカッと熱くなったが、その後徐々に悲しみが込み上げた。
拒絶されるというのはなんて辛いのだろう。ましてや家族ならもっと思うはずだ。
「確かに私はレイ君の彼女でも家族でもないけど」
やっと絞り出した声にレイ君は動きが止まる。
「おばあちゃんは家族なんだから話してあげてよ」
「…………」
「関係ないなんて、そんなの寂しいよ……」
目を伏せると同時に涙が一筋頬を伝った。
時間は短かったはずだが重苦しい沈黙が続いた。
落ち着こうと一度すすり上げ、涙を拭った時だ。
「どうしたの」
後ろから声が聞こえた。
振り向くとカズ君が強張った顔で立っている。
「あ……」
カズ君は早足に私とレイ君の間へ割って入った。
「何があったの?」
カズ君の声が震えている。
しかしレイ君はその問いに答えず、青白い顔だけど強い目で私達を見ていた。
「何でもないの、ねぇ……」
ただならぬ気配に私はカズ君の腕を掴んでレイ君から離そうとする。だけど全くきかず、かえってより詰め寄っていった。
「何したんだ?」
「やめて!」
そのままつかみ掛かりそうな勢いに、私は全身の力を込めて引き止める。
「美紀ちゃんが泣いてるじゃないか!」
初めて聞くカズ君の怒鳴り声に私は一瞬ひるんだ。
「そこまでにしよう」
いつの間にかお兄ちゃんが戻って来ていた。
「カズ、美紀を連れて会場へ行きなさい」
「……はい」
カズ君から力が抜けていく。
「レイは車に乗りなさい」
レイ君は黙って頷くと、私達を見ずに車へ乗った。
「気をつけてね」
運転席のお兄ちゃんに声を掛ける。
「任せなさいって」
お兄ちゃんは返事をしながらさり気なく片目を瞑った。
それを見てレイ君の方はお兄ちゃんに任せて大丈夫だ、と思った。
カズ君はさっきの勢いが嘘のようにすっかり気が抜けていた。
駅に向かう途中も黙ったままで、ようやく口を開いたのは電車の中だった。
「怖がらせちゃったね」
幸い周りに人はいない。私はカズ君の手の上にそっと自分の手を重ねる。
「ちゃんと説明するから」
「うん」
カズ君はそのまま手の向きを返すと、私の手を強く握った。
出来るだけ客観的に話すようにはしたけど、カズ君は眉をひそめていた。
「やっぱりレイ君の態度は良くないね」
「そうかも知れないけど、とにかく今日はもう……」
私は弱弱しく頭を振る。これからコンテストだというのに、このままでは演奏に影響はないだろうか。
「大丈夫。音楽は別だよ」
そう言って笑うカズ君はもういつも通りだ。
「分かった。カズ君がそう言うなら」
レイ君はどんな事があっても演奏を完璧にこなす。それは信じている。
だからカズ君も信じよう。
目的地に着くまで繋いだ手はそのままだった。




