↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日のうたが聴こえる2  作者: 人見くぐい
PR
26/59

25 バレンタインデー(3)

私の言葉を聞いてカズ君の表情が徐々に変わってゆく。マフラーを受け取った時と同じ泣きそうな笑顔……というよりほとんど泣きそうだ。

今までそんな反応した事があっただろうか?

プレゼントをあげた時やバンドが成功した時とも違う。

私の言葉で喜んでくれるのは嬉しいけど。

(あっ……!)

色々と思い返してみても、私はカズ君に好きと言った事が無い。

誕生日カードへ『ずっと一緒に居たい』と書いた位だ。

確かに告白された直後は戸惑ってしまい、カズ君からの気持ちに対しては何も言えなかった。その後も二人で居る事があまりにも自然で、そのまま時が経っていた。

だけどそんなのは言い訳にもならない。カズ君はどんな思いで過ごしていたのだろうか。

この反応を見ているだけでも随分と待っていたに違いない。そう考えると胸が苦しい。

「私、ごめんなさ……」

「美紀ちゃん」

穏やかな声だった。カズ君は急いで目元を拳で擦ると微笑んだ。

「自惚れかも知れないけど、僕は美紀ちゃんの声や手の温かさを信じてたよ」

「…………」

「もちろん今の言葉、最高に嬉しい。ありがとう」

そんなカズ君の優しさは本当に申し訳なく思う。でもそう思う事はカズ君が望んでいないのだろう。謝ろうとしたのを遮ったのがその証拠だ。

「本当に私でいいの?」

「当たり前じゃないか」

一切のためらいもない答えに、今度は私が泣きたくなった。

その時カズ君がゆっくり一歩近付いた。私も自然とカズ君の肩先に軽く額を乗せる。これなら涙を見せなくて済む。

「これからもよろしくね」

「僕こそ、よろしく」

私が改めて挨拶するとカズ君は小さく笑い耳元で答えた。当たり前だけど、クリスマスに借りたコートと同じ匂いがする。すでに懐かしくて……安心する匂いだ。

そう考えていると、カズ君の左手がぎこちなくあがる気配がした。そしてそっと私の肘辺りに触れる。私は身体に一瞬力が入るけど、すぐもう少しカズ君に身体を預けた。

胸が締め付けられる感覚がするのに不思議と落ち着いている。徐々にカズ君の腕が背中までまわり力が……。


ボーン


突然何かが音をたてた。

「えっ」

思わず身体をおこすとカズ君も目を丸くして壁を見上げた。

鳴ったのは昔から居間にある柱時計。時刻は1時を指している。

「た、大変! 遅刻!」

練習が始まる時間だ。

レイ君は学校や約束に遅刻する事が多いくせに、練習時間はやたら厳しい。

「僕は先に出るから、美紀ちゃんはゆっくり来て」

「うん」

普段なら走りに自信はあるけど今日はロングスカートだ。さすがに全力疾走は難しい。

「僕が寝坊したから遅刻、だからね」

玄関先で靴を履きながらカズ君が言った。

「違う……」

「いいから。鍵を頼むよ」

そう言って笑いながら鍵を差し出す。

「気をつけてね」

「うん。また後で」

カズ君は外へ勢いよく飛び出していった。

カズ君を見送ったが私も早く行かなければ。家を出るときちんと施錠を確認し、急いでレイ君の家へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。