24 バレンタインデー(2)
今年のバレンタインデーは日曜日だ。
数日前にレイ君のおばあちゃんから今年もケーキを用意してくれると聞いていたので、バンド練習もありレイ君の家へ行く事にした。
しかしみんなの前でカズ君に渡すのは照れるので、先に渡そうとカズ君の家へ行く。
「ごめんくださーい」
『ハイ』
インターホンから聴こえるのはカズ君の声だ。いつもはお母さんが出るのに。
『開いてるよ』
「うん」
玄関から中の様子をうかがうと何やらバタバタしている。
「配達から戻ったら、ちょっと寝ちゃってさ」
カズ君がそう言って頭をかいた。
「あとちょっとだけど寒いから入ってて」
さすがに着替えていたが、まだ準備中らしい。
「おばさんは?」
「出かけてる」
「だから寝過ごしたのね」
「そうなんだ」
一階には人の気配がなく、おじさんも居ないようだ。
居間で座って待つ。まだ遅刻するような時間ではないが、それほどゆっくりは出来ない。
しばらくするとカズ君が二階から降りてきて居間に顔を出した。
「お待たせ。ゴメンね」
コートとギターケースを抱えていて、もう出発出来るようだ。
「ううん、大丈夫だよ」
「じゃあ……」
「待って、カズ君」
カズ君は玄関へ向かうが、私はカズ君のセーターの裾を掴んで引き止めてしまった。
「え?」
「チョコを渡したいの」
「あ……」
チョコを取り出すとカズ君に向き直る。
私はドキドキしているが、心なしかカズ君も緊張ぎみな面持ちだ。
「……どうぞ」
何か気の利いた事を言おうと思っていたけど結局何も出てこなかった。
「ありがとう」
ニッコリ笑うと両手で丁寧に受け取ってくれた。それから包みを見つめる。この辺にはない店だから気になったのだろう。
「竜岡さんが教えてくれたお店なの。美味しいよ」
「よく一緒にいる人だね。楽しみだな」
「……ごめんね」
私が謝ると、カズ君はキョトンとした顔をした。
「手作りじゃないし、お店も自分で探してないし」
「なんだ、そんな事関係ないよ。すごく嬉しいから」
カズ君はホッとした表情になった。しかしそう言ってくれるのは分かっていたので私の気持ちは晴れない。クリスマスを張り切っただけに、申し訳ない気持ちが強かった。
「クリスマス、頑張ってくれたもんね」
カズ君は優しく言った。
「あれはあれでとても嬉しかった。でもプレッシャーだったなら、ゴメンね」
「それはないけど……」
「とにかく美紀ちゃんが今日くれた事に意味があるんだ」
そう言った後、はにかんで笑った。
カズ君の言葉とその笑顔で胸が段々温かくなってゆく。他の人ではここまで嬉しい気持ちにならない。やっぱりカズ君は特別だ。
私は深呼吸をするとカズ君の目をしっかりと見つめた。『気の利いた事』じゃなく、今一番伝えたいことを言おう。
「そのチョコが本命なのは間違いないの。だから受け取ってくれて、ありがとう」
「うん」
カズ君も笑みを絶さないけど真摯に聞いてくれている。
「カズ君は特別な人だよ……大好き」




