第49話 賞金首より高く売れる男――そして『クロスロード』へ
四騎の馬が荒野を駆ける。
乾いた風。
砂煙。
先頭を走るのはパイク。
その前には圭介が座っていた。
後ろにはダッチ。
さらにテルマ、ルイーズ。
新生アウトレイジ・バンチ。
誰が見ても奇妙な一団だった。
そのさらに後方。
十五騎。
砂煙を巻き上げながら迫ってくる。
全員。
賞金稼ぎ。
ライフル。
ショットガン。
リボルバー。
好き勝手な武装で一直線に追ってくる。
ダッチが肩越しに振り返る。
「……しつけぇな。」
パイクも笑う。
「ああ。」
「次の森で撒く。」
その瞬間。
後方から野太い声。
「いたぞーーーッ!!」
「男だ!!」
「黒髪だ!!」
「捕まえろ!!」
さらに別の声。
「あいつは俺の男だ!」
「違う! 俺のだ!」
「市場に売れば一財産だ!」
「捕まえて皆で可愛がろうぜ!」
銃声。
パンッ!
パンッ!
弾丸が頭上を掠めた。
「なんでぇぇぇぇぇ!?」
圭介が悲鳴を上げる。
パイクが腹を抱えて笑う。
「はははっ!」
「人気者だな。」
「嫉妬するぜ。」
ダッチも吹き出した。
「賞金首でもねぇのにな。」
テルマが真顔で言う。
「市場価格。」
ルイーズも続ける。
「最高値。」
「男。」
「希少。」
「高級品。」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
圭介の顔色が変わる。
「そ、そのさ……。」
恐る恐る四人を見る。
「みんなは……。」
「そんなことしないよね?」
一瞬。
沈黙。
パイクが口角を上げた。
「どうだろうな。」
ダッチも笑う。
「俺の亭主になれば売らねぇ。」
テルマ。
「旦那。」
ルイーズ。
「家族。」
「売らない。」
圭介が固まる。
「家族じゃなかったの!?」
一拍。
ダッチが腹を抱えて爆笑した。
「ははははははっ!」
「冗談だ。」
肩を叩く。
「安心しろ。」
「エンジェル。」
「売るくらいなら命張る。」
テルマ。
「家族。」
ルイーズ。
「家族。」
パイクも笑う。
その笑顔は。
どこか昔を思い出すようだった。
(……楽しい。)
胸の奥で呟く。
(なんだ。)
(この男。)
賞金稼ぎ。
逃亡。
銃弾。
普通なら胃が痛くなる状況。
それなのに。
圭介が一人いるだけで。
空気が変わる。
笑ってしまう。
肩の力が抜ける。
(死ぬなら。)
(こんな連中と。)
(こんな時間も。)
悪くない。
自分の前に座る圭介の体温が背中越しに伝わる。
それだけで。
不思議と心が静かになった。
後方。
再び銃声。
「逃がすなーー!」
「男を寄越せーー!」
「お前らなんかどうでもいい!」
「男だけ置いていけ!」
パイクが吹き出す。
「俺たち。」
「完全に脇役だな。」
ダッチが頷く。
「賞金首なのに。」
「存在感ゼロだ。」
テルマ。
「ケースケ。」
ルイーズ。
「主人公。」
「やめてぇぇぇ!」
圭介の悲鳴が荒野へ響く。
やがて一行は森へ飛び込んだ。
木々が視界を覆う。
細い一本道。
その先。
道が二つに分かれている。
パイクが手綱を引いた。
「別れる。」
「陽動だ。」
ダッチが頷く。
「了解。」
テルマ。
「任せろ。」
ルイーズ。
「また後で。」
二手に分かれる。
パイクと圭介。
ダッチ、テルマ、ルイーズ。
馬は左右へ散った。
森を抜ける。
しばらく走る。
だが。
「……おかしい。」
パイクが呟く。
追っ手の気配がない。
静かすぎる。
風もない。
鳥も鳴かない。
圭介が後ろを見る。
「森が……。」
消えていた。
そこにあるはずの森がない。
広がるのは。
果てのない草原。
一本道。
空だけが異様に青い。
パイクの表情が変わる。
「こんな場所……。」
「知らねぇ。」
馬がゆっくり歩き始める。
その先。
十字路。
そこに一人の男が立っていた。
黒い帽子。
広い鍔。
羽飾り。
肩幅を強調する銀のストライプ入りズートスーツ。
白いシャツ。
黒いネクタイ。
磨き抜かれた革靴。
そして。
異様な仮面。
鳥の嘴のように長く突き出した。
ペストマスク。
風が止む。
男はゆっくり帽子へ手を添えた。
まるで舞台役者のように。
優雅に礼をする。
「ようこそ。」
両腕を広げる。
「クロスロードへ。」
パイクは拳銃に手を添える。
「……何者だ。」
男は答えない。
嘴の奥から。
低く笑うだけだった。
「ここは。」
「迷った者だけが辿り着く場所。」
「そして。」
「願いを叶える場所。」
一歩。
こちらへ近づく。
「さて──」
ペストマスクの奥の視線が。
まっすぐパイクを射抜く。
「お前の『渇き』は。」
一拍。
「何だ?」
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