第48話 悪党たちの朝は、今日も騒がしい。
数日後。
荒野のど真ん中にポツンと佇む、農場の隠れ家。
朝の光が薄いカーテンを突き抜けて寝室に差し込んでいた。
「うーん……なんか、狭い……」
圭介は圧倒的な息苦しさと押し潰されるような重圧で目を覚ました。
目を開けた瞬間、視界の全てを覆い尽くしていたのは──信じられないほど豊かな、二つの「肉感」だった。
眼前に迫る、薄いシャツを押し弾けさせんばかりの爆乳。
背中にもぐにゅりと押し付けられる、柔らかく温かい巨大な感触と荒い寝息。
「えっ、あ、ええっ……!?」
驚いて目を剥く圭介。
左右から抱き枕代わりに挟み込んできたのは、下着同然の格好をした獣人姉妹だった。
「ん……ケースケ、おはよう……」
ルイーズが大きなあくびをしながら、背後から圭介の腰に太ももを絡みつかせて抱きついてくる。
「朝ご飯……お願い。」
「でも、このままもう少し……」
テルマが圭介の頭を豊満な胸の谷間へ強烈にダイブさせた。
さらに、あからさまに圭介の引き締まったお尻を撫で回してくる。
「も、もう起きるからっ! 離して!」
「もうちょっとー」
甘ったるい声。
ピンと立った獣耳と、ふさふさの尻尾がブンブンと大きく揺れている。
「ねえ」
「「……やっちゃおうか?」」
ギラリと目を光らせ、悪戯っぽく口角を上げる姉妹。
「た、助けてーーーーっ!?」
絶叫が隠れ家に轟いた瞬間、バタン!!とドアが爆音を立てて弾け飛んだ。
「おいコラ!」
「 朝から盛ってんじゃねえぞ、バカ姉妹!」
堂々と飛び込んできたのは、下着の上に直接ベストを引っ掛けただけのダッチだった。
数十分後、ダイニングテーブル。
焼きたての香ばしいビスケット、熱々のスープ、カリカリに焼けた厚切りベーコン、そして目玉焼き。
「ご飯できたよ〜」
「うわあ……最近の生き甲斐、マジでこれだよね」
テルマが感涙にむせびながらスープを啜る。
「うん、幸せ。」
「ケースケ大好き」
ルイーズもモグモグと頬を膨らませる。
「飯が美味いって……最高だな、おい」
ダッチが豪快にベーコンを噛みちぎり、パイクも静かに頷いた。
「そうだな。」
「文句のつけようがない」
圭介はそっと胸の前で両手を合わせた。
「いただきます」
「おい、それ教会の祈りか? 似合わねえな」
ダッチが可笑しそうに笑う。
「違うよ。僕のいた国の風習さ」
「風習?」
「この食材を」
「与えてくれた人」
「育ててくれた人」
「買ってくれた人」
「料理した人」
「そして、この食材になった命そのもの。」
「すべてに感謝していただくって意味なんだよ」
しん、と静まり返るテーブル。
パイクは一瞬だけ呆気に取られたように肩をすくめると、真似をするようにそっと両手を合わせた。
「……いただきます」
「へえ……いい言葉じゃねえか」
隣に座るダッチが、がっしりと圭介の肩に腕を回した。
「お前のおかげで傷もすっかりいい。」
「ありがとな。」
「もうお前は、俺たちの『家族』だ」
「なら、良かったよ」
ニヤリと笑うダッチ。
その瞬間、むにゅっと豊かな胸が圭介の腕に容赦なく押し付けられた。
圭介が顔を赤くして固まるのを、ダッチは心底楽しそうに見つめる。
「で? どうだ?」
「 俺の亭主になる気はねえか?」
「ぶっっっ!────!?」
圭介が吹き出したスープが、真っ直ぐ対面に座っていたパイクの顔面を直撃した。
……静寂。
パイクは目を瞑り、ハンカチを取り出すと、何事もなかったかのように顔を拭った。
「朝から賑やかだな……」
「もう亭主みたいなもんじゃん」
テルマが口を挟む。
「うん。毎日一緒に寝てるし」
ルイーズも当然のように頷く。
「違うよ! 」
「勝手に僕のベッドへ潜り込んできてるんでしょ! 」
圭介が本気のジト目で抗議する。
……無言の獣人姉妹。
「「なんで?」」
心底不思議そうに首をかしげる二人。
「ゆっくり寝たいからだよ……!」
「「えーーーーーっ!!」」
露骨に嫌そうな顔をする姉妹。
圭介はさらに指を突き立てた。
「あと」
「 お風呂を覗くのもやめて!」
「わかった」
テルマが素直に頷く。
「じゃあ、最初から一緒に入るね」
「さすが姉貴! 名案だぜ!」
「もちろん俺も混ざるぞ。」
「狭い風呂で肌を寄せ合うのもオツなもんだ」
ダッチまで身を乗り出す。
「おい、ケースケはもう『家族』だ。手荒な真似をして嫌がらせるな」
パイクが低音で制止した。
ダッチは一瞬黙り込み、それから圭介をギュッと力強く抱きしめた。
「そうだな……『家族』だもんな。」
「命を助けてもらったしな」
ダッチは圭介の肩に顎を乗せ、そのまま首筋にチュッと音を立てて口づけをした。
「……っ!?」
「俺の『天使』だ。」
その言葉に食卓が少し静かになる。
パイクは黙ってコーヒーを飲んだ。
視線だけが圭介へ向く。
(……エンジェル。)
(確かにな。)
(あいつが来てから。)
(笑うことが増えた。)
そう思いながらも、その気持ちは口には出さない。
「俺の『天使』」
「最後の最後に、神様が俺の前に遣わしてくれたんだよな?」
愛おしさが抑えきれない様子で、すりすりと頬を寄せるダッチ。
「うん……めちゃくちゃいい匂いがするな」
「あ、あの……ダッチ、過度なスキンシップは……」
「ダメなのか? 家族ならこのくらい普通だろ?」
「でも、他の三人にはそんなことしないよね!?」
ダッチはキョトンとした顔になり、
「しないぜ? 」
「あいつらは女だからな」
あまりにも当たり前のように言い放った。
「仕方ねえな」
名残惜しそうに離れるダッチ。
圭介の心臓はバックバクだ。
「そ、それとみんな……」
「横を通り過ぎるたびに、お尻を触るのをやめてほしいかな!」
「「「「なんで?」」」」
全員の声が綺麗にハモった。
「挨拶だろ、それくらい」
ダッチが呆れたように言う。
「触らないなんて、逆に失礼だよ」
テルマが真顔で頷く。
「ケースケのお尻が『触って』って主張してる」
ルイーズが至極真面目に主張する。
「……諦めろ、ケースケ」
パイクが諦めたような苦笑いを浮かべた。
「えええええええええーーーーーーっっ!?」
無法者たちのアジトに、圭介の叫び声が響き渡るのだった。
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