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第47話 復讐の狼煙

 翌朝――。


 教会。


 牧師館の執務室。


 窓から差し込む朝日が机を照らす。


 その光だけが穏やかだった。


 部屋の空気は重い。


 誰一人、笑っていない。


 エレノア。


 ミリアム。


 ジャンゴ。


 三人は地図を囲んでいた。


 テーブルの上には、西部一帯の地図。


 赤鉛筆でいくつもの印が付けられている。


 最初に口を開いたのはエレノアだった。


「さて」


 一拍。


「ケースケを取り返す。」


 声は静か。


 静かすぎる。


 だからこそ恐ろしい。


「問題は――」


「どこにいる。」


 ジャンゴが腕を組む。


「昨日の狙撃。」


「当たった。」


「一人は重傷だ。」


「ああ。」


 エレノアは頷く。


「だから今もアジトにいる可能性は高い。」


「だが。」


「探せねぇ。」


 ジャンゴは地図へ目を落とす。


「西部には廃鉱山。」


「牧場。」


「廃村。」


「隠れ家なんざ山ほどある。」


「全部探してたら一年かかる。」


 沈黙。


 ミリアムが静かに口を開く。


「教会の伝手を使うわ。」


 二人が見る。


「この辺りの教会は全部つながってる。」


「巡回牧師。」


「修道院。」


「孤児院。」


「宿場町。」


「噂は意外と早く回るものよ。」


 エレノアが頷く。


「黒髪。」


「黒い瞳。」


「東洋人の男。」


「この国じゃ目立つ。」


「ええ。」


「見つかれば、すぐ連絡が来る。」


 ミリアムは穏やかに微笑む。


「ケースケは隠せる顔じゃない。」


 少しだけ。


 三人の表情が和らぐ。


 しかし、それも一瞬だった。


 エレノアは地図の一点を指で叩く。


「だが。」


「俺には心当たりがある。」


 ジャンゴが身を乗り出す。


「どこだ。」


 エレノアの指先。


 そこは国境近く。


 荒野の果て。


「――ホール・イン・ザ・フォート。」


 部屋の空気が変わった。


 ミリアムが目を細める。


「……『砦の穴』。」


 ジャンゴも眉をひそめる。


「噂だけは聞いたことがある。」


「本当にあるのか。」


 エレノアは短く頷いた。


「ああ。」


「ある。」


「古い砦跡だ。」


「今じゃ無法者の巣。」


 静かに続ける。


「賞金首。」


「密輸屋。」


「人買い。」


「脱走兵。」


「革命家。」


「殺し屋。」


「行き場を失った連中が流れ着く街だ。」


「法律はない。」


「保安官もいない。」


「あるのは銃だけ。」


 ジャンゴが口笛を吹く。


「嫌な街だ。」


「西部中のゴミ箱ってわけか。」


「違う。」


 エレノアは首を振る。


「墓場だ。」


「生きてる死人が集まる街。」


 沈黙。


 ミリアムがゆっくり息を吐く。


「あそこへ逃げ込まれたら厄介ね。」


「騎兵隊ですら追い返された。」


「町ごと要塞。」


「外から攻めても勝てない。」


 ジャンゴが笑う。


「じゃあ。」


「突っ込むのは無しだ。」


「当然。」


 エレノアの返事は即答だった。


「入る?」


 鼻で笑う。


「違う。」


 冷たい瞳。


 怒りだけが宿っている。


「出てきたところを殺る。」


 その一言で部屋の温度が下がった。


 ジャンゴは苦笑する。


「待ち伏せか。」


「俺好みだ。」


 エレノアは地図を丸める。


「銀行。」


「駅馬車。」


「列車。」


「あいつらは必ず仕事をする。」


「その時が狙い目だ。」


 ミリアムが確認する。


「ケースケを優先。」


「ああ。」


「撃つのは最後だ。」


「まず取り返す。」


 一拍。


 そして。


 エレノアは静かに拳を握る。


 その拳は震えていた。


 恐怖ではない。


 怒りだった。


「絶対にな。」


 ジャンゴはライフルを肩へ担ぐ。


「その顔。」


「昔のお前に戻ってるぞ。」


 エレノアは笑わない。


「そうかもな。」


「だが。」


 ゆっくりと扉へ向かう。


「今回は。」


 振り返る。


 青い瞳は氷のように冷えていた。


「賞金首だから追うんじゃない。」


 一歩。


「ケースケを取り返す。」


 また一歩。


「それだけで十分だ。」


 部屋を出る。


 扉が閉まる。


 静寂。


 ジャンゴは帽子を深く被り、小さく笑った。



「昔の顔だな。」


 ミリアムも静かに指を組む。


 祈りだけが、静かな執務室に残っていた。

☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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