第45話 悪党は約束を守る――だから、お前を迎えに来た。
翌朝。
教会。
牧師館の食堂。
大きな木のテーブルには、四人分の朝食が並んでいた。
焼きたてのコーンブレッド。
野菜たっぷりのスープ。
カリカリに焼いたベーコン。
半熟の目玉焼き。
湯気が静かに立ち上る。
「お待たせ」
圭介が皿を運ぶ。
「よし」
「食おうぜ」
エレノアが笑う。
ミリアムが手を組んだ。
「では、お祈りを」
全員が手を止める。
「この糧に感謝します」
「「「この糧に感謝します」」」
静かな朝。
フォークが皿に触れる音だけが響く。
「……うまい」
ジャンゴがスープを飲む。
「この味、好きだ」
「ええ」
ミリアムも微笑む。
「本当に料理が上手ね」
圭介は照れ笑いした。
「ありがとうございます」
「あ、そのパン取ってくださる?」
「はい」
コーンブレッドを渡す。
一口。
ミリアムの目が丸くなる。
「……これ、おいしい」
「隠し味に練乳を少し」
「なるほど」
ジャンゴも頷く。
「甘さが後から来る」
「いいじゃねぇか」
その横でエレノアが腕を組む。
「だろ?」
「圭介の飯は世界一だ」
なぜか胸を張る。
「お前が作ったんじゃないだろ」
「細けぇこと言うな」
ジャンゴが笑う。
だが。
その空気は長く続かなかった。
エレノアが真顔になる。
「……あいつら」
「もう俺の家が空なのは知ってるよな」
「ああ」
ジャンゴも頷く。
「引き下がる連中じゃない」
「教会は?」
「さすがに襲わないでしょう」
ミリアムは紅茶を口に運ぶ。
「教会まで敵に回したら、この辺境では生きていけない」
「……そうだといいが」
エレノアは小さく息を吐いた。
「もうすぐ朝のミサね」
「終わったら作戦を考えましょう」
礼拝堂。
朝日が色ガラスを照らす。
壇上にはミリアム。
その隣には白いチュニック姿の圭介。
礼拝客が静かに席へ座っていく。
その時だった。
ギィ……
教会の扉が開く。
四つの影。
黒いロングコート。
黒いカウボーイハット。
腰には二挺拳銃。
背にはレバーアクションライフル。
礼拝堂の空気が凍る。
パイク。
ダッチ。
テルマ。
ルイーズ。
アウトレイジ・バンチ。
パイクは帽子を脱いだ。
「朝から悪いな」
一歩。
また一歩。
「迎えに来た」
次の瞬間。
パンッ!!
銃声。
天井へ一発。
悲鳴が上がる。
「全員」
「動くな」
「そこにいろ」
同時に。
ダッチたちも銃を抜く。
礼拝客へ向ける。
一瞬で制圧。
さすがだった。
「帰りなさい」
ミリアムが一歩前へ出る。
「ここをどこだと思っているの」
パイクは静かに笑った。
「ああ」
「帰るさ」
「今日は金じゃない」
ゆっくり圭介を見る。
「迎えは一人だけだ」
その瞬間。
柱の陰。
エレノアが息を止める。
二挺拳銃。
安全装置解除。
(油断した)
(四人だけじゃねぇ)
(撃てる)
(でも)
(信者が死ぬ)
ミリアムと目が合う。
(出る?)
ミリアムは首を横に振る。
(だめ)
(人質が出る)
エレノアは歯を食いしばる。
(くそっ)
圭介とも目が合う。
小さく首を振る。
(来るな)
(お願い)
その仕草だけで伝わった。
パイクが笑う。
「エレノア」
「いるんだろ」
図星だった。
「借りはこれでチャラだ」
「だから」
「もう追ってくるな」
「それで終わりだ」
その一言で。
エレノアの怒りが爆発する。
柱を蹴る。
飛び出す。
二挺拳銃。
照準。
しかし。
テルマとルイーズが同時に礼拝客を捕まえた。
首筋へナイフ。
「撃てよ」
テルマが笑う。
「撃てるならな」
ルイーズも笑う。
「撃てねぇと思ってんのか」
エレノアの声が震える。
「ああ」
パイクは静かだった。
「今のお前は撃てない」
一歩。
また一歩。
「男を守るってのは」
「そういうことだ」
さらに笑う。
「賞金首に戻れるか?」
「その男の前で」
エレノアの指が震える。
引き金まで、あと数ミリ。
撃てる。
撃てば殺せる。
でも。
信者も死ぬ。
圭介が前へ出た。
「やめて」
全員が止まる。
「僕が行けば」
「誰も傷つけない?」
パイクは即答した。
「ああ」
「約束する」
一拍。
「悪党だが」
「約束だけは守る」
そして少し笑う。
「お前には嫌われたくないしな」
圭介は苦しそうに笑う。
「……もう」
「嫌いになりかけてるよ」
その一言だけ。
パイクの笑顔が一瞬だけ消えた。
しかし。
頷く。
「それでも迎えに来た」
圭介はゆっくり歩く。
一歩。
また一歩。
エレノアの横を通る。
「待て……」
震える声。
圭介は振り返る。
泣きそうに笑った。
「必ず戻る」
「約束する」
エレノアの拳銃が下がる。
圭介はパイクの隣へ立つ。
パイクは帽子を被り直した。
「帰るぞ」
四人が礼拝堂を出る。
扉が閉まる。
――バタン。
静寂。
エレノアの膝から力が抜ける。
拳銃が重い。
呼吸ができない。
前へ進めない。
守れなかった。
大切な男を。
次の瞬間。
「待てぇぇぇぇーーーーーッ!!」
絶叫。
教会中に響き渡る。
外。
朝日。
四頭の馬が走る。
圭介が一度だけ振り返る。
教会。
エレノア。
二人の視線が重なる。
パイクは帽子を深く被った。
「行くぞ」
土煙が舞う。
朝日に向かって。
アウトレイジ・バンチは圭介を連れ去り、西部の荒野へ消えていった。
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