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第44話 迎えに行く――荒野に響く銃声

 銀行の重い扉が、ゆっくりと開く。


 ギィ――。


 静寂が街を包む。


 その沈黙を破ったのは、四人の軍人だった。


 いや――違う。


 軍服をまとった強盗団。


 アウトレイジ・バンチ。


 先頭に立つパイクは、銀行員の首元に拳銃を突きつけている。


 その後ろにはダッチ。


 さらにテルマとルイーズ。


 四人とも、人質を盾にしてゆっくりと銀行を出てきた。


「……やっぱりな。」


 向かいの建物、二階。


 ライフルを構えたエレノアが、小さく舌打ちする。


「人質を使ってきた。」


 ジャンゴも屋上から覗き込み、苦笑した。


「手練れの強盗だ。」


「素人じゃねぇ。」


 その瞬間だった。


 パイクが顔を上げる。


 金色の瞳。


 青い瞳。


 二人の視線が、真っ直ぐ交わる。


 一瞬。


 ほんの一瞬だけ。


 互いに笑った。


 そして――。


 パイクが静かに引き金を引く。


 バンッ!!


「撃ってきた!」


 エレノアは窓際から身を投げ出す。


 銃弾が窓枠を砕き、木片が弾け飛ぶ。


 その銃声を合図に、周囲へ潜んでいたガンマンたちが一斉に姿を現した。


「撃てぇ!」


 荒野に乾いた銃声が連続する。


 ダン! ダン! ダン!


 弾丸が壁を削り、窓ガラスを粉々に砕いた。


「ちっ!」


 エレノアもライフルを構える。


 引き金。


 バン!


 一人。


 胸を撃ち抜かれ、馬から転げ落ちる。


 ジャンゴも同時に動く。


「俺も混ぜろ。」


 レバーアクションを素早く回す。


 ガシャッ。


 照準。


 パンッ!


 二人目。


 首を撃ち抜かれ、そのまま地面へ倒れる。


「右!」


 エレノアが叫ぶ。


「任せろ!」


 ジャンゴのライフルが火を噴く。


 三人目。


 四人目。


 正確すぎる射撃。


 逃げ場を与えない。


 しかし。


 パイクたちは止まらない。


 ダッチが銀行の客を盾にしながら後退する。


 テルマも。


 ルイーズも。


「撃つ?」


 テルマが笑う。


「撃ったら当たるよ?」


 ルイーズも悪びれない。


 エレノアは歯を食いしばる。


「くそ……。」


「人質が邪魔だ。」


 ジャンゴが冷静に言う。


「無理に撃つな。」


「奴らの狙いだ。」


 エレノアは一度だけ頷いた。


 そして。


 ライフルを背中へ回す。


 窓枠に足をかける。


「援護!」


「行ってくる!」


 次の瞬間。


 二階から飛び降りた。


 ドンッ!


 土煙が舞う。


 着地と同時に転がる。


 その勢いのまま立ち上がる。


 まるで獣だった。


 ガンマンたちが一斉に照準を向ける。


「殺せ!」


 だが。


 その前に。


 パン!


 ジャンゴの銃声。


 一人。


 パン!


 二人。


 パン!


 三人。


 狙撃。


 外さない。


「行け!」


 ジャンゴが叫ぶ。


 エレノアは一直線に駆けた。


 馬に乗ろうとするパイクの前へ飛び出す。


「ここまでだ!」


 ライフルを肩へ。


 照準。


 呼吸。


 引き金。


 パンッ!!


 一発。


 パイクが馬を横へ滑らせる。


 外れた。


 二発。


 パンッ!!


 ダッチの頬を弾丸がかすめる。


 赤い線が走る。


「惜しい!」


 ダッチが笑った。


「今日は当たりが悪いな!」


 テルマが笑う。


「当たったら困る!」


「困る!」


 ルイーズも笑いながら馬を走らせる。


 四人の拳銃が同時に火を吹く。


 ダン! ダン! ダン!


 砂煙。


 木片。


 弾丸が地面をえぐる。


 エレノアは身体を沈めながら走る。


 避ける。


 跳ぶ。


 撃つ。


 まるで踊るようだった。


 そして。


 ほんの一瞬。


 再び。


 パイクと視線が交わる。


 風が吹く。


 帽子のつばが揺れる。


 パイクは微笑んだ。


「またな。」


 馬首を返す。


 一気に路地へ飛び込む。


「逃がすか!」


 エレノアも駆ける。


 角を曲がる。


 だが。


 もう馬は遠い。


「ちっ……!」


 ライフルを構える。


 遠距離。


 最後の一発。


 息を止める。


 引き金。


 パンッ!!


 乾いた銃声。


 遠くで一人の騎手が馬から転げ落ちた。


 静寂。


 エレノアはゆっくり歩み寄る。


 帽子を蹴る。


 知らない顔だった。


「……手下か。」


 そこへジャンゴも追いつく。


 倒れた女を見下ろし、小さく息を吐いた。


「仕留めたのは手下だけだ。」


「パイクたちは逃げた。」


 エレノアは遥か彼方を見つめる。


 砂煙だけが残っていた。


「まあ、いい。」


「また会う。」


「今度は逃がさない。」


 風が吹く。


 荒野へ消えていく四頭の馬。


 その背を、エレノアは静かに見送り続けた。


 ◇ ◇ ◇


 三時間後。


 ロス・パソス郊外。


 アウトレイジ・バンチのアジト。


 テーブルの上へ袋がぶちまけられる。


 ジャラジャラと音を立てて転がる硬貨。


 ダッチが一枚拾い上げた。


「……ちっ。」


「ほとんど銅貨じゃねぇか。」


 テルマが袋を逆さにする。


 また銅貨。


 ルイーズも覗き込む。


「金貨ない。」


「ない。」


 肩を落とす。


 パイクは袋の底を探る。


 ようやく出てきた金貨は、ほんの数枚だった。


「事前の情報じゃ。」


「金貨が大量に入る日だった。」


 ダッチが頷く。


「読まれてたな。」


「エレノアか。」


「保安官か。」


「どっちでも同じだ。」


 帳簿をめくる。


 ダッチがため息をつく。


「弾代。」


「馬。」


「情報屋。」


「手下への報酬。」


 指を折る。


「……赤字だ。」


 テルマが固まる。


「赤字?」


 ルイーズも青ざめる。


「ご飯減る?」


 沈黙。


 パイクが突然笑った。


「ははっ。」


 ダッチも笑う。


「笑い事か?」


「もちろん。」


 パイクは椅子にもたれた。


「このまま帰るのは俺等らしくない。」


「だろ?」


 ダッチも口元を吊り上げる。


「ああ。」


「舐められっぱなしじゃ終われねぇ。」


 テルマとルイーズも立ち上がる。


「行く!」


「迎えに!」


「ケースケ!」


「迎えに!」


 パイクは胸ポケットから、一枚の銀板写真を取り出した。


 そこには。


 照れくさそうに笑う圭介。


 その姿を指で静かになぞる。


「待ってろ。」


 蛇のように口角がゆっくり吊り上がる。


「迎えに行く。」


 その一言だけが。


 静かなアジトに、低く響いた。

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