第42話 夜明け前の銃声――アウトレイジ・バンチはまだ笑っている。
三日後。
まだ夜も明けきらない。
世界は静かだった。
風だけが、乾いた草原を撫でていく。
その静寂を――
カツ……
カツ……
馬の蹄が裂いた。
エレノアの瞳が開く。
眠気は一瞬で消える。
「……来たか」
枕元のレボルバーを掴む。
隣で眠る圭介の肩を軽く揺すった。
「起きろ」
「ん……」
「どうしたの……?」
寝ぼけ眼の圭介。
「客だ」
エレノアは寝癖のついた金髪のまま立ち上がる。
薄い寝間着のワンピース姿。
だが、その腰には迷いなくガンベルトが巻かれた。
カーテンを指一本分だけ開く。
「……馬。」
「カウボーイハット。」
「コート。」
「七人。」
「ライフル。」
さらに裏口へ回る。
静かに覗く。
「裏にはいない。」
「真正面だけ。」
「素人。」
「雇われだな。」
淡々と結論を出す。
居間へ向かうと、そこにはもうジャンゴがいた。
狐耳を揺らしながら、レバーアクションライフルを組み上げている。
「来たか。」
ニヤリと笑う。
「手下だな。」
「どうする?」
「先に撃つか?」
「当然だ。」
エレノアは即答した。
「俺が玄関へ出る。」
「援護を頼む。」
「ああ。」
ジャンゴは頷く。
「お前が死んだら、その後は任せろ。」
「……縁起でもねえ。」
口元だけ笑うエレノア。
そして圭介を見る。
不安そうな顔。
手が震えている。
「大丈夫だ。」
優しく笑う。
「エル……」
「死なない。」
そう言って圭介の頬を撫でた。
「だから安心しろ。」
ジャンゴも静かに続ける。
「ケースケ。」
「ここから一歩も出るな。」
「あいつらの狙いは、お前だ。」
「……うん。」
圭介は銃を握る。
まだ慣れない重みだった。
窓の外。
四人が馬を降りる。
ゆっくり。
玄関へ近付いてくる。
残る三人は後方。
援護位置。
「来るぞ。」
エレノアが玄関のノブを掴む。
バタン。
ドアが開く。
その瞬間。
――パンッ!!
エレノアのライフルが火を吹いた。
一人。
倒れる。
レバーを回す。
パンッ!!
二人目。
撃ち抜く。
「撃てぇ!!」
襲撃者たちが叫ぶ。
ドドドドドッ!!
玄関へ銃弾が降り注ぐ。
木片が飛ぶ。
柱が砕ける。
窓ガラスが割れる。
エレノアは身を低くしたまま横へ滑る。
ライフル。
レバー。
装填。
発砲。
その一連の動きに無駄はない。
右手でライフル。
左手にはレボルバー。
二丁が交互に火を吹く。
パン!
パン!
襲撃者が吹き飛ぶ。
その時。
別方向から銃声。
バァン!!
ジャンゴだった。
二階の窓。
そこから狙撃。
馬上の敵が後ろへ倒れる。
「残り三。」
ジャンゴが冷静に呟く。
再び発砲。
バァン!!
もう一人。
馬から転落。
残る二人は逃げ始める。
「逃がすか。」
エレノアが前へ出る。
レボルバーを構えた。
パン!!
背中。
一人。
倒れる。
最後の一人。
馬へ飛び乗る。
全力で逃げる。
エレノアはライフルを肩へ。
レバー。
スピンコック。
一瞬。
照準。
パンッ!!
馬上の体が揺れた。
そのまま地面へ落ちる。
静寂。
また風だけが吹いた。
「終わりだ。」
ジャンゴが銃口を下げる。
「雑魚だったな。」
「様子見だ。」
エレノアも頷く。
「本命じゃない。」
◇
数百メートル離れた丘。
四頭の馬。
望遠鏡を覗く女たち。
パイク。
ダッチ。
テルマ。
ルイーズ。
望遠鏡の向こうでは、最後の襲撃者が倒れる。
ダッチが吹き出した。
「ぷっ……」
「ははは。」
「コントじゃねえか。」
「七人いて全滅。」
「端金で雇える連中なんざ、あんなもんだ。」
パイクは望遠鏡を下ろさない。
「十分だ。」
「戦力は見えた。」
「もう一人いる。」
「狐獣人。」
「腕がいい。」
ジャンゴの存在を確認する。
「だから言ったじゃん!」
テルマが胸を張る。
「俺たちが行けばいいって!」
「うん!」
ルイーズも元気よく頷く。
「俺達!」
「最強!」
二人でガッツポーズ。
パイクとダッチは顔を見合わせた。
「……で?」
ダッチが聞く。
「どうやって?」
「二人で?」
テルマが満面の笑みになる。
「簡単!」
「うん!」
二人同時に――
ダイナマイトを掲げた。
「「吹き飛ばす!!」」
沈黙。
風が吹く。
パイクとダッチはゆっくり視線を合わせた。
(やっぱり。)
(そう来るよな。)
ダッチがため息を吐く。
「ケースケも吹っ飛ぶぞ。」
また沈黙。
テルマとルイーズの笑顔が止まる。
「…………」
「…………」
しばらく考えたあと。
テルマが指を鳴らした。
「ケースケがいない時に吹き飛ばそう!」
ルイーズの目が輝く。
「さすが姉貴!」
「天才!」
ダッチが額を押さえる。
「いや。」
「ケースケはどうやって捕まえる。」
「…………」
「…………」
二人とも固まった。
「……どうする?」
「姉貴。」
「お前考えろ。」
「ルイーズが考えろ。」
また押し付け合いが始まる。
パイクは肩を震わせた。
「……くっ。」
「くくっ。」
珍しく笑う。
帽子の影で口元だけが緩んでいた。
「まあ、いい。」
馬へ跨る。
「帰るぞ。」
「もうすぐ仕事だ。」
ダッチも手綱を握る。
「手口は」
「まだ決めてねえ。」
「現地で決める。」
「相変わらず適当だな。」
「そこがいい。」
四人は笑う。
パイクだけは振り返った。
朝日が昇る。
エレノアの家を見つめる。
「ケースケ……」
小さく呟く。
「必ず迎えに行く。」
「今度は。」
「私自身が。」
帽子を深く被る。
手綱を鳴らす。
四頭の馬が荒野を駆ける。
朝日に向かって。
西部最悪の強盗団――
アウトレイジ・バンチは、静かに姿を消した。
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