第41話 奪われる前に――三人の共同生活
深夜。
ベッドを満たすのは、ついさっきまでの濃密な睦事の熱気。
肌と肌が擦れ合い、生々しく甘い匂いが室内に立ち込めている。
エレノアは、しっとりと汗ばんだ圭介の体をきつく抱き寄せた。
絶対に離さない。
誰にも渡さない。
腕の強さに、その執着がそのまま現れていた。
「……エレノア」
圭介がそっと名前を呼ぶ。
エレノアは答えない。
ただ寂しそうに微笑み、黒い瞳を見つめ返した。
圭介も静かに抱き返す。
「どこにも行かないでくれ」
小さな声だった。
けれど、その一言には震えが混じっていた。
「うん」
圭介は迷わず頷く。
「僕の居場所はここだから。」
「エルの隣だから。」
一瞬。
エレノアの肩から力が抜けた。
「……俺もだ。」
もう一度。
強く抱き締める。
それでも。
胸の奥の不安は消えなかった。
(俺と、あいつら。)
(何が違う。)
(結局は。)
(孤独で。)
(居場所を探して。)
(金を積んでも。)
(酒を飲んでも。)
(撃ち合っても。)
(満たされない。)
(だから。)
(あいつらも。)
(必ず。)
(圭介を欲しがる。)
エレノアは静かに目を閉じた。
翌朝。
教会。
執務室。
ミリアムは銀板写真を机に置いた。
「今後はケースケを一人にしないこと。」
「『迎えに行く』と言ったなら、本当に来るわ。」
「ああ。」
エレノアは短く返す。
「狙いは?」
「銀行。」
「列車。」
「駅馬車。」
「まあ、そんなとこでしょうね。」
「保安官にも知らせておく。」
一拍。
ミリアムは圭介を見る。
「……でも。」
「もう違うかもしれない。」
「え?」
「ケースケ。」
「あなた。」
「気に入られてる。」
圭介が目を丸くする。
エレノアはため息をついた。
「しかも。」
「パイクにな。」
「……あいつが男一人に執着するなんて。」
「初めて見る。」
部屋が静まり返る。
ミリアムが静かに結論を出した。
「次は。」
「銀行じゃない。」
「ケースケを迎えに来る。」
その一言で。
空気が張りつめた。
その夜。
エレノアの家。
「で。」
「俺が泊まるのか。」
狐耳を揺らしながら入ってきたジャンゴが肩をすくめる。
表情はいつも通り涼しい。
だが。
金色の尻尾だけは左右に忙しく揺れていた。
「ああ。」
「助かる。」
エレノアが頷く。
「どうせあいつらを追ってるしな。」
ジャンゴはそう言って笑う。
圭介は頭を下げた。
「ご迷惑をかけます。」
「気にするな。」
ジャンゴは自然な仕草で黒髪を撫でた。
「ついでだ。」
その瞬間。
エレノアが割って入る。
圭介を自分の胸元へ引き寄せる。
「触るな。」
「俺の男だ。」
ジャンゴは少しだけ目を細めた。
「……そうか。」
笑う。
穏やかに。
(今はな。)
その一言は胸の奥だけで呟く。
「飯くらいは期待していいだろ?」
「ケースケの料理。」
「楽しみにしてた。」
圭介が照れ笑いする。
「頑張ります。」
「相変わらず。」
ジャンゴはまた髪へ手を伸ばす。
「いい匂いがするな。」
「ほら。」
「また触った。」
エレノアが腕を払う。
「ほどほどにしろ。」
「そうか」
クールに答えながら、ジャンゴはスッと一歩踏み込んだ。
「いいじゃないか。」
「守ってやるんだ」
「な……っ」
「役得さ」
エレノアの制止を巧みにかわし、圭介の黒髪を再び優しく撫で、そのまま自然な動作で抱き寄せた。
この程度なら、護衛として自分が追い出されることはないと、計算し尽くしている。
豊かで柔らかい胸の感触が、圭介の腕や顔にむぎゅっと押し当てられた。
「あ……」
「相変わらず、いい匂いがするな……ケースケ」
耳元で囁かれ、その甘い吐息と肉体の弾力を全身で堪能する。
「これ以上はダメだ! いいな!?」
余裕のないエレノアの制止が跳ね返る。
アウトレイジ・バンチとの戦い。
そして。
圭介を巡る、もう一つの戦いが。
こうして。
エレノア、圭介、ジャンゴ。
三人の共同生活が始まった。
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