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第40話 宣戦布告――笑うコヨーテと黒い死神

 夕暮れ。


 教会の鐘が、街に長く響く。


「迎えに来たぜ」


 金色の髪を揺らしながら、エレノアが馬上から笑う。


「うん。帰ろう」


 圭介も微笑み、彼女の後ろへ飛び乗った。


 二人を乗せた馬が石畳を駆けていく。


 その背中を――。


 遠くから二つの影が見つめていた。


 コヨーテ獣人。


 テルマとルイーズ。


「あれがケースケの女か」


「俺たちの方が勝ってる」


「うん」


「勝ってる」


 本人たちは真顔だった。


 当然、小声のつもりだ。


 全然、小声ではない。


 エレノアの耳がぴくりと動く。


(……視線)


 ただの野次馬じゃない。


 距離を保ったまま。


 離れない。


(尾行か?)


 ちらりと後ろを見る。


「あっ」


「見た」


「バレた?」


「いや、まだだ」


「笑っとけ」


「おう」


 二人そろって満面の笑み。


(……素人か)


 エレノアはため息をついた。


「ケースケ」


「うん?」


「今日は何かあったか?」


「え?」


「実はさ」


「陽気な人たちに会って……」


「そうか」


(やっぱり、あいつらか)


 エレノアは手綱を切った。


「寄り道する」


 馬が大通りを逸れる。


 角を一つ。


 もう一つ。


 そのたびに、


「待てー!」


「ケースケー!」


 まったく隠れる気のない声が飛んでくる。


(……本当に尾行か?)


 市場。


 エレノアは馬を降りた。


「買い物でもするか」


 圭介も後ろを歩く。


 数十歩遅れて、


 テルマとルイーズも馬を降りる。


「尾行じゃないもんな」


「うん」


「偶然だからな」


「偶然」


 露店の前で止まる。


「あっ、リンゴ」


「一セントだよ」


「一つ」


「俺も」


 シャクッ。


 二人そろってリンゴをかじる。


 エレノアが振り返る。


「……」


「……」


「……偶然だから」


「偶然」


(なんなんだ、こいつら)


 そのまま歩き出す。


 もう一度振り返る。


 サッ。


 樽の後ろへ隠れる二人。


 しかし、


 耳が見えている。


 尻尾も揺れている。


(隠れる気あるのか)


 思わず額を押さえた。


 再び馬へ。


 今度は裏通り。


 細い路地。


 さらに曲がる。


 馬を降りる。


 静寂。


 しばらくして、


「姉貴がボーッとしてるから見失うんだよ!」


「お前もだろ!」


 言い争いながら現れる二人。


 そして、


「あ」


「あっ」


 真正面。


 エレノアと圭介。


「ケースケ!」


 テルマがぶんぶん手を振る。


「さっきぶり!」


 ルイーズも笑顔。


「迎えに来た!」


「うん!」


「迎えに来た!」


 エレノアは無言でリボルバーを抜いた。


 カチャリ。


「……」


「……」


「やべ」


「撤収!」


 二人は一目散に逃げ出した。


 砂煙だけが残る。


「テルマとルイーズだ」


 圭介が小さく言う。


「知り合いか」


「今日会ったんだ」


 エレノアは短く息を吐く。


(面倒なのに絡まれたな)


「帰るぞ」


「遠回りする」


 ようやく家へ戻る。


 ドアを閉める。


 鍵。


 窓。


 裏口。


 カーテン。


 異常なし。


 それでも、


 銃だけは腰から外さない。


 そこで初めて振り返る。


「……説明してくれるよな」


「うん」


 圭介は昼間の出来事を話し始めた。


 喧嘩の仲裁。


 食事。


 写真館。


「連行されたんだ」


「お前……」


 エレノアは額を押さえる。


「ついて行くな」


「ごめん」


「あっ、そうだ」


 圭介が紙袋を差し出す。


「写真」


 エレノアが取り出した瞬間――


 空気が止まった。


 銀板写真。


 中央には圭介。


 その周囲を囲む四人。


 パイク。


 ダッチ。


 テルマ。


 ルイーズ。


 裏返す。


 短い文字。


『近いうちに迎えに行く。必ず。――パイク』


 エレノアの指先に鳥肌が立った。


 静かに写真を戻す。


「……あいつらに会ったのか」


「うん」


「そうか」


 窓の外を見る。


 夕焼けが終わる。


 夜が来る。


「目をつけられたな」


「これは挨拶だ」


 圭介が不安そうに尋ねる。


「パトリシアさんたちって……」


「知らなくていい」


 エレノアは即答した。


「ろくな連中じゃない」


「でも……」


「あんな悪い人には見えなかった」


 首を横に振る。


「それが一番厄介なんだ」


 少し間を置いて、


「明日は教会だ」


「ミリアムにも話す」


 そう言って引き出しから一丁の拳銃を取り出した。


 圭介へ差し出す。


「持っとけ」


「僕が?」


「ああ」


「奴らは賞金首だ」


「次に会ったら」


「ためらうな」


「撃て」


 圭介は無言で拳銃を受け取った。


 その重さが、


 これから始まる戦いの重さのようだった。




 その頃――ロス・パソス郊外。


 アウトレイジ・バンチのアジト。


 扉が勢いよく開く。


「見つけた!」


 テルマが叫ぶ。


「女!」


「金髪!」


「ドクロのジャケット!」


 ルイーズが続ける。


 パイクは静かに頷いた。


「やっぱりな」


 ダッチが腕を組む。


「家は?」


 テルマとルイーズは顔を見合わせ、


「「見失った!」」


 元気よく答えた。


 ダッチは苦笑する。


「見失ったんじゃねぇ」


「撒かれたんだ」


「そういうことだ」


 パイクは肩をすくめ、ふっと笑った。


「いいさ」


「向こうも気づいた」


「これは――宣戦布告だ」


 ダッチも笑う。


「ああ」


「始まるな」


 テルマとルイーズだけが首をかしげる。


「「センセンフコクって何?」」


 沈黙。


 ダッチは額を押さえた。


「……だから、お前らはバカなんだ」


「褒められた!」


「イエーイ!」


 ハイタッチするコヨーテ姉妹を見て、パイクは思わず吹き出した。


「まったく……」


「でも、お前ららしいな」


 笑い声が、夜のアジトに響いた。


 そして、西部最悪の強盗団は静かに動き始める。

☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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