第38話 写真一枚。それが、運命を狂わせる。
街でも一番高いレストラン。
昼間だというのに店内は満席だった。
だが──。
客たちの視線は料理ではない。
黒髪黒目の青年。
その両隣に座る四人の女。
獣人のコヨーテ姉妹。
そして賞金稼ぎ二人。
周囲から見れば、
「男一人に醜女四人」
普通なら笑い話だ。
だが当人たちはまるで気にしていない。
「この肉うめぇ!」
テルマが骨付きステーキにかぶりつく。
「ソースも最高!」
ルイーズは皿を舐めそうな勢いだった。
ダッチはバーボンを煽る。
「……で。」
グラスを置く。
「ケースケ。」
「新聞の男だろ?」
圭介はフォークを止めた。
「新聞……?」
「ああ。」
「飲み比べで勝った男。」
「女のために決闘したって書いてあった。」
「あ、多分……それです。」
苦笑する。
「本当に決闘したのか?」
「はい。」
「連れの女性が侮辱されたので。」
「頭に血が上ってしまって。」
ダッチは口角を上げた。
視線だけでパイクを見る。
(本人だ。)
パイクも小さく頷く。
(噂以上だ。)
(馬鹿じゃない。)
(本気でやった。)
ルイーズが首を傾げる。
「侮辱って?」
テルマも考える。
「ぶどう?」
「違ぇよ。」
ダッチが笑う。
「馬鹿にするって意味。」
「あー!」
「それ!」
「最初からそう言えよ!」
「お前が知らねえだけだろ。」
「姉貴だって知らなかったじゃん。」
「……。」
「そうだった。」
「えへへ。」
「えへへじゃねえ。」
四人が笑う。
店員まで吹き出した。
ルイーズが身を乗り出す。
「じゃあさ。」
「今ここで。」
「私たちが侮辱されたら。」
「ケースケ。」
「助ける?」
食卓が静かになる。
圭介は少し考えた。
すぐには答えない。
その姿をパイクは黙って見ていた。
やがて圭介は小さく笑う。
「……多分。」
「助けると思います。」
「でも。」
「その時にならないと分かりません。」
「だから断言はできません。」
沈黙。
ダッチが笑う。
「真面目だな。」
パイクも苦笑した。
「適当に『もちろんだ』って言えば済む話なのに。」
「……そういうところ。」
「勘違いされるぞ。」
テルマとルイーズを親指で示す。
「特にな。」
「もう遅い。」
「俺たち結婚する気だから。」
「します。」
「勝手に決めないでください。」
「まだ式場も決めてねぇぞ。」
「そこじゃありません。」
パイクは静かに笑う。
(変な男だ。)
(女を喜ばせる嘘を吐けない。)
(珍しい。)
「羨ましいな。」
パイクが肉を切りながら呟く。
「その女。」
圭介は自然に笑った。
「エレノアです。」
「無事で良かった。」
その一言。
空気が変わる。
ダッチの動きが止まる。
パイクのナイフも止まる。
二人だけが目配せした。
(エレノア?)
(まさか。)
(あいつか。)
(生きてたのか。)
「……その女。」
「恋人か?」
パイクは何気ない口調で聞く。
「ええ。」
照れくさそうに笑う。
「お互いの気持を確かめました。」
「僕はそう思っています。」
テルマ。
ルイーズ。
完全停止。
「……え?」
「え?」
「失恋?」
「俺たち?」
「早くね?」
「一日だぞ?」
「人生最速記録だ。」
「まだ始まってもいねえ。」
「終わった。」
「終わった。」
二人は同時にテーブルへ突っ伏した。
ダッチが笑う。
「ケースケ」。」
「その女。」
「俺たちみたいなブスなのか?」
圭介は首を横に振る。
「そんなことありません。」
そして。
四人を順番に見る。
「皆さん綺麗ですよ。」
四人。
完全停止。
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「特に。」
圭介はパイクを見る。
「パトリシアさん。」
「映画女優みたいです。」
「ペネロペ・クルスに似ています。」
パイクが眉を上げる。
「誰だ?」
「有名な女優です。」
「すごく綺麗な。」
パイクは照れ隠しに鼻を鳴らす。
「……そうか。」
「褒め言葉なら。」
「ありがとよ。」
ダッチは横で吹き出した。
(こいつ。)
(照れてる。)
(珍しいもの見た。)
食事を終え。
五人は店を出る。
その時だった。
向かいに写真館。
パイクが立ち止まる。
「あ。」
「写真。」
ダッチも振り返る。
「いいな。」
テルマ。
「撮ろう!」
ルイーズ。
「カップル写真!」
「今日の戦利品!」
「違います!」
圭介が慌てる。
しかし。
両腕はもう塞がっていた。
テルマが右腕。
ルイーズが左腕。
ぎゅっと抱きつく。
「連行〜♪」
「逃がさねぇ〜♪」
「ちょっ、近い!」
「胸が!」
「当ててんだよ。」
「違う!」
「偶然!」
「偶然だ!」
「息ぴったりですね……。」
ダッチが腹を抱えて笑う。
パイクは額を押さえた。
「お前ら。」
「少し静かにしろ。」
「写真屋まで聞こえてる。」
「いいじゃねえか。」
「記念だ。」
そう言うパイクの口元も、
少しだけ緩んでいた。
(……この男。)
(笑うと。)
(周りまで笑わせる。)
(だからエレノアは。)
そこまで考えて、
思考を止める。
(余計なことを考えるな。)
(もしかしたら、敵の男だ)
そう自分に言い聞かせながらも、
パイクは誰よりも最後まで、
圭介の背中から目を離さなかった。
そして、この一枚の写真が──
後に「アウトレイジ・バンチ」とエレノアを巻き込む、大騒動の火種になることを、この場の誰もまだ知らなかった。
☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。
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