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第37話 アウトレイジ・バンチ、全員恋に落ちる。

 パイクは、黒髪の青年を静かに見つめた。


 おそらく。


 新聞で見た男。


 酒豪ジェシカを倒した東洋人。


 だが――


 目の前にいる青年は、そんな武勇伝とは結びつかないほど穏やかな笑みを浮かべていた。


 少しだけ目を細める。


「……私の名前は、パトリシア・ビショップ」


 通り名は名乗らない。


 必要ない。


 青年も小さく頭を下げた。


「ケイスケ・ツボイです」


 その横から、


「俺はテルマ!」


「妹のルイーズ!」


 二人が同時に胸を張る。


「俺はアニエス・ボルグだ」


 ダッチも陽気に笑った。


 その瞬間だった。


 圭介の表情から警戒がふっと消える。


 柔らかな笑顔。


 その笑顔を見たパイクは、


(……なんだ、こいつ)


 と眉を動かした。


(俺たちを見ても、嫌そうな顔をしない)


 ダッチも目だけで返事をする。


(ああ。)


(新聞の男で間違いねえ。)


 テルマが待ってましたとばかりに口を開いた。


「このブラザーさ!」


「俺たちの命の恩人!」


「そうそう!」


 ルイーズも勢いよく頷く。


「ヒューマンどもに絡まれてたら!」


「助けに来てくれて!」


 テルマが両手を広げる。


「俺の女に手ぇ出すな!」


 ルイーズも続く。


「って言ってくれてさ!」


「「かっこよかったぁ!」」


「言ってません」


 圭介が即座に否定する。


 一拍。


 ダッチが腹を抱えて笑い出した。


「はははははっ!」


「いいな、お前!」


「最高じゃねえか!」


 笑いにつられ、テルマとルイーズも笑う。


 街角の空気が一気に軽くなった。


 ダッチが親指で酒場の方を指す。


「腹減った。」


「飯行くぜ。」


 圭介は笑う。


「じゃあは……僕は教会に戻ります。」


 沈黙。


 全員が止まる。


「……は?」


 ダッチが聞き返す。


 テルマも固まる。


 ルイーズも固まる。


 次の瞬間。


「何言ってんだ!」


「ケースケも行くだろ!」


「当然!」


 右腕にテルマ。


 左腕にルイーズ。


 二人が同時に抱きついた。


「「連行〜♪」」


「えっ!?」


 柔らかな胸が腕に触れる。


 圭介の顔が一瞬で赤くなる。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「まだ仕事が!」


 テルマは笑う。


「神様なら許す!」


 ルイーズも頷く。


「俺たちみたいな女と遊ぶのも立派な奉仕!」


「違うと思います!」


 圭介の必死なツッコミ。


 ダッチがまた笑う。


「気に入った。」


 パイクが呟いた。


「今日は奢る。」


「街一番の店だ。」


「金ならある。」


「賛成!」


「肉!」


「酒!」


 コヨーテ姉妹のテンションが一気に上がる。


 その時だった。


 ルイーズが不意に圭介へ顔を寄せた。


「……ん?」


「どうしました?」


「いい匂い。」


 くん。


 もう一度嗅ぐ。


「うわ、ほんとだ。」


 テルマまで首元へ顔を寄せる。


「ケースケ、めちゃくちゃいい匂いする!」


「えっ!?」


 困惑する圭介。


 ダッチも興味本位で近づいた。


「どれ。」


 そっと肩口へ鼻を寄せる。


 一瞬。


 目が丸くなる。


(なんだ、この匂い。)


(安心する。)


(酒でも煙草でもねえ。)


 思わずパイクを見る。


 視線だけで伝える。


(……本当だ。)


 パイクは首を横に振った。


(私はいい。)


 だが、その横顔はほんの少しだけ気になっている。


「み、皆さん。」


「近いです……。」


 圭介は困り果てている。


 けれど、


 嫌そうにはしない。


 突き放しもしない。


 その優しさが、四人には何より新鮮だった。


 テルマが肩へ額を乗せる。


「神様。」


「ありがとう。」


 ルイーズも頷く。


「こんな男、初めて。」


 テルマが拳を握る。


「決めた。」


「なるべく銃を撃たない。」


 ルイーズも真似する。


「俺も。」


「ダイナマイト控える。」


 少し考え、


「……たぶん。」


「たぶんかよ。」


 ダッチが呆れて笑う。


「出来もしねえ約束するな。」


 テルマとルイーズは顔を見合わせ、


「えへへ。」


「ばれた。」


 二人同時に笑った。


 その様子を見ながら、パイクは静かに圭介へ視線を向ける。


(不思議な男だ。)


(美人にも。)


(醜女にも。)


(獣人にも。)


(誰に対しても態度が変わらない。)


 そんな男を、彼女は今まで一人も知らなかった。


 そして、その瞬間。


 パイク自身もまだ気づいていなかった。


 ――この青年を攫うことになる未来を。


 ――そして、そのことを誰よりも後悔する未来を。

☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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