第34話 愛しい腕の中で眠る夜
ちゃぷ、ちゃぷ。
木製の湯船から、静かな水音が響く。
漂う白い湯気。
浴室ならではのエコーがかかった空間。
エレノアは、後ろから重なる圭介の胸に、背中をすっぽりと預けていた。
圭介の手が、湯の中でエレノアの引き締まった腰にそっと回る。
二人の肌と肌が密着する。
「……湯船も、悪くないな」
「うん」
圭介は肩越しにエレノアの体を抱きしめた。
肌を撫でる温かいお湯と、青年の体温。
「なあ」
「ん?」
「俺のこと、好きか」
エレノアが上目遣いで圭介を見上げる。
そのまま自嘲気味に目を瞑り、肩をすくめた。
「……今更だな」
「うん」
「確認したかっただけさ」
分かっている。
分かっているけれど、聞きたい。言葉にしてほしい。
もう自分は一人ではないのだと、確かめたい。
エレノアは湯の中でくるりと向きを変えた。
圭介の首に手を回し、唇を塞ぐ。
「んっ……」
長い、長い口づけ。
吐息がお湯の熱と混ざり合う。
ゆっくりと唇が離れる。
銀色の糸が、名残惜しそうに引いて途切れた。
風呂上がり。
ソファに座る圭介の膝の上に、エレノアは頭を乗せていた。
グラスの琥珀色を傾けながら、まどろむ。
圭介はエレノアの濡れた髪を指で撫でながら、片手で本を開いていた。
エレノアはわざと手を伸ばし、その本を押し下げる。
「最愛の恋人を置いて」
「ん?」
「本を読むなんてな」
悪戯っぽく微笑むエレノア。
「ふふっ。エルだって、お酒飲んでるじゃないか」
圭介がくすりと笑う。
「いいのさ」
エレノアは寝返りを打ち、顔を圭介のお腹の方へ向けた。
枕にしている腰にギュッと腕をまわす。
ぐりぐりと、顔を膝に押し付けた。
「ここは俺の場所だからな」
「はいはい」
「……今日は少し、シスターに貸したけど」
「まだ言ってるの?」
「言うさ。」
「俺のだからな」
寝室。
エレノアのベッドに、二人で潜り込む。
それが、当たり前になった。
(……こんな毎日が、続けばいいな)
胸の奥がじんわりと温かくなり、自然と頬が緩む。
エレノアは自分から圭介に抱きついた。
「ふふ。お前は可愛いな」
耳元で囁く。
「エルも、綺麗だよ」
また、唇が重なる。
互いの体温を確かめるように、衣服を脱ぎ捨て、身体を重ね合わせた。
「んっ……あ……」
思わず、甘い声が漏れる。
「綺麗だ……エル」
何度も、何度も、互いを求め合った。
甘い痺れが全身を駆け巡り、エレノアは夜が深まるまでに、何度も果てた。
深夜。
静まり返った部屋で、二人はついばむような軽いキスを何度も繰り返していた。
「ケースケ。聞いてくれ」
「うん」
「俺には、お前しかいない」
圭介をきつく抱きしめた。
「今日……シスターに激しく嫉妬した」
「うん」
「重いよな。」
沈黙。
「……うん。」
「少しね」
固まるエレノア。
「でも」
圭介はにこやかに微笑んだ。
「嬉しいよ」
エレノアはほっと息を吐き、安堵に胸を撫で下ろした。
「……居場所なんだ」
「え?」
「お前の隣が。」
「俺の居場所なんだ」
「うん」
「俺には、お前しかいないんだ」
「僕もだよ。」
「エル」
もう一度、唇を重ねる。
暗闇の中で、二人の絆を深く、深く確かめ合うように。
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