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プロローグその2 恋愛の神様は、まさかの義姉でした。

 圭介の視界が、真っ白な光に包まれた。


 足元が消えたような浮遊感。


 次の瞬間――。


 見慣れた境内に立っていた。


 家の近所にある、小さな神社。


 壺新溜つぼにいる神社。


 鳥居の前に、一人の女性が立っていた。


 銀色の長い髪。


 白い斎服。


 神々しいほど整った顔立ち。


 年は二十代後半ほど。


 その女性が、ゆっくりと微笑む。


「よく来たの、圭介。」


「お主の願い――成就させてやろう。」


 沈黙。


 圭介は目をぱちぱちさせた。


「……え?」


倍美ますみ義姉ちゃん?」


 女性の笑顔が固まる。


「…………。」


「そうじゃが。」


「いや、そうじゃないんじゃ。」


 額に青筋を浮かべる。


 倍美ますみ


 兄・壮介の妻。


 昔から近所のお姉さんとして世話になった人だった。


「兄貴との新婚生活どう?」


「それがのぅ。」


「壮介のやつ、妾にべったりでな。」


「へぇ。いいじゃん。」


「いや、今その話ではない。」


「ここでは妾はツボニールじゃ。」


「へぇ。」


「倍美義姉ちゃんって外国人だったんだ。」


「銀髪だし。」


「違うわ!」


 ツッコミが神社中に響いた。


 深いため息を吐き、ツボニールは居住まいを正す。


「改めて名乗ろう。」


「妾は縁結びを司る神。」


「ツボニールじゃ。」


 圭介は腕を組んだ。


「本当に?」


「うむ。」


「その割に結婚遅かったよね。」


「しかも兄貴と。」


「結構意外だった。」


「…………。」


「お主ら兄弟は。」


「ほんと人の心を抉るのが上手いのぅ。」


 頭を抱えるツボニール。


 やがて咳払いを一つした。


「よい。」


「本題じゃ。」


「お主の願いは受理した。」


「五日後。」


「迎えに来る。」


「それまでに今までの人生へ別れを告げよ。」


 圭介は首を傾げる。


「別れ?」


「そうじゃ。」


「病室に縛られた心。」


「病に縛られた身体。」


「全部置いてこい。」


「お主は自由になる。」


 その言葉が終わると同時に――


 世界が反転した。


 ◇


 目を開く。


 病室だった。


 ベッドの横では壮介が優しく笑っている。


「準備だね。」


 圭介は何も答えられなかった。


 夢だったのか。


 それとも。


 五日後。


 その答えは出た。


 ◇


 深夜。


 気付けば真っ白な空間に立っていた。


 床も壁も天井もない。


 ただ白だけが続く世界。


 その中央。


 巨大な樫のデスク。


 革張りの椅子。


 ホワイトボード。


 パイプ椅子が一脚。


 そして。


 グレーのパンツスーツに銀縁眼鏡を掛けたツボニールが立っていた。


 学校教師のような格好で腕を組んでいる。


「座れ。」


 促されるまま革張りの椅子へ腰掛ける。


 ふと机を見る。


 そこには金文字で書かれていた。


『宇宙一の恋愛コーディネーター』


(……胡散臭い。)


 思った。


 でも口には出さない。


 倍美義姉ちゃんを怒らせると怖い。


 それだけは子どもの頃から知っている。


 ツボニールは一枚の紙をめくる。


「では面接を始める。」


「名前。」


「壺井圭介。」


「年齢。」


「二十。」


 カリカリとペンが走る。


「趣味。」


「映画。」


「特に西部劇。」


 またメモ。


「理想の女性。」


 圭介は迷わず答えた。


「西部劇に出てくるような。」


「強くて。」


「格好いい女性。」


 ツボニールが何度も頷く。


「なるほど。」


「惜しい。」


「実に惜しい。」


「?」


「条件にぴったりの女性がおった。」


「でも結婚した。」


「惜しかったのぅ。」


「タッチの差じゃ。」


 圭介は苦笑する。


(どうせ自分のこと言わせたいんだろ。)


 なら付き合ってやる。


「俺もいたよ。」


「近所に。」


「倍美さんって人。」


「兄貴に取られた。」


 ツボニールは満足そうに指を鳴らした。


「ほう。」


「女を見る目は合格じゃ。」


「え。」


「合格。」


「何が?」


「それはこれから説明する。」


 ツボニールは一冊の分厚いファイルを机へ置く。


 ドンッ。


 表紙には大きく書かれていた。


『異世界恋愛適性審査資料』


 さらにホワイトボードへ向かう。


 カツン、とマーカーのキャップを外した。


「さて。」


「ここからは授業じゃ。」


「お主がこれから行く世界。」


「そして。」


「お主へ授ける力について説明する。」


 ツボニールが不敵に笑う。


「長くなるぞ。」


 圭介はごくりと唾を飲み込んだ。


 彼はまだ知らない。


 その世界が――


 自分の知る常識とは何もかもが逆転した世界であることを。

☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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