33話 クミ①
「クミは前の彼氏と別れてどのくらいなんだ?」
今回はコースに飲み放題が付いている。揚げ枝豆を齧りながらクミに聞いてみる。
「もう半年以上いないよ、俺君は?」
「恥ずかしながら、俺はまだ彼女出来たことないんだよなあ。クミはチップルで何人か会ったりした?俺はクミで4人目だけど」
「絶対ウソ!なんか女慣れしてる感じするもん!私は何人か会ったよ、けど付き合うとかそういう感じじゃなかったなあ」
最高の褒め言葉いただきました!なのだが、本当である。最近のモテ修行の成果が出ているのかも知れないが、彼女はいた事はない。そして当分は作るつもりもない。なんせ修行中の身なのだ。
「じゃあ俺は今回も脈なしか、今日は飲むしかないな」
と、軽い探りを入れてみる。
「そんな事ないよ?俺君落ち着いてるし、一途そうだし」
クミはちらりと上目遣いで俺を見る。なんだ、このいける予感は。
「ずるいって、そういうこと言ったら俺ぎこちなくなるから!」
基本的には翻弄されている男であるのが俺の今のスタンスだ。
クミはやりもく無理とプロフィールに書くくらいには警戒心が強い。きっと嫌な思いをしたことがあるのだろう。
ここは安心感を持たせる為に精神的優位に立たせた方が良い気がする。
「俺君って、ずっと子供の父親のこと聞かないよね、それってわざと?」
「ああ、言いたくなったらクミから言うかなと思ってたから。俺がほじくって良い話題でもないと思うし」
「えらいね、気が使える人じゃん」
「そうか?普通だ普通」
何回かあったのだが、女に褒められた時に「普通」と返すと何故か好感度が上がるようなので「普通」は便利な言葉だ。
「出来たって言ったそのときは産んでくれ、結婚しようなんて言っといてさ、何日かしたらラインでやっぱりオレ達の将来のために今は子供は早い気がするとか言ってきてさ、そこで冷めちゃって、もういいわ、1人で育ててやるって思ったんだよね。」
「そっか。今いくつ?」
重い話は正直苦手だ。まだ学生の俺はそういう内容を話すと人生経験の無さで薄い言葉しか吐けなくなるからだ。
「2歳。男の子だよ。写真見る?」
クミがスマホの写真を見せてきたので見せてもらう。顔が近付き、クミの匂いがしたが意識していないふりをする。意識しているのがバレるとまずい。
「すげえな。頑張ったな」
素直にそう思った。
「すごい?」
「子供って夫婦で育てても大変って言うのに、1人で育ててるんだからクミはすごいよ」
クミは少し黙って俺を見た。少し目が潤んでいるような気が…
「大変だね、って言う人はいるけど…頑張ったな、すごいなって言われると刺さっちゃうのかも。ごめんね」
「いや、すまん。泣かせるつもりは、」
「これで俺君がやりもくだったらすごいよ、この人ならってちょっと思っちゃった」
この日本には根っから悪い奴はまあいない。そこを理解した上でもクミは純粋ないい奴だ。同じ年の奴らが遊んでいる時間を子育てに使ったからだろうか。
もう少し押せば行ける気はしたが、俺はその純粋さにつけ込む気にはなれなかった。
「俺はやりもくじゃねえから大丈夫だけど、クミは変な男に引っかかりそうで心配だよ」
「私がバカだって言いたいのー?まあ今も引っかかりそうだけど。」
「誰に?」
クミは無言で俺を指差した。そういうとこだよ、と俺は笑った。




